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かみどろ! -異界転写の女騎士-  作者: 賀来大士
二日目: 準決勝A
69/106

69 挑発

「お待たせいたしましたッ!! 準決勝進出者のオォォ入場だ~~~~!」


 そして。

 けたたましい実況に押されて、尭史はゲーム会場へと繰り出した。

 観客は変わらず人に満ちている。心なしか声がさらに大きくなっている。その中にブーイングが混ざっているのも聞き取れはしたが、そればかりでもない。

 けれどなんであれ、いまの尭史の気を揺さぶるようなものではなかった。


 少しばかり気になることといえば、動画配信サイトで行われている実況配信の方だった。

 自分の顔を直接見たこともない人間たちには、どう思われているんだろう……と、単なる興味がちらついた。なにも恐怖や期待があるわけではなかった。自分のことを一歩引いて見れるような冷静さが、彼の中には揺蕩(たゆた)っていた。


「東は千葉代表、鮎川尭史選手だあ~ッ! これまで物議を(かも)す神ドローを呼び起こしてきた手腕で、今回も勝利を引き寄せるかあ~~~~ッ!?」

(択ゲーに勝っただけみたいな紹介、勘弁して欲しいなあ)

 作り笑いの裏で毒づく。


「対する西は大阪代表、逆嶋謙造ッ! 絶対の賭博と言うべき豪運を引っ提げて、この場にやって来たぞオオオォォォォ!!」

 尭史とは逆のサイドから来た逆嶋は、いつものようにムスっとしている。身体中から煙草の臭いが立つかのようである。尭史は一瞬顔をしかめて、作り笑いをまた上からかぶせた。


「ああ、また」

 それと同時に、ジェローナもまた露骨に顔をしかめた。

「視線の感覚だわ」

(やっぱ逆嶋も『持ち主』だってことか)

「そうね。まあ、じきに知れるでしょうけど。判っていてもいい気はしないわね」

 斬り合いになるべくもないのに、腰元の柄頭(つかがしら)を指でなぞった。


「ではここで逆嶋選手。意気込みの方はいかがでしょうか」

「んなもん決まとるわ。瞬殺や」

「ミッドレンジで瞬殺宣言! 大きく出た逆嶋選手、気合い十分と言ったところでしょうかッ!」

(気合い十分なんて話か今の!?)

 ひょっとしてギャグなのかと、尭史は身構えるほどだった。実際、観客席から小さな笑い声が漏れていた。だが逆嶋の様子は相変わらずである。

「では鮎川選手どうぞ!」


(なあこれ対抗して笑わせなきゃダメか!?)

「私に訊かないでよ! ほらマイク向いてるわよ!」

「えっあ、お」

 ちょっと浮ついたまま、尭史は頭に浮かんだことをそのまま言った。



「お前のデッキはカスだな」



「お前が言うなや!」

 反応は早かった。逆嶋がツッコむと会場は大爆笑である。

 うっかり尭史もつられて笑った。あの逆嶋でさえ、強面が変に歪んでいる。笑いをこらえているのは明白だった。

 純ハイランダーデッキの扱いなど、こんなのである。


 実況者はまだ笑いながら、またマイクを尭史に向けた。

「鮎川選手絶好調じゃないですか。全部持って行きましたね」

「このデッキを選んだ狙いはこれですよ」

「結構身体を張った芸しますね!?」

 なんかちょっと実況者はたじろいでいる。尭史の扱いに困っているのかと、ジェローナは推理した。


「ねえ尭史」

(あんだい)

「私の存在も芸の一環に含まれてるのかしら」

(難しい質問だ)

「進んで否定するわけじゃないのね……」



「さあ、それではお二人とも、席へお着きください!」

 尭史は一瞬、逆嶋に睨まれたような気がした。しかし両者とも声はあげなかった。

 二者がダイスを握り、先手後手を決める間も、実況は話し続ける。


「解説の桂木さん、今年のスクロールカップは大荒れですね!」

「はい。tierリストがこれほどまでに作用しなかった大会は、SNoW史上でも初でしょう。白青パーミ、ゴーストアグロといった優勝候補筆頭のデッキが、ベスト4にまったく入ってこないという事態は、私もまったく予想ができませんでした」


「tierは通常、どの程度の信用があるのでしょうか? つまり、大半の大会ではどの程度tier上位のデッキが食い込むのでしょうか」

「七割以上と言ってもなお足りません。フレッシュ構築ならまた話は変わるんですがね。長く実績を保っているカードを多く使えるルールであればあるほど、信用度は上がるものです。今大会と同じエキスパート構築だと、ベスト16全員のデッキがtier1ということもザラですね」


「今回が特異であることがよくわかりますね!」

「一応、実験段階のデッキを持ち込む選手というのは、実のところ、少数ながら例年いるんですけどね。しかしそれが一人ならず、ここまで勝ち残るというのは、きわめて珍しいです」


 実況がカメラに向き直った。

「おっと、ここでお二人のマリガンまで済んだようですね。先手逆嶋、後手鮎川のようです! では、ーー」



 実況がそこまで言ったとき、尭史はその手でしっかとジェローナを握っていた。

(さ、やろうぜ)

「まかせて」


 サエナイ因子を斬り換えてあげるわ! 

 二人は声を合わせた。間違いなく高らかに、口上を揃えた。

 しかしその声は、どこか遠くにあるかのようで。

 二人の耳に届かず、立ち消えた。


「……なんだ?」

 ただしそのことに、ついぞ尭史は気づきもしなかった。

 ほんの一瞬で塗り変わった景色に、目を丸くしていた。

 すべてが白に塗り替えられた世界。


「ここは、昨日の」

「創世導師の座、ね」


 視線をおろすと、そこにジェローナがいた。

 相変わらずのカードサイズだが、きれいに実体化している。


「あれ、ローナ」

「創世導師なりに演出したつもりかしらね。向こうさんも同じみたいよ」

 不適に口を歪ませるジェローナ。その視線の先を、尭史も合わせた。



「なんだい、軟弱そうな男だね」

 乱暴そうに言ったのは、女だった。

 肌は浅黒く、髪はさらに闇を呑んでいる。銀世界の光を対をなす漆色。

 絢爛な冠と天鵞絨のマントを、崩した風で身につけている。


「『上塗りの文学帝、セディアル』とはアタシのことだ。相手になるのかい? アンタは」




『上塗りの文学帝、セディアル』

フォアフロント――人間

 各ゲーム最初のステディフェイズ時、あなたはこのカードの種族に王族を追加してもよい。そうした場合、このカードは『悔悛せし暴君、ジェンナー五世』としても扱う。

 あなたがダイスを振るたび、このカードの魔力を1増やす。

 【解放8】対戦相手を一人選ぶ。そのライフを四点消滅させる。

 【解放15】このターン、あなたのすべてのプログレは HR+3 される。

LP30


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