69 挑発
「お待たせいたしましたッ!! 準決勝進出者のオォォ入場だ~~~~!」
そして。
けたたましい実況に押されて、尭史はゲーム会場へと繰り出した。
観客は変わらず人に満ちている。心なしか声がさらに大きくなっている。その中にブーイングが混ざっているのも聞き取れはしたが、そればかりでもない。
けれどなんであれ、いまの尭史の気を揺さぶるようなものではなかった。
少しばかり気になることといえば、動画配信サイトで行われている実況配信の方だった。
自分の顔を直接見たこともない人間たちには、どう思われているんだろう……と、単なる興味がちらついた。なにも恐怖や期待があるわけではなかった。自分のことを一歩引いて見れるような冷静さが、彼の中には揺蕩っていた。
「東は千葉代表、鮎川尭史選手だあ~ッ! これまで物議を醸す神ドローを呼び起こしてきた手腕で、今回も勝利を引き寄せるかあ~~~~ッ!?」
(択ゲーに勝っただけみたいな紹介、勘弁して欲しいなあ)
作り笑いの裏で毒づく。
「対する西は大阪代表、逆嶋謙造ッ! 絶対の賭博と言うべき豪運を引っ提げて、この場にやって来たぞオオオォォォォ!!」
尭史とは逆のサイドから来た逆嶋は、いつものようにムスっとしている。身体中から煙草の臭いが立つかのようである。尭史は一瞬顔をしかめて、作り笑いをまた上からかぶせた。
「ああ、また」
それと同時に、ジェローナもまた露骨に顔をしかめた。
「視線の感覚だわ」
(やっぱ逆嶋も『持ち主』だってことか)
「そうね。まあ、じきに知れるでしょうけど。判っていてもいい気はしないわね」
斬り合いになるべくもないのに、腰元の柄頭を指でなぞった。
「ではここで逆嶋選手。意気込みの方はいかがでしょうか」
「んなもん決まとるわ。瞬殺や」
「ミッドレンジで瞬殺宣言! 大きく出た逆嶋選手、気合い十分と言ったところでしょうかッ!」
(気合い十分なんて話か今の!?)
ひょっとしてギャグなのかと、尭史は身構えるほどだった。実際、観客席から小さな笑い声が漏れていた。だが逆嶋の様子は相変わらずである。
「では鮎川選手どうぞ!」
(なあこれ対抗して笑わせなきゃダメか!?)
「私に訊かないでよ! ほらマイク向いてるわよ!」
「えっあ、お」
ちょっと浮ついたまま、尭史は頭に浮かんだことをそのまま言った。
「お前のデッキはカスだな」
「お前が言うなや!」
反応は早かった。逆嶋がツッコむと会場は大爆笑である。
うっかり尭史もつられて笑った。あの逆嶋でさえ、強面が変に歪んでいる。笑いをこらえているのは明白だった。
純ハイランダーデッキの扱いなど、こんなのである。
実況者はまだ笑いながら、またマイクを尭史に向けた。
「鮎川選手絶好調じゃないですか。全部持って行きましたね」
「このデッキを選んだ狙いはこれですよ」
「結構身体を張った芸しますね!?」
なんかちょっと実況者はたじろいでいる。尭史の扱いに困っているのかと、ジェローナは推理した。
「ねえ尭史」
(あんだい)
「私の存在も芸の一環に含まれてるのかしら」
(難しい質問だ)
「進んで否定するわけじゃないのね……」
「さあ、それではお二人とも、席へお着きください!」
尭史は一瞬、逆嶋に睨まれたような気がした。しかし両者とも声はあげなかった。
二者がダイスを握り、先手後手を決める間も、実況は話し続ける。
「解説の桂木さん、今年のスクロールカップは大荒れですね!」
「はい。tierリストがこれほどまでに作用しなかった大会は、SNoW史上でも初でしょう。白青パーミ、ゴーストアグロといった優勝候補筆頭のデッキが、ベスト4にまったく入ってこないという事態は、私もまったく予想ができませんでした」
「tierは通常、どの程度の信用があるのでしょうか? つまり、大半の大会ではどの程度tier上位のデッキが食い込むのでしょうか」
「七割以上と言ってもなお足りません。フレッシュ構築ならまた話は変わるんですがね。長く実績を保っているカードを多く使えるルールであればあるほど、信用度は上がるものです。今大会と同じエキスパート構築だと、ベスト16全員のデッキがtier1ということもザラですね」
「今回が特異であることがよくわかりますね!」
「一応、実験段階のデッキを持ち込む選手というのは、実のところ、少数ながら例年いるんですけどね。しかしそれが一人ならず、ここまで勝ち残るというのは、きわめて珍しいです」
実況がカメラに向き直った。
「おっと、ここでお二人のマリガンまで済んだようですね。先手逆嶋、後手鮎川のようです! では、ーー」
実況がそこまで言ったとき、尭史はその手でしっかとジェローナを握っていた。
(さ、やろうぜ)
「まかせて」
サエナイ因子を斬り換えてあげるわ!
二人は声を合わせた。間違いなく高らかに、口上を揃えた。
しかしその声は、どこか遠くにあるかのようで。
二人の耳に届かず、立ち消えた。
「……なんだ?」
ただしそのことに、ついぞ尭史は気づきもしなかった。
ほんの一瞬で塗り変わった景色に、目を丸くしていた。
すべてが白に塗り替えられた世界。
「ここは、昨日の」
「創世導師の座、ね」
視線をおろすと、そこにジェローナがいた。
相変わらずのカードサイズだが、きれいに実体化している。
「あれ、ローナ」
「創世導師なりに演出したつもりかしらね。向こうさんも同じみたいよ」
不適に口を歪ませるジェローナ。その視線の先を、尭史も合わせた。
「なんだい、軟弱そうな男だね」
乱暴そうに言ったのは、女だった。
肌は浅黒く、髪はさらに闇を呑んでいる。銀世界の光を対をなす漆色。
絢爛な冠と天鵞絨のマントを、崩した風で身につけている。
「『上塗りの文学帝、セディアル』とはアタシのことだ。相手になるのかい? アンタは」
『上塗りの文学帝、セディアル』
フォアフロント――人間
各ゲーム最初のステディフェイズ時、あなたはこのカードの種族に王族を追加してもよい。そうした場合、このカードは『悔悛せし暴君、ジェンナー五世』としても扱う。
あなたがダイスを振るたび、このカードの魔力を1増やす。
【解放8】対戦相手を一人選ぶ。そのライフを四点消滅させる。
【解放15】このターン、あなたのすべてのプログレは HR+3 される。
LP30




