70 驚異への入り口
「いいご挨拶ねぇ!」
尭史はぎょっとした。ジェローナが、露骨に不快感を表していたからである。
「天鵞絨が泣くってものでしょうに」
「おいおい、どうしたんだよ」
「わたしね、王族って好きになれないのよ。それもああいう勝手そうな輩は、いっそ嫌いと言っていいわ」
吐き捨てるかのようである。一週間前にでもこんな様子を見せていれば、このカードを捨てていたかもしれない。尭史はそれほどの印象を受けていた。
「ああ……そういう騎士団だったもんなあ」
言われてみれば、思い当たる節があるのも事実である。バックストーリーにおいて、聖染騎士団は少なからず敵を作っていた。
それは時に、聖人クィールを追放し、ジェローナの父オルギンが狼煙をあげた教会でもあり。
異教の信者が一国と結びついた神繕騎士団でもあった。
行く先々の国でも、オルギン達が元山賊であったこともあって、王侯貴族から嫌がらせを受けることも少なからず。
ただし、そんな中で屈服も迎合もせず、戦い続けた彼らだからこそ、民衆の支持を獲得していけた――という話ではあるのだが。
「だからって、あのFF――セディアルと知り合いってんでもねえだろうに。メンブレンからして違うだろ」
「わかったもんじゃないわ。王なんて、たいていは」
「いやだから、セディアルってのは――」
「乳繰り合っとるんやないでガキども」
苛立たしげに、逆嶋が挟んだ。
「ピーピー言うとらんでさっさと始めんかい」
瞬間的に二人は眉をしかめた。
「えっ?」
かと思えば、ジェローナが不意に不思議そうな声をあげる。
「どうしたローナ」
「あ。ううん、なんでもない」
「プラグから『火山口の勘違い者』以上や」
聞こえない振りでもするかのように、逆嶋はプレイを始めてしまった。
『火山口の勘違い者』(赤)
プログレーーゴブリン / 火口の住人
あなたがダイスを振るたび、このカードの上に灼熱カウンターを一つ乗せる。
このカードのHRは、この上の灼熱カウンターの数だけ加算される。
このカードのHRが6を超えたとき、これを破壊する。
BP2500 / HR1 / RV(同種族)
「ドロー……ってかローナ、この会話ってふつうの人に聞こえてたりしないか?」
「え、どうかしら」
「ちょっとアンネシーラに確認してくれよ。ついでにセディアルの話も聞いとくといいかもしれないぜ」
「ええっ?」
「プラグからエンドまで」
ジェローナの疑わしげな目は見ず、尭史は手札をいじった。
「ドロ、プラ、『マントルよりの巨人』」
かたや逆嶋の側は、見たところまったく会話がない。逆嶋はずっと、眉間にシワを寄せたまま表情を変えなかった。
普段からこの顔つきなのだろうか。そんな疑問が尭史の頭に浮かんだが、軽く頭を振って切り替えた。余計なことを考えていられる場面ではない。
『マントルよりの巨人』(赤)(緑)
プログレ――巨人 / 火口の住人
コストを払ってこのカードを召喚するに際し、ダイスを一度振る。出た目に等しい灼熱カウンターを上に乗せる。この際、3の 倍数の目が出た場合、あなたの次のステディフェイズに自身のFmをステディできない。
このカードのBPはこの上に乗る灼熱カウンターの1000倍、HRは灼熱カウンターの数だけ加算される。
BP0 / HR0 / RV(同種族)
「ダイスロール、5や」
「げ……巨人に『虚空漂着』撃ちます」
「かまわんわ。コンバット、『勘違い者」で攻撃」
「なるほど侮れないわね」ジェローナが言った。
「わかるか」
「ダイスの目次第で、費用対効果がすごく高くなるのね。BP5000のHR5って、4コスト分くらいの価値があるでしょう」
「ん!? ああ、まあね」
「すぐに除去してもFFの魔力は増えてるあたり、爆発力があるというか。あるいは抜け目ないというか、なんてところかしら」
「つくづく最高だよな、きみってやつは」
「でしょ?」
「すぐ調子乗るけどな。で、アンネはなんて?」
「この空間自体は、やっぱりどこか歪んでるみたいね。アンネや中村さんからは、靄がかかったように見えるみたい。けど観客からは特に変わりなく映るらしいわ」
「単に創世導師にとって都合のいい演出に過ぎねえってとこか」
「ホント、なんのつもりかしら」言葉のわりに、口振りは感心なさげである。
聞きながら、尭史はドローする。使用の目途が立たない多色カードである。それをFmにするほか、2ターン目にできることはない。
(セディアルの話は聞いてないのか?)
一応ブラフとして考える振りをしながら、ジェローナに問いかけた。
「そんなに大事なことなの?」その声は少しだけ低い。
(ちょっと騙されたと思ってくれよ。おれ自身ちょっと、一人で考えたくもあるし)
「……しょうがないわね」
渋々と言った様子のジェローナに、尭史は口元だけ笑いかけた。
(しかし、まいったな。もう少しマシな引きがしたかったんだけど)
実際のところ、心から笑う余裕などないというのが真理でもある。頭はもう次の手のことでいっぱいだった。
(向こうはこの調子で中小型のプログレを並べ続けてくるはずだ。それらの攻めを4ターン前後凌げれば、そこからは少しずつこっちのペースに持っていける。問題はそこまでの身の振り方だ。解決策はいくつかあって、それぞれに別の裏目がある)
ターン終了を宣しつつ、手札に目を移す。
(最も低リスクに、かつ高いヴァリューを得られそうなのは、神代コストで『霹靂』を顕現することだった。だったけど、初手に引いちまったからなあ。一回目で引いてマリガンしたのに、なんでまた来るんだよ。勘弁してほしいぜ)
「ワシの番か。ドロプラ『孤島住まいの老僧』や」
通ります、と言いつつ尭史は考えを巡らせる。昨日のレシピにこのカードは入っていただろうか?
「『首狩り陣形』続けてコンバット」
3ターン目にして、累計7点のダメージ。総ライフの四分の一ほどだが、尭史は難しい顔をしている。
(『老僧』が地味に対処しづらいな。『勘違い者』とは種族が違うからジェローナの解放3で一緒に倒せない。しかし放っておくと痛いんだ、こいつは。どうする?)
考える暇を与えないかのように、逆嶋はすぐにターン終了を言い渡す。それでも尭史は必死に頭を回らせるしかない。
(これひょっとして、次のターンに残りライフ全部飛ばされるってこともあるか? もしこっちが何も手を打たなかったら、『命削りの火薬庫』あたりがあると)
『命削りの火薬庫』(赤)(1)
エポック
このカードが場に出るに際し、ダイスを一度振る。すべてのプレイヤーは、その目に等しいダメージを受ける。
このカードを破壊する: 次にあなたが顕現するとき、そのコストを(1)軽減する。ただし、0以下にはできない。なお、この効果はあなたのターン中にしか使用できない。
(さっきの『陣形』を合わせて12点。さらに『招雷』でも続ければプラス3点、『老僧』も育つ。『勘違い者』の攻撃とセディアルの効果を合わせると、計24点!)
冷や汗が背を伝った気がした。これ以上暴れさせるわけにはいかなかった。
しかし、今その全てを処理する手立ては無いのだ。
(ならどうする。何で、何に立ち向かうかだ)




