71 定業
(苦しいけどドロー噛ませなきゃ次に繋がらねえ。ローナ!)
呼びかけると、ジェローナはびくっと跳ねた。
(二枚引っ張ってくれ)
「ターン貰います。ドロー、プラグから、『苔むしたブリキ兵』」
その瞬間、逆嶋の目元が動いたのを、尭史は見逃さなかった。
(なんだ?)
気にはなったが、問い質してどうなるものでもない。
「召喚時効果でドローしてエンドまで」
BP5000の壁と、単体火力があれば当座は凌げるだろう。そう思っていた。
「ドロウ」
対し逆嶋は、その大きな口をわざとらしく吊り上げる。
「『打ち抜き好みのゴブリン』召喚」
「……は?」
『打ち抜き好みのゴブリン』(赤)(1)
プログレーーゴブリン
このカードが場に出たとき、呪縛をもつプログレを一体選ぶ。それを破壊する。
BP3000 / HR2 / RV(同種族)
尭史は開いた口が塞がらなかった。
こんなものの出現など、まったく想定していなかった。
(呪縛持ちなんて、大した採用率しちゃいない。その対策にしかならないカードが、なんでここで?)
しかも三回戦終了時のレシピの中に、このカードは含まれていなかった。となれば、今日のためにわざわざ組み込んできたということになる。
戦闘力も平凡だというのに。積極的に肯定できるだけの理由が、常識の中に存在しない。
(個人対策だってのか? でもメインに入ってるってことは、これを抱えて準々決勝も戦ったってことになるんだよな)
尭史の顔つきはより厳しいものになっていった。
「指定は『ブリキ兵』。ほんで『不快な掘削者』を召喚」
「カットイン『招雷』! 『勘違い者』を除去ります」
「『老僧』でコンバット、以上や」
(『綻び』だ!)
尭史の指示は早かった。
(逆嶋は場に三体出して手札は一枚しかない。全体除去するならここしかない!)
だが意外なことに。
話しかけても、ローナは反応を見せなかった。
(ローナ、『綻び』だってば。ローナ?」
指でつつく。飛び上がるように驚いた。
「え、あ、え……何?」
「いやだから、『綻び』を引っ張ってって」
ああはい、とジェローナは素直に従う。
(セディアルの話に熱中してるのか?)
意外な一面だと思うと同時に、騎士の警戒心はそんなものかと不思議がる。
(まあ、いいけどな。ここは一人で戦いたいし)
すかさず右の指に力を込める。
「ドロー、『乱暴な瀉血』プラグから『綻び』を顕現!」
『綻び』(黒)(黒)(2)
エポック――ファーリーチ
顕現に成功したとき、すべてのプログレを破壊する。
「ほう」
逆嶋はそれだけ言うと、黙って三枚を裏返す。
(余裕ぶりやがって!)
そんな対戦相手を見て、尭史はどこかゾクゾクしたものを感じだしていた。
「ワシの番か」
ドローしたカードをちらと見ると、そのままFmに置く。
「『偶奇待ちの探索』」
『偶奇待ちの探索』(黒)(赤)(2)
スプレー
Fmになるときアンステディされる。
ダイスを二回振る。あなたは出た目のどちらかを指定し、その数だけドローする。その後、もう一方の目の数だけ手札を捨てる。
セディアルの目が光る。
出た目はむろん――1と6である。
「ほんで手札コストを払って『勘違い』と『掘削』を復活さすわ。『断絶』は墓地へ」
それらを処理したあと、逆嶋はふと尭史の顔に視線を移す。
胡散臭がる気持ちが、そのまま声に出た。
「なんや、その顔は」
「えっ?」
「何がおもろいちゅーねん」
必死の一手を容易く返された中、尭史は。
中途半端に目を細めて、ニヤニヤしていた。
その笑い方があんまり下手なので、逆嶋は言外に警戒するほどだった。
「いややられましたよ。ここでドローされなかったら多分そのまま勝てたのに。さっきから抱えてたんすね」
逆嶋は相槌を打つでもない。
だがそんなことは尭史にとって些細なものだった。
「なんたって手札コストを払えば復活ができる。それがSNoWの特徴だ。全体破壊されても再展開のときにテンポを失いにくい。復活のケアが勝敗を分けることだって往々にある」
「ふん」
逆嶋は決して友好的な態度ではない。ややもすれば、ひと睨みで人を怯ませる凄みがある。
だが尭史は、どこか待ってましたと言わんばかりに。
目を輝かせて、こう言った。
「やっぱりおれはSNoWが好きだ。面白いですよ。このゲーム」
◆
(気色悪いやっちゃな)
逆嶋はもう声に出すことを止めた。ただ白けた顔をして、手札をいじるだけである。
(いい歳こいてトーシロくせえ自分語り並べおうて)
「別にイイじゃない。アタシは嫌いじゃないね、ああいうの」
「あァ?」
逆嶋は単に、感想を頭に浮かべただけのつもりだった。予想外にそれを聞かれたのが、妙に気にくわなかった。
「セディアル。お前には言うてない。黙っとれボケナス」
カッとした風の逆嶋に、セディアルは短く溜息を吐いた。




