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境界の乙女  作者: みぎみみ


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第70話 繋がる力

 カイエンの一撃が、振り下ろされる寸前だった。


「――結月には、指一本、触れさせない」


 横合いから飛び込んだ剣が、その一撃を、辛うじて弾き返した。レインだった。魔物の群れを掻い潜り、駆けつけてきたのだ。


「レインさん……!」


「一人で背負うな、と言っただろう」


 レインは、結月を背に庇うようにして、カイエンと対峙した。続けて、ゼルギウスも、荒い息を吐きながら、その隣に並ぶ。


「俺も、まだ終わっていない」


「増えたところで、結果は変わらん」


 カイエンが、苛立たしげに腕を振るった。だが、その一撃を、レインとゼルギウスが、連携して受け止める。二人の呼吸は、これまでの戦いを経て、完全に噛み合っていた。


 さらに、荒野を駆け抜けてきたノアが、結月の元に寄り添った。


「結月、まだ戦えるか」


「はい……みんなが、時間を作ってくれてます」


 結月は、震える手を、地面につきながら、体を起こした。全身に力は残っていない。それでも、仲間たちの姿を見て、心の奥に、新たな力が湧き上がってくるのを感じた。


 結月は、両手を構え直した。目の前で剣を振るうレインの背中、隣に並んだゼルギウスの覚悟、足元に寄り添うノアの温もり。三人の気配が、結月の中で、確かな力として結実していく。


「レインさん、ゼルギウス、ノア」


 結月は、静かに、しかし確かな声で呟いた。


「みんなの分まで、いきます」


 結月の体から、これまでにない、しかし不安定ではない、澄んだ光が溢れ出した。輪郭が薄れる兆候はない。むしろ、これまでのどの力よりも、安定した輝きを放っていた。


「これは……」


 カイエンが、初めて明確な動揺を見せた。結月は、その光を纏いながら、まっすぐにカイエンへと向き直った。


「あなたの力は、無理やり奪い、繋げた、偽りの境界です。わたしの力は、みんなが、自分の意志で差し出してくれたものです」


 結月は、両手をカイエンに向けた。


「本物の繋がりに、偽物が敵うはずありません」


 結月の光が、カイエンの纏う赤黒い光と、正面から衝突した。拮抗は、一瞬だった。結月の光が、カイエンの力を、内側から解きほぐすように、侵食していく。


「ば、馬鹿な……! なぜ、私の力が……!」


 カイエンの体から、赤黒い光が、次々と剥がれ落ちていった。人工的に取り込んだ力が、結月の光によって、根本から否定されていく。


「くっ……があああああ!」


 カイエンの絶叫が、荒野に響き渡った。変質しかけていた体が、急速に、元の人間の姿へと戻り始める。だが、その体は、もはや、力の反動に耐えきれるものではなかった。


 カイエンは、大きく後方へと倒れ込み、意識を失った。荒野に、静寂が戻る。結月は、その場に膝をつき、荒い息を吐いた。


「勝った……のか」


 レインが、信じられないといった様子で呟いた。だが、結月は、すぐには喜べなかった。視線の先、光の柱――境界の裂け目は、カイエンが倒れた後も、なお、赤黒い輝きを放ち続けていた。


「まだ、終わってません」


 結月は、震える声で、そう告げた。カイエンという原因は、確かに取り除かれた。だが、彼が引き起こした裂け目そのものは、今もなお、世界を飲み込もうと、大きく口を開け続けていた。


 レインが、結月の隣に膝をつき、静かに肩を支えた。


「よくやった。だが、まだ気を抜くな」


「はい……あの光を、何とかしないと」


 結月は、荒い息を整えながら、なおも脈動を続ける裂け目を、まっすぐに見据えた。


第70話 了


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