第67話 荒野への到着
荒野に近づくにつれ、空気そのものが、明らかに変質しているのが感じられた。
結月は、馬上で意識を研ぎ澄ませた。以前訪れたときよりも、境界の揺らぎが、遥かに強く、そして不安定になっている。地面の亀裂からは、これまで以上に強い光が漏れ出し、時折、低い地鳴りのような音が響いていた。
「もう、始まっているのか……?」
レインが緊張した声で呟いた。ノアが、耳を伏せながら答える。
「完全な突破には、至っていない。だが、時間の問題だろう」
一行は荒野の外縁に陣を敷き、状況を確認した。遠く、遺跡の尖塔が見える方角に、赤黒い光が、不気味に立ち上っているのが見て取れる。
「あそこが、儀式の中心地か」
ゼルギウスが、望遠鏡代わりの魔道具で、遠方を確認しながら言った。
「警備の数は、かなり多い。教会の残存戦力と、境獣に似た人工の兵――おそらく、例の量産型だろう」
「正面から突っ込むのは、得策じゃないな」
レインが唸るように言った。結月は、地図を広げ、遺跡までの地形を確かめた。
「ゼルギウスさん、以前、荒野を抜けたときに、迂回できる道があったと思います」
「ああ、東側の岩場を回れば、正面の警戒網を、ある程度は避けられる」
ゼルギウスの提案に、結月は頷いた。
「わたしたちの先行部隊が、東側から遺跡内部への突入を試みます。本隊は、正面から、教会の残存戦力を引きつけてください」
「危険な役割分担だ」
「わかっています。でも、儀式を止めるには、直接、カイエンの元まで辿り着く必要があります」
結月の言葉に、集まった有志たちの間に、緊張が走った。だが、誰一人として、退くという声は上がらなかった。
「行こう」
レインの一声で、一行は動き出した。荒野に響く地鳴りの音が、次第に強さを増していく。結月は、馬を進めながら、遺跡の方角から漂う、これまで感じたことのない禍々しい気配に、身を引き締めた。
最初の交戦は、荒野の中腹で始まった。教会の残存戦力――白い甲冑の兵士と、赤黒い光を纏う人工の兵が、一行の前に立ちはだかった。
「来るぞ!」
ゼルギウスの号令と共に、両陣営が激突した。剣戟の音と、境界魔法の閃光が、荒野のあちこちで交錯する。
「結月、俺たちは先へ進むぞ!」
レインの声に、結月は頷いた。ノアと共に、混戦の隙間を縫うようにして、遺跡へと続く道を進んでいく。
「これだけの規模の戦い、あの子たちの姿が重なりますね」
結月は、戦う人々の姿を横目に、静かに呟いた。ガレスで助けた子供たち、カルダンで感謝を告げてくれた女性、そして、この戦いに集まってくれた見知らぬ人々。それぞれの想いが、今、この荒野で交差している。
「あの子たちのためにも、ここで止める」
結月の決意に、ノアが力強く頷いた。遺跡の尖塔から立ち上る赤黒い光は、刻一刻と、その勢いを増していた。決戦の刻限が、目前に迫っていた。
レインが、結月の隣で、剣を強く握り直した。
「行くぞ。ここまで来て、退くわけにはいかない」
「はい」
結月は、震える体を叱咤しながら、遺跡へと続く最後の道を、しっかりとした足取りで進み始めた。
第67話 了




