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境界の乙女  作者: みぎみみ


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第66話 集う者たち

 夜明けと共に、結月たちは王都を発った。


 ゼルギウスは、道中、かつての部下たちに声をかけて回った。教会の中枢が崩壊しつつある今、多くの騎士たちが、これまでの忠誠の対象を見失い、迷いの中にいた。


「猊下の非道は、俺もこの目で見た。オルクレインの誓いに従い、俺は、これから境界の乙女に力を貸す。共に来てくれる者は、ついてきてほしい」


 ゼルギウスの呼びかけに、最初は数名だったが、街道を進むうちに、その輪は、少しずつ広がっていった。かつて教会の名の下に戦っていた者たちが、今、それぞれの意志で、剣を結月たちの側に置き始めていた。


「思ったより、集まりましたね」


 結月が馬上から振り返ると、ゼルギウスは、複雑な表情で頷いた。


「教会という組織の中にも、良心を持つ者は、思ったより多く残っていたようだな」


 道中、フィオナからも定期的に連絡が入った。王家の軍も、荒野へ向けて動き出したという知らせに、結月は、胸を撫で下ろした。


 夜、野営地で焚き火を囲みながら、結月はレインと並んで座っていた。


「こんなに大勢の人が、力を貸してくれるなんて、思っていませんでした」


「お前が、それだけのことをしてきたからだ」


 レインの言葉に、結月は小さく首を振った。


「わたし一人の力じゃ、何もできませんでした。レインさんが、最初に助けてくれたから。ノアが、力の使い方を教えてくれたから。フィオナ様が、正しさを信じてくれたから」


「それでも、動いたのは、お前自身だ」


 結月は、焚き火の炎を見つめながら、静かに頷いた。ふと、遠くから、聞き覚えのある小さな鳴き声が聞こえた気がした。


「今の……」


「どうした?」


「いえ、何でもありません。ただ、コハクを思い出して」


 結月は、微かに笑った。サレイユ村に残してきた猫のことを、ふと思い出す。あの村で過ごした、穏やかな日々。あそこから始まった旅が、今、これほど大きな戦いへと繋がっている。


「あの村の人たちも、この戦いの先で、幸せに暮らしていけるといいですね」


「そのために、俺たちは戦っている」


 レインの言葉に、結月は力強く頷いた。


 翌朝、野営地を発つ頃には、集まった有志の数は、五十名近くにまで膨れ上がっていた。ゼルギウスの元部下だけでなく、噂を聞きつけた冒険者や、かつて結月たちに助けられた者の縁者までもが、駆けつけてくれていた。


「ミヅキさん!」


 その中に、聞き覚えのある声があった。振り返ると、カルダンで礼を告げてくれた、あの女性の姿があった。


「あなたは……」


「弟から話を聞いて、いてもたってもいられなくて。少しでも、力になりたいんです」


 結月は、その言葉に、胸が熱くなるのを感じた。自分が救った命が、巡り巡って、今、この戦いを支える力になっている。


「ありがとうございます。でも、危険な戦いです。無理はしないでください」


「わかっています。でも、あなたたちだけに、全部を背負わせたくないんです」


 結月は、深く頷いた。多くの人々の想いを背に、荒野へと続く道を、一行は進み始めた。二つの月が重なった空の下、最後の戦いへの布陣が、着実に整いつつあった。


 ゼルギウスが、隊列の先頭で、集まった者たちを見渡した。


「無理はするな。だが、それぞれの想いを、俺たちに預けてくれたことに、心から感謝する」


 その言葉に、隊列のあちこちから、力強い頷きが返ってきた。荒野へと続く道を、一行の足並みが、確かに揃っていく。


第66話 了


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