第63話 暴かれた真実
建国記念祭の夜、大聖堂から救い出された子供たちの姿は、王家の直轄部隊によって、瞬く間に王都中へと運ばれていった。
結月たちが表舞台に立つことはなかったが、フィオナは、この夜のうちに、これまで集めてきた証拠の全て――ガレスの記録、カルダンの水晶、ガイウスの証言、そしてオルクレイン家の古い誓いの記録を、王と評議会に突きつけた。
「これでもまだ、教会の非を認めないと仰るのですか」
フィオナの声は、玉座の間に、凛と響き渡った。集まった評議会の議員たちは、救出された子供たちの証言と、動かぬ物的証拠を前に、もはや反論の余地を失っていた。
「大司教カイエンは、儀式の最中に姿をくらました。これこそ、彼が全ての元凶であったことの、何よりの証左です」
国王は、深い沈黙の後、重々しく口を開いた。
「白門教会に対し、全面的な捜査を命じる。カイエンの身柄は、見つかり次第、拘束せよ」
その宣告が下された瞬間、玉座の間に、安堵とも興奮ともつかないざわめきが広がった。ダレル侯爵をはじめとする、教会寄りの派閥は、もはや擁護の言葉を口にすることすらできなかった。
*
王都の一角、静かな療養所で、結月は目を覚ました。全身に、まだ鈍い疲労が残っている。だが、意識は、これまでになく澄み渡っていた。
「気がついたか」
枕元に座っていたレインが、安堵の表情を浮かべた。結月は、ゆっくりと体を起こそうとした。
「わたし、どれくらい……」
「二日、眠っていた。あの規模の力を使ったんだ、当然だろう」
結月は、自分の手を見つめた。透けかけていた輪郭は、もう、跡形もなく元に戻っている。それでも、あの一瞬の恐怖は、体の奥に、確かな記憶として刻まれていた。
「子供たちは」
「全員、無事だ。今は、王家の保護のもとで、それぞれの家族のもとに戻る手続きが進められている」
結月は、深く息を吐いた。込み上げてくる安堵に、思わず涙がにじむ。
「フィオナ様の頑張りで、評議会も、ようやく重い腰を上げた。教会への全面捜査が、正式に決定した」
「よかった……本当に」
結月は、涙を拭いながら、小さく笑った。長かった戦いの、確かな成果が、ここにある。
部屋の扉が開き、フィオナとゼルギウスが姿を見せた。フィオナは、結月の姿を見るなり、駆け寄って手を握った。
「よく頑張ってくれたわね。本当に、ありがとう」
「フィオナ様も、無事で……」
「あなたたちが命懸けで戦ってくれたからこそ、わたしも、正面から声を上げられた」
フィオナの目には、涙が滲んでいた。ゼルギウスも、静かに頭を下げる。
「境界の乙女。改めて、感謝する。そして、これまでのこと、詫びさせてほしい」
「もう、いいんです。今は、一緒に戦えたことが、大切ですから」
結月の言葉に、ゼルギウスは、複雑な、しかし穏やかな表情を浮かべた。
「だが、まだ終わったわけではない」
その一言に、部屋の空気が、わずかに引き締まった。
「カイエンは、逃げおおせた。しかも、儀式の触媒の一部は、すでに蓄積されてしまっている。あの男が、このまま大人しく身を潜めるとは、到底思えない」
結月は、ゆっくりと頷いた。祭儀の間で見た、カイエンの最後の言葉が、脳裏に蘇る。
『次に会う時までに、もっと成長しておくことだ』
「まだ、続くんですね」
「ああ。だが、今度は、俺たちだけの戦いじゃない」
レインの言葉に、結月は、窓の外に広がる王都の空を見つめた。真実は、確かに、多くの人の目に晒された。それでも、真の決着は、まだ、その先にあった。
ノアが、窓の外に浮かぶ月を見上げながら、静かに呟いた。
「カイエンが本気で牙を剥けば、これまでの比じゃない被害が出る。油断だけは、しないでほしい」
「わかっています」
結月は、静かに、しかし確かに頷いた。長い戦いの、本当の正念場が、まだこの先に待っている。
第63話 了




