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境界の乙女  作者: みぎみみ


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第55話 決戦前夜

 典礼まで、あと三日となった夜。結月たちは、フィオナの屋敷の一室に集まり、最終確認を行っていた。


「大聖堂の構造は、こうなっている」


 ゼルギウスが広げた見取り図には、これまで結月たちが把握していた以上の詳細が、緻密に書き込まれていた。


「儀式の中心は、地下第三層の触媒施設ではなく、その上――大聖堂本堂の真下にある、祭儀の間だ。当日、触媒はそこに集められ、儀式が執り行われる」


「わたしたちは、どこから入ればいいですか」


「東側の資材搬入口が、最も警備が薄い。俺が、当日の配置を調整しておく」


 ゼルギウスは淡々と説明を続けた。かつての敵が、今は誰よりも詳細な情報をもたらしてくれている。その事実に、結月は不思議な感慨を覚えずにいられなかった。


「わたしは、当日、王家の直轄部隊を大聖堂周辺に配置します」


 フィオナが付け加えた。


「表向きは、祝祭の警備という名目よ。でも、あなたたちが儀式を止めた瞬間、すぐに動けるように待機させておく」


「役割分担は、これで固まったな」


 レインが地図を見渡しながら言った。結月、レイン、ゼルギウス、そしてノアが、大聖堂内部への潜入と儀式の阻止を担当する。フィオナは外部からの後詰めと、事後の政治的な収拾を担う。


「大司教カイエンとは、直接対峙することになるだろう」


 ゼルギウスの言葉に、結月は身を引き締めた。


「あの人の力について、何かわかりますか」


「詳細は、俺も完全には把握していない。だが、噂では、魔界エレボスの技術を、自らの身に取り込んでいるという話もある」


「人間じゃない力、ってことですか」


「かもしれない。油断は禁物だ」


 結月は頷き、自分の両手を見つめた。セレイアから受け継いだ力、そして、これまでの旅で培ってきた全ての技術。それらを、この決戦で、余すことなく使うことになる。


 打ち合わせが一段落した後、結月は屋敷の中庭に出た。夜空には、二つの月が、これまでになく近い距離で並んでいる。あと三日で、それらは重なり合う。


「眠れないのか」


 背後から、レインの声がした。結月は振り返り、小さく頷いた。


「怖い、というのとは、少し違うんです。ただ、考えることが多くて」


「わかる気がする」


 レインは結月の隣に立ち、同じ空を見上げた。


「セレイアのことか」


「はい。彼女が最後に感じたことを思うと、明後日の自分が、同じ道を辿らないか、不安になります」


 レインは静かに、結月の手を取った。指を絡めるように、しっかりと握りしめる。


「お前は、一人じゃない。それだけは、忘れるな」


 結月は、その温もりに、胸が熱くなるのを感じた。


「レインさん」


「何だ」


「もし、わたしが力を使いすぎて、輪郭が薄れそうになったら」


 結月は、レインの目をまっすぐに見つめた。


「わたしの名前を、呼んでください。どんな時も」


「約束する」


 レインの声には、揺るぎない確かさがあった。結月は、その言葉を、しっかりと胸に刻んだ。中庭に、静かな夜風が吹き抜けていく。二つの月が近づく空の下、決戦の刻限が、確実に迫っていた。


 ノアが、二人の背後から、静かに寄り添った。


「僕も、最後まで、君のそばにいる。それだけは、約束する」


「ありがとう、ノア」


 結月は、振り返って、小さく微笑んだ。三人――いや、フィオナやゼルギウスを含めれば、より多くの仲間たちの想いが、これから迎える決戦を、確かに支えていた。


第55話 了


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