↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界の乙女  作者: みぎみみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/80

第54話 白の剣、翻る

 フィオナの屋敷に、ゼルギウスが単身で現れたのは、その二日後のことだった。


「――何のつもりですか」


 応対に出たレインが、即座に剣を構えた。ゼルギウスは両手を上げ、敵意がないことを示す。


「話がしたいだけだ。それに、今日は一人で来ている」


 結月は騒ぎを聞きつけて駆けつけ、ゼルギウスの姿を見て、息を呑んだ。その表情には、これまでの冷徹さとは違う、何か切実なものが宿っていた。


「フィオナ様、大丈夫でしょうか」


 結月がフィオナに視線を送ると、フィオナは緊張しながらも、静かに頷いた。


「話を聞きましょう。ただし、警戒は解かないで」


 応接間に通されたゼルギウスは、椅子に座ることなく、まっすぐに結月たちを見据えた。


「大聖堂地下の触媒施設を、この目で見た」


 その一言に、部屋の空気が張り詰めた。


「猊下は、俺自身も、次の触媒として使うつもりだと、はっきり告げた。オルクレインの血が、儀式に特別な価値を持つらしい」


「ゼルギウスさんも……」


 結月は言葉を失った。追ってきた男が、実は同じように、教会に利用される駒に過ぎなかったという事実に、胸が締め付けられた。


「もう、迷いはない」


 ゼルギウスは、腰の剣を鞘ごと外し、テーブルの上に置いた。


「教会を裏切る。オルクレインの誓いに、今こそ立ち返る」


 結月は、その決意の重さを、じっと受け止めた。長年、教会の中枢で生きてきた男が、全てを捨てる覚悟を、目の前で示している。


「協力してくれる、ということですか」


「典礼当日の警備計画は、俺が最も詳しく把握している。内部の動き、儀式の進行順序、そして、大聖堂内部の詳細な構造。全て、提供する」


 フィオナが身を乗り出した。


「本当に、信じていいの? あなたはこれまで、境界の乙女を執拗に追ってきた立場よ」


「疑うのは、当然だ」


 ゼルギウスは静かに頷いた。


「だが、これ以上、あの子供たちを見過ごすことは、俺にはできない。それに――」


 ゼルギウスは、結月に視線を向けた。


「セレイア様の記憶を守るという、我が家系本来の誓いを、今こそ果たしたい」


 結月は、その言葉に、確かな真剣さを感じ取った。ノアの力を借りて、言葉の裏にある真意を探る。揺らぎは、ほとんど感じられなかった。


「信じます」


 結月の言葉に、レインとフィオナが、驚いた顔でこちらを見た。


「結月、大丈夫か」


「はい。ノアの力で確かめました。それに――」


 結月はゼルギウスをまっすぐに見つめた。


「オルクレイン家の記録を読んだとき、誓いの重さを、確かに感じました。あなたが、それを裏切るとは思えません」


 ゼルギウスは、しばらく無言で結月を見つめていたが、やがて静かに頭を下げた。


「感謝する。そして、改めて詫びさせてほしい。これまで、お前を追い詰めたことを」


「今は、それより先のことを考えましょう」


 結月の言葉に、ゼルギウスは頷き、再び剣を手に取った。今度は、敵意のためではなく、共に戦うための得物として。


「典礼当日の計画を、詰めよう。時間は、多くない」


 レインが、まだ完全には拭えない警戒を残しながらも、地図をテーブルに広げた。フィオナも、真剣な表情で身を乗り出す。教会最強と謳われた「白の剣」が、今、結月たちの側に加わった。決戦への布陣が、確実に整いつつあった。


 結月は、テーブルを囲む面々の顔を、一人一人、見渡した。かつて敵対していた者が、今は同じ目的のために、知恵を絞ってくれている。その事実に、これまでの旅の全てが、確かに報われているような気がした。


第54話 了


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。