↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界の乙女  作者: みぎみみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/80

第51話 評議会の壁

 ガイウスの証言と、これまで集めた証拠一式を携え、フィオナは再び評議会への提出に踏み切った。


 結月とレインは、直接評議会の場に立つことはできなかったが、フィオナの屋敷で、結果を待ち続けた。窓の外の光が、少しずつ傾いていく。


「遅い、な」


 レインが落ち着かない様子で呟いた。結月も、膝の上で手を握りしめたまま、扉の方角を見つめ続けていた。


 やがて、フィオナが屋敷に戻ってきた。その表情は、疲労と、複雑な安堵が入り混じったものだった。


「どうでしたか」


 結月が急いで尋ねると、フィオナは椅子に腰を下ろしながら、ゆっくりと語り始めた。


「陛下は、証拠に目を通してくださった。ガイウスさんの証言も、重く受け止めてくださったわ」


「じゃあ」


「陛下は、大聖堂の内部調査を命じる意向を示された。でも――」


 フィオナの声に、苦いものが滲んだ。


「教会側は、これを『信教の自由への不当な介入』だと猛反発している。ダレル侯爵を筆頭に、評議会の一部も、これに同調しているわ」


「それじゃあ、結局……」


「陛下の勅命であっても、正式な調査団の編成には、最低でも一ヶ月はかかる見通しよ。しかも、教会側は、その間に『自主的な内部調査』を行うと主張していて、実質的に、時間稼ぎを許してしまっている」


 結月は拳を握りしめた。典礼まで、あと二週間を切っている。一ヶ月という猶予は、あまりにも長すぎる。


「間に合いません」


「わかっているわ」


 フィオナも唇を噛んだ。


「これが、正攻法の限界。証拠を積み上げても、権力を持つ者たちが結託すれば、時間稼ぎだけで、実質的な追及を骨抜きにできてしまう」


 部屋に、重い沈黙が落ちた。結月はしばらく黙り込んだ後、静かに顔を上げた。


「なら、わたしたちで、直接止めるしかありません」


「典礼当日、大聖堂に踏み込むということね」


「はい。フィオナ様が積み上げてくれた証拠と、正当性は、決して無駄になりません。わたしたちが儀式を止めた後、それを世に示すための土台になります」


 フィオナはしばらく結月を見つめた後、深く息を吐いた。


「危険な賭けよ。相手は、大司教猊下直属の戦力。それに、儀式の当日は、警備も最大限に強化されるはず」


「わかっています。それでも、待っているだけでは、あの子たちを救えません」


 結月の決意に、フィオナはやがて、静かに頷いた。


「わたしにできる支援は、全て用意するわ。当日、王家の直轄部隊を、大聖堂の周辺に配置できるよう、陛下に働きかける。表向きは『祝祭の警備強化』という名目で」


「ありがとうございます」


「感謝するのは、こっちの方よ。あなたたちがいなければ、この件は、永遠に闇に葬られていたかもしれない」


 フィオナは机の上に、改めて大聖堂の見取り図を広げた。三人は身を寄せ合い、限られた時間の中で、どうやって儀式を止めるか、具体的な策を練り始めた。窓の外、夕暮れの空に、二つの月が、少しずつ近づき始めているのが見えた。


「正攻法が塞がれた以上、当日の動きを、寸分の狂いもなく詰める必要があるわね」


 フィオナが、見取り図の一点を指しながら言った。結月は、その真剣な横顔を見つめ、頷いた。


「わたしたちにできることを、一つずつ、確実に積み重ねましょう」


 夜が更けるまで、三人の議論は続いた。


第51話 了


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。