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境界の乙女  作者: みぎみみ


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第49話 迫る日取り

 王都に戻った結月たちは、すぐさまフィオナと合流し、これまでの経緯を余すことなく伝えた。


「子供たちが、生きたまま儀式の触媒に……」


 フィオナの顔から、みるみる血の気が引いていった。結月は膝の上で拳を握りしめながら、頷いた。


「ゼルギウスさんの話が本当なら、猶予はそう長くありません」


「儀式の具体的な日取りは、まだわからないの?」


「そこまでは、ゼルギウスさんも明かしてくれませんでした。ただ、計画が最終段階に入っているのは、間違いないと思います」


 フィオナは机に広げた地図を見つめながら、深く息を吐いた。


「わたしの方でも、独自に情報を集めていたわ。教会内部の一部の文官が、密かに不安を漏らしているという噂がある。近々、王都の大聖堂で、大規模な典礼が予定されているそうよ」


「典礼、ですか」


「表向きは、建国記念の祝祭に合わせた、通常の儀式だと発表されている。でも、規模も準備も、これまでとは比較にならないほど大掛かりなの」


 フィオナは日付の書かれた紙を、結月の前に差し出した。


「建国記念祭は、二つの月が同時に最も欠ける夜――ちょうど、あなたが最初にこの世界に来た時のような、特別な夜に当たる」


 結月の指先が、微かに震えた。境界がもっとも脆くなる夜。それは、ガレスで狙われていた条件と、まったく同じだった。


「あと、どれくらいですか」


「三週間よ」


 部屋に、重い沈黙が落ちた。三週間という時間は、あまりにも短い。だが、動かなければ、その日に、教会は取り返しのつかない一線を越えることになる。


「三週間で、何ができるでしょうか」


 結月の問いに、フィオナは真剣な表情で考えを巡らせた。


「まず、証拠をさらに固める必要がある。オルクレイン家の記録、人工の境獣の出所、そして、大聖堂地下の密輸拠点。これらを一つに繋げれば、評議会も、もう無視できないはずよ」


「でも、正攻法だけでは、間に合わないかもしれません」


 レインが冷静に付け加えた。


「典礼の当日、大聖堂の内部に踏み込んで、直接、儀式を止める必要がある。証拠固めと並行して、その準備も進めるべきだ」


 フィオナは頷き、地図の上に、いくつかの印をつけていった。


「わたしは、王都に留まって、評議会と陛下への働きかけを続ける。もし典礼当日、あなたたちが直接、儀式を止めることになれば、わたしがその正当性を、公の場で保証する」


「フィオナ様に、危険が及びませんか」


 結月の心配に、フィオナは強い眼差しで首を振った。


「もう、危険を避けている段階じゃないの。わたしにも、王女としての責任がある」


 結月はその決意を、しっかりと受け止めた。三人――いや、フィオナを含めた四人は、それぞれの役割を確認し合った。


「ゼルギウスさんが、本当に協力してくれるかどうかも、鍵になりますね」


「彼が、どちらに転ぶか。それによって、戦力の差は、大きく変わる」


 レインの言葉に、結月は懐の通信具を握りしめた。まだ見ぬ味方となるか、それとも最後まで教会に留まるのか。ゼルギウスの選択が、これから始まる戦いの行方を、大きく左右することになる。


「あと三週間……」


 結月は窓の外、王都の空を見上げた。二つの月が、少しずつ、その距離を縮め始めている。決戦の時が、確実に近づいていた。


 ノアが、静かに口を開いた。


「この三週間、僕も、できる限り、君の力の制御を鍛える手伝いをする。土壇場で焦らないように」


「お願いします」


 結月は、頷きながらも、これから待ち受ける戦いの大きさに、改めて身が引き締まるのを感じた。三週間という時間を、一日たりとも、無駄にはできない。


第49話 了


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