↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界の乙女  作者: みぎみみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/80

第43話 遺跡の門

 夜明けと共に、結月たちは遺跡の入り口へと向かった。


 朝靄の中に浮かび上がる城塞は、昨夜見たときよりも、さらに大きく、そして荒々しい姿を見せていた。石壁のあちこちに走る亀裂からは、今もかすかに、青白い光が漏れ出している。まるで、建物そのものが、まだ完全には死にきっていないかのようだった。


「ここが、正門だったんだろう」


 レインが、崩れた巨大な門の残骸を見上げながら言った。かつては両開きだったであろう扉は、片方が完全に崩れ落ち、もう片方も、辛うじて枠に引っかかっているだけだった。


「入りましょう」


 結月はそう言って、一歩を踏み出した。だが、門をくぐろうとした瞬間、体の芯に、ぞくりとした感覚が走った。


「……何か、ある」


「感じるか」


 ノアが結月の足元に寄り添いながら尋ねた。結月は頷き、目を閉じて意識を研ぎ澄ませた。門の向こう側、遺跡の内部から、微かだが確かな「気配」が伝わってくる。


「境界の、揺らぎです。でも、境獣のものじゃない」


「セレイアの力の残滓かもしれない。三百年経った今も、この場所には、彼女の力の一部が留まり続けている」


 ノアの声には、これまでにない緊張と、同時に、懐かしさのようなものが滲んでいた。結月はその感情の複雑さに、胸を締め付けられる思いがした。


「行くぞ」


 レインが先頭に立ち、崩れた門をくぐる。結月とノアもその後に続いた。


 内部は、外から見た印象よりも、遥かに広大だった。かつては大広間だったと思われる空間には、崩れ落ちた柱がいくつも横たわり、床には、風化しきった甲冑や武具の残骸が散らばっている。


「戦いの跡、ですね」


「大崩壊戦争の最終決戦は、まさにこの場所で行われた。当時の兵士たちの多くが、ここで命を落としたと言われている」


 結月は、足元に転がる古い剣の残骸に、そっと目を伏せた。三百年前、この場所で、数えきれないほどの命が失われた。そしてその果てに、セレイアという一人の少女が、世界を救うために自らを犠牲にした。


「奥に、記録が保管されている場所があるはずだ」


 ノアが先導し、三人は瓦礫の間を縫うようにして、遺跡の奥へと進んだ。進むにつれて、空気に漂う「揺らぎ」の感覚が、次第に強くなっていく。


 やがて、一行は、比較的原形を留めた小さな礼拝堂のような部屋に辿り着いた。祭壇の奥に、石造りの扉があり、そこにだけ、複雑な紋様の結界が張られている。


「これが、記録庫への入り口だ」


 ノアがそう告げると、結月は扉に近づき、その紋様をじっと見つめた。見覚えのある結び目の意匠が、随所に織り込まれている。


「これ、わたしの故郷の結び方に似てます」


「セレイアも、境界に対して同じような感性を持っていたのかもしれない。時代も場所も違うのに、面白いものだね」


 結月は扉に手をかざし、紋様の境目を、慎重になぞっていった。祖母から教わった注連縄の結い方、村で覚えた解錠の感覚、これまでの経験の全てが、指先に集約されていく。


 やがて、かちり、と乾いた音が響き、石の扉が、ゆっくりと開いていった。


「開いた……」


「見事だ。セレイア様御自身の結界を、これほど丁寧に解いてみせるとはな」


 ノアが、感嘆したように呟いた。結月は、額の汗を拭いながら、静かに息を整えた。あれほど複雑な紋様を、一つずつ丁寧に解いていく作業は、これまでのどの錠前よりも神経を使うものだった。


 中から、長い年月に閉ざされていた、乾いた空気が流れ出す。結月は深く息を吸い、レインと視線を交わした後、静かに一歩を踏み出した。


「行きましょう」


 三人は、記録庫の暗闇の中へと、足を踏み入れていった。祭壇に灯された蝋燭の火が、揺らめきながら、彼らの背中を静かに照らしていた。


第43話 了


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。