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境界の乙女  作者: みぎみみ


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第41話 答えを求めて

 傷が癒えたレインは、包帯の上から脇腹をさすりながら、結月の顔を覗き込んだ。


「もう平気だ。心配しすぎだ」


「でも、あんな深い傷……」


「お前が塞いでくれたおかげで、命拾いした。感謝してる」


 レインの言葉に、結月は複雑な表情を浮かべた。命を救えたことに、後悔はない。だが、あの一瞬の、自分の輪郭が薄れていく感覚は、まだ体の奥にこびりついたように残っていた。


「ノア。わたし、もっとちゃんと、この力のことを知りたいです」


 結月は焚き火の前で、真剣な眼差しをノアに向けた。ノアはしばらく黙り込んでいたが、やがて静かに口を開いた。


「セレイアの遺跡が、大陸の北東、大崩壊戦争の最終決戦地に、今も残っている」


「遺跡……」


「彼女が最後の戦いを繰り広げた場所だ。そこには、当時の記録や、彼女自身の手記が、今も保管されているはずだ」


「そこに行けば、この力の限界や、代償を乗り越える方法が、わかるかもしれないんですね」


 ノアは頷いたが、その目には躊躇いの色が浮かんでいた。


「案内はできる。だが、警告しておく。あそこは、今も境界が不安定な場所だ。危険は、これまでの比じゃない」


「それでも、行きたいです」


 結月の即答に、ノアは小さくため息をついた。


「君は本当に、頑固だね」


「レインさんにも、よく言われます」


 結月が苦笑すると、レインも小さく頷いた。


「危険は承知の上だ。だが、結月がこのまま力の限界を知らないまま戦い続ける方が、俺は怖い」


 ノアはしばらく二人の顔を見比べていたが、やがて観念したように尾を垂れた。


「わかった。案内しよう。ただし、道中も、遺跡の中も、僕の指示には必ず従ってほしい」


「約束します」


 結月は力強く頷いた。フィオナにも、この決断を伝えるべきだと考え、懐の通信具を握りしめる。しばらくして、フィオナからの返信が届いた。


『危険な旅になるでしょうけど、あなたの判断を尊重するわ。わたしはこちらで、引き続き証拠固めを進める。何かあれば、いつでも連絡して』


 結月はその言葉に、温かい安堵を覚えた。離れていても、確かに繋がっている仲間がいる。それだけで、これから向かう道への恐怖が、少しだけ和らいだ気がした。


「大陸の北東、か。ここからだと、どれくらいかかる」


 レインが地図を広げながら尋ねると、ノアは目を細めて考え込んだ。


「馬を使っても、十日はかかるだろう。しかも、途中には、教会の監視が及ばない代わりに、荒れた土地が広がっている」


「それだけ、行きにくい場所ってことですね」


「三百年間、誰も本格的に踏み込んでいない土地だ。当然だろう」


 結月は地図に描かれた、北東の広大な空白地帯を見つめた。そこに、自分の力の全てが繋がる、大切な答えが眠っている。


「明日、出発しましょう」


「これだけは、覚えておいてほしい」


 ノアが、真剣な声で付け加えた。


「遺跡に着いても、僕の案内なしに、勝手に奥へ進まないでほしい。あそこには、境界の乱れが原因で、まだ僕自身も把握しきれていない危険がある」


「わかりました。約束します」


 結月の返事に、ノアは、どこか安堵したように、小さく頷いた。焚き火の炎が、パチリと爆ぜる。カルダンでの一件から始まったこの一連の戦いは、いよいよ、より深い場所――過去の真実そのものへと向かおうとしていた。


第41話 了


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