第39話 王女の孤立
数日後、フィオナから届いた連絡は、これまでになく切迫したものだった。
「評議会で、糾弾された、って……」
結月は懐の通信具から伝わってきた言葉に、思わず息を呑んだ。ノアが心配そうに耳を伏せる。
「詳しい話を、聞きに行かないと」
「危険だぞ。フィオナ様に接触すること自体、今は監視の目が厳しいはずだ」
レインの忠告にも、結月は首を振った。
「フィオナ様は、わたしたちのために動いてくれています。今こそ、力にならないと」
結月たちは慎重に王都に潜入し、以前と同じ貴族の屋敷を訪ねた。出迎えたフィオナの顔には、隠しきれない疲労が浮かんでいた。
「無理して来なくてもよかったのに」
「フィオナ様が心配で」
結月の言葉に、フィオナは弱々しく微笑んだ。
「評議会で、証拠を提出しようとしたの。でも、ダレル侯爵派の議員たちが結託して、わたしを『王家の権威を私的に利用し、根拠のない中傷で教会を貶めようとしている』と糾弾した」
「そんな……」
「証拠の水晶も、『捏造された偽物』だと決めつけられて、正式な審議にすら至らなかった」
フィオナは拳を握りしめた。悔しさを堪えるように、声が微かに震えている。
「陛下は、まだわたしの話に耳を傾けてくださっている。でも、評議会の大半が教会の影響下にある以上、正攻法での追及は、限界に近づいているわ」
結月は唇を噛んだ。命がけで集めてきた証拠が、政治の力によって、これほど簡単に握り潰されていく現実に、怒りと無力感が入り混じる。
「わたしたちにできることは、ありませんか」
「今は、これ以上わたしに深く関わらない方がいいかもしれない」
フィオナの言葉に、結月は驚いて顔を上げた。
「わたしの立場が危うくなれば、あなたたちへの支援も途絶える。それに、わたしが教会と敵対的だと明確になれば、あなたたちを匿う口実すら失う」
「見捨てろって、言ってるんですか」
結月の声に、責めるような響きが混じった。フィオナは静かに首を振る。
「そうじゃない。ただ、今は互いに、少し距離を置いた方が、双方にとって安全だと思っただけ」
部屋に、重い沈黙が落ちた。結月はしばらく黙り込んだ後、フィオナの手を、両手でしっかりと握った。
「フィオナ様は、わたしたちのために、危険を承知でずっと動いてくれました。今度は、わたしたちがフィオナ様を守る番です」
「ユヅキ……」
「距離を置くんじゃなくて、一緒に、次の方法を考えましょう」
フィオナは驚いた表情を浮かべた後、やがて泣き笑いのような表情になった。
「あなたって、本当に、頑固ね」
「境目に関わることだと、特に」
結月の答えに、フィオナは小さく声を立てて笑った。張り詰めていた空気が、少しだけ和らぐ。
「正攻法が使えないなら、もっと大きな真実で、一気に覆すしかないわね」
フィオナは、これまでの弱気を吹っ切るように、表情を引き締めた。
「悔しいけれど、評議会という場所は、正しさだけでは動かない。だったら、正しさと同時に、誰の目にも明らかな衝撃を、突きつける必要がある」
「大聖堂の地下、ですか」
結月の言葉に、フィオナは真剣な表情で頷いた。
「あそこに踏み込んで、動かぬ証拠を掴めれば、評議会も、陛下も、もう見過ごせなくなるはずよ」
三人は互いに視線を交わした。危険は、これまでとは比較にならないほど大きい。それでも、後に引く選択肢は、もう誰の頭にもなかった。
第39話 了




