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境界の乙女  作者: みぎみみ


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第37話 出所を辿って

 人工の境獣が現れた森を調べていくと、その痕跡は、街道からさらに奥へと続く獣道へと繋がっていた。


「この先に、何かの拠点があるかもしれない」


 ノアの言葉に従い、結月たちは慎重に道を進んだ。半刻ほど歩いたところで、木々の合間に、隠すように建てられた小屋が見えてきた。


「見張りが、二人」


 レインが小声で告げる。結月は物陰から様子を窺った。小屋の周囲には、教会の紋章のない、簡素な作業着を着た男たちが立っている。


「教会の直属じゃない、みたいですね」


「下請け、というやつかもしれん。表立って教会が手を汚さないための仕組みだろう」


 二人は見張りの隙を突き、裏手から小屋に忍び込んだ。中は、想像していたよりも本格的な研究施設のようになっていた。壁際には、見たことのない素材――赤黒く脈打つような肉片や、結晶化した奇妙な物質が並べられている。


「これが……」


「魔界エレボスの素材だ。間違いない」


 ノアが険しい声で告げた。結月は棚に並ぶ素材を見つめながら、背筋が冷たくなるのを感じた。密輸されたこれらの素材が、あの巨獣のような兵器に加工されているのだ。


 部屋の奥にある机には、書類が乱雑に積まれていた。結月はその中から、輸送記録らしきものを見つけ出す。


「これ、レインさん」


 結月が差し出した書類には、素材の搬入経路と、その先の加工拠点の一覧が記されていた。複数の都市の名前と共に、最後の行に、ある地名が太く記されている。


「『中央工房――大聖堂地下、第三層』」


 レインの声が、緊張に強張った。


「王都の大聖堂の地下に、こんなものを作る本拠地があるということか」


「教会の中枢そのものが、密輸の拠点になっているんですね」


「信じたくはないが、これだけの証拠が揃えば、疑いようがない」


 レインは、書類を睨みつけながら、低く呟いた。かつて自分が仕えていた組織の、最も奥深い場所に、これほどの闇が隠されていた。その事実の重さに、レインの表情にも、隠しきれない怒りが滲んでいた。


 結月は書類を握りしめた。これまで集めてきた証拠の中でも、最も核心に迫るものだ。だが、その事実の重さに、身の竦む思いもあった。


 そのとき、小屋の外で、見張りの男たちの声が慌ただしくなった。


「おい、誰か中にいるぞ!」


 結月とレインは顔を見合わせ、素早く行動に移った。証拠の書類を懐にしまい、窓から外へと飛び出す。追いかけてくる男たちの声を背に、二人は森の中を駆け抜けた。


「大丈夫か」


 十分に距離を取ったところで、レインが息を整えながら尋ねた。結月は懐の書類を確かめ、頷いた。


「はい、証拠は無事です」


「王都の大聖堂地下、か。カルダンの南門の一件とは、比較にならないほど深い場所だ」


 レインの声に、これまでにない緊張が滲んでいた。結月は森を抜けた先に見える、遠く霞む王都の方角を見つめた。


「フィオナ様に、この情報も伝えないといけませんね」


「ああ。だが、教会の中枢に直接踏み込むのは、これまでとは訳が違う」


 レインの警告に、結月は頷いた。証拠は着実に積み上がっている。だが、その分、敵の本丸へと近づくほどに、危険もまた増していくのだと、改めて実感していた。


「わたしたち、少しずつ、本当のことに近づいていますよね」


「ああ。だからこそ、油断はできない」


 結月は懐の書類を、そっと押さえた。教会の中枢――大聖堂地下、第三層。その名前が、これから向かうべき道の、次なる目印として、結月の胸に深く刻まれていた。


第37話 了


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