↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界の乙女  作者: みぎみみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/80

第27話 懸賞金稼ぎ

 狩人小屋を発って三日後、結月たちは初めて、教会以外の追手に遭遇した。


「――見つけたぞ、境界の乙女!」


 街道沿いの茂みから飛び出してきたのは、武装した五人組の男たちだった。教会の紋章はどこにも見当たらない。粗野な身なりと、それぞれが手にした武器の使い込まれ方から、傭兵崩れの荒くれ者だとすぐにわかった。


「懸賞金目当てか」


 レインが剣を抜きながら、忌々しげに呟いた。


「懸賞金って、教会の?」


「他に誰がいる。噂を聞いて、賞金稼ぎまで湧いて出たか」


 男たちの一人が、下卑た笑みを浮かべながら前に出た。


「銀貨五百枚だとよ。生死は問わないってな。悪いが、痛い目を見てもらうぜ」


「五百枚……」


 結月は思わず息を呑んだ。数週間前まで、想像もしなかった額の懸賞金が、自分の頭にかけられている。その事実の重さに、一瞬、足が竦みそうになった。


「怖じ気づいたか、嬢ちゃん」


 男の一人が、槍を構えて突っ込んできた。結月は反射的に両手を構え、境目に意識を伸ばす。だが、恐怖で意識が乱れ、うまく力が定まらない。


「結月、落ち着け! 呼吸を整えろ!」


 レインの声が飛んだ。結月は深く息を吸い、これまでの修行を思い出した。強く動かそうとしなくていい。ただ、輪郭をなぞる程度で十分。


 槍の穂先の軌道に、薄い膜を張る。狙いは正確だった。槍が逸れ、男が体勢を崩す。


「今だ!」


 レインが素早く踏み込み、男を沈める。だが、残る四人が、示し合わせたように左右から挟み込んできた。教会の兵士のような統制はないが、荒事に慣れた動きだった。


「ノア!」


「わかってる!」


 ノアが結月の足元を駆け抜け、一人の男の足をすくうように地面を揺らした。境界魔法とは違う、精霊としての小さな力だ。男が転倒し、体勢を崩す。


「くそ、化け物が二人がかりかよ!」


 残る三人が、じりじりと距離を詰めてくる。結月は肩で息をしながら、それでも両手を下ろさなかった。


「わたしは、化け物なんかじゃない」


 結月の声に、確かな怒りが滲んだ。境目に意識を集中させ、今度は自分と男たちの間の空間全体に、大きく薄い膜を張り巡らせる。前に進もうとする男たちの足が、見えない壁に阻まれるように止まった。


「なんだこれ……!」


「押せ、押し通れ!」


 男たちが力任せに膜を押すが、簡単には破れない。その間に、レインが素早く二人を制圧し、残る一人も、膜に気を取られている隙にノアの足払いで倒れた。


 全ての決着がつくまで、それほど時間はかからなかった。結月は膜を解き、その場に膝をついた。全身から力が抜け、荒い息が漏れる。


「大丈夫か」


 レインが駆け寄り、結月の肩を支えた。結月は小さく頷いたが、その顔には、これまでとは違う陰りがあった。


「懸賞金って、これからも増えていくんですよね」


「おそらくな」


「わたしのせいで、こんな人たちまで引き寄せてしまう」


 結月の声に、レインは首を振った。


「お前のせいじゃない。懸賞金をかけたのは教会だ。それに乗って襲ってきたのは、こいつらの選択だ」


「でも――」


「結月」


 レインは結月の肩を、しっかりと掴んだ。


「お前が正しいことをしているから、こういう連中に狙われる。それは、恥じることじゃない」


 結月はその言葉に、しばらく黙り込んだ。荒い呼吸を整えながら、自分の中の迷いを、少しずつ静めていく。


「わたしたち、このままただ逃げ続けるだけじゃなくて、何か対策を考えないといけませんね」


「ああ。フィオナ様とも、そろそろ次の一手を相談する頃合いだ」


 結月は頷き、倒れた男たちを縄で縛り上げるレインを手伝った。


 男たちの一人が、朦朧としながらも、恨めしげに結月を睨みつけた。


「な、なんで殺さねえんだ。俺たちは、お前を殺しに来たんだぞ」


「殺す必要が、ないからです」


 結月は、静かにそう答えた。男は、その返答の意味が理解できないというように、目を瞬かせた。


「あんた、変わってるな」


「よく言われます」


 結月は、それ以上、男と言葉を交わすことはしなかった。ただ、縄をしっかりと結び、街道の近くの木に、動けないように括り付ける。通りがかった人が、いずれ見つけて衛兵に届けてくれるだろう。


 街道の向こうに、遠く街の灯りが見え始めている。懸賞金の重みは、確かに結月の肩にのしかかっていた。それでも、その重みに押し潰されるつもりは、微塵もなかった。


第27話 了


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。