↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界の乙女  作者: みぎみみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/80

第19話 同盟

「密輸の件は、わたしも独自に調べていたの」


 フィオナは机の引き出しから、分厚い書類の束を取り出した。結月はそれを覗き込みながら、レインも呼ぶべきかと考えたが、フィオナは首を振った。


「あなたの連れの方には悪いけど、まずは二人で話したいの。男性がいると、話しにくいこともあるでしょう」


「はい、大丈夫です」


 結月は頷いた。実際、レインは図書館の入り口付近で見張りを続けているはずだ。フィオナは書類を机に広げ、指先で示しながら説明を始めた。


「この二年ほど、王国各地の港や国境沿いの町で、子供の失踪事件が相次いでいるの。孤児院からの『引き取り』という名目で連れ去られるケースが多くて、書類上はすべて合法に見えるように処理されている」


「合法……」


「教会には、貧しい子供を『保護』する権限があるのよ。表向きは、な。実際には、その保護先が――」


 フィオナは言葉を切り、結月の目を見た。


「あなたが見た、あの木箱の中身と一致するんじゃないかしら」


 結月は拳を握りしめた。あの夜の子供たちの怯えた顔が、まざまざと蘇る。


「その子たちは、どこに運ばれているんですか」


「わからない。だからこそ、調べているの。ただ、ひとつ気になる情報がある」


 フィオナは書類の一枚を取り出した。地図らしきものに、いくつかの印がつけられている。


「十日後、王都から東に三日ほどの都市、ガレスで、大規模な『境界儀式』が行われる予定になっている。教会主催の、非公開の儀式よ」


「境界儀式……」


「表向きは、都市の結界を維持するための定期的な儀式。でも、規模がこれまでにないほど大きい。準備のために、大量の魔石と、それに――」


 フィオナは言い淀んだ。結月は息を詰めて続きを待った。


「特別な『触媒』が必要だという記録が、教会内部の書類に残っていたの。触媒の詳細は伏せられているけれど、時期的に、子供たちの失踪と重なっているのが気になって」


 結月の背筋に、冷たいものが走った。ノアの言っていた「生贄」の噂が、頭をよぎる。


「もし、その儀式に子供たちが使われているとしたら」


「まだ確証はない。でも、可能性は高いと思っている」


 フィオナは地図を指し示した。


「ガレスは、王都から比較的近い。もし本当にそこで何かが行われるなら、あなたの力が、真実を暴く鍵になるかもしれない」


 結月は地図を見つめながら、ゆっくりと頷いた。


「行きます。真実を確かめないと」


「危険よ。ガレスには聖堂騎士団の分隊が常駐している。それに、儀式当日はゼルギウス卿が直接指揮を執るという噂もある」


 その名前に、結月の喉が、小さく鳴った。だが、怯む気持ちよりも、確かめなければならないという意志の方が強かった。


「それでも、行きます」


 結月の声に、フィオナはしばらく黙り込んだ後、小さく微笑んだ。


「あなたみたいな人、嫌いじゃないわ」


「フィオナ様は、来てくれないんですか」


「行きたいのは山々だけど、わたしが王都を離れれば、すぐに気づかれる。ここで情報収集を続けて、必要なときに援護するわ」


 フィオナは机の引き出しから、小さな懐中時計のようなものを取り出し、結月に手渡した。


「これは、王家の通信術式が組み込まれた道具よ。緊急のときは、これを握って強く念じて。わたしのところに、合図が届くようになっているから」


 結月はそれを受け取り、大切に懐にしまった。手のひらに残る、わずかな重みが、心強い支えのように感じられた。


「ありがとうございます」


「お礼を言うのはこっちよ。あなたのおかげで、ようやく手詰まりだった調査が動き出しそう」


 フィオナは書類を纏めながら、真剣な表情で結月を見つめた。


「気をつけて。あなたを失うわけにはいかないの。この国の未来のためにも」


 その言葉の重みに、結月は改めて、自分が背負い始めているものの大きさを実感した。図書館を出た結月は、待っていたレインに、これまでのやり取りを手短に伝えた。


「ガレス、か」


 レインは地図の場所を思い浮かべるように、目を細めた。


「面倒なことになったな」


「でも、行かないと」


「わかっている。準備を整えよう」


 王都の空は、夕暮れの色に染まり始めていた。結月は懐にしまった通信術式の道具に、そっと手を添えた。真相へと続く道は、確実に、しかし危険な方向へと開かれ始めていた。


第19話 了


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。