あの頃のまま。
ガヤガヤと騒がしい3年4組の教室。
私は、4限目が終わり空腹に耐えながらも、いつも通り椅子をゆいかの席まで引っ張っていた。
いつも私とゆいかと月乃とありさちゃんは、ゆいかの席に集まって他愛もない話をしながら昼食をとるのだ。
椅子を持ってきた月乃が4限目の先生の授業の愚痴を漏らしているのを聞きながら、私はいつもよりも騒がしい廊下の方を咄嗟に振り返った。
3年生のフロアはいつも騒がしいけれど、一層騒がしくなった気がしたのだ。
振り返ると目をハートにした女子の同級生たちのかたまりが見えた。
「すみませーん、莉央センパイ呼んでもらっていいっすかー?」
女子たちのかたまりの原因だったのは、扉にもたれかかりながら、気だるげにそう言う弥生だった。
ついでに横に進也と優もいる。
「げ。弥生…ちょっと、ゆいか匿って。今あの中に行ったら女子たちの餌食になる」
「えー、無意味な気がするけど…?」
私は危機を察知してゆいかの後ろに隠れた。
「ねぇ莉央姉ちゃんっ」
「うわっ…」
急に後ろから聞こえた優の声に肩をびくりと揺らして、後ろ振り向くと口だけ笑っている3人がいた。
「…何で来たの。ここ、3年のフロアなんだけど?」
「莉央姉ちゃんとお昼食べようと思って」
「はあ?私、友達と食べようとしてたんだけど。ていうかあんたら3年の女子たちも引き連れてんだから、その中の子と食べればいいじゃない」
ねえ?と女子のかたまりに目を向けると、頭がもげるかというくらい頷かれた。
痛そう。
「行ってきなよぉ、莉央。話聞かせてくれるんでしょ?つか聞かせろ。行ってこい」
「はあ?!月乃、何言ってんの?あんたには高橋というダーリンが…」
「イケメンは別腹!あと高橋のこと口にしたら駄目!」
月乃は片思いを暴露されかけて顔を真赤にしてそう言った。
月乃は援護してくれると思っていたけれど、敵だった。解せぬ。
「ねえ莉央姉ちゃん、来てくれないの?」
最後は優の上目遣いと猫撫で声でトドメを刺された。
「…行き、マス」
なんやかんや言って、年下幼馴染には弱いことを認識してしまった。
ありさちゃんとゆいかに謝って、お弁当を抱えて3人について行く。まわりの獣みたいな顔した女子たちが怖い。怖すぎる。
3人に連れてこられたのは屋上だった。
いや私のほうがこの学校にいる時間は長いのに、なんで3人はここまで辿り着いたのだろうか。
立入禁止、という校則はないけれど鍵がされているので、今まで突破者はいなかったはずなのに、この子たちはヘアピン1本で開けた。天才肌過ぎて、もう怖い。
初めての屋上から見る空を見上げていたら、3人が私の方に振り返った。
「ねえ莉央サン。なんで何も言わずに居なくなっちゃったわけ?俺らって仲良かったよね?」
まずい…。
弥生が私のことをさん付けで呼ぶ時は、結構怒ってらっしゃるときだ。
「いやぁ…何か言ったら3人は私を止めるでしょう?元々行きたかった高校だったから。それより、3人は何でこの学校に来たのよ。3人ともバレーの強豪校から推薦来てたよね」
そう。この3人には県内トップ3に入るバレーボールの強豪校から推薦がきていたのだ。
中学時代に始めたバレーボールはこの3人にとって大きな強みになっていた。
3人が出ていた試合で、強豪校の監督から3人の母親が声を掛けられていた、と私の母が嬉しそうに話しているのを聞いた覚えがある。
「んー、まあそうなんだけどねぇ。そこまで僕たちにとってバレーは大切じゃなかったっていうか」
「…バレーは好きだけど、たかが県内トップ3だよ。別に行かなくても良かった」
「バレーよりも莉央姉ちゃんを追いかけなくちゃいけなかったし」
3人はあっけらかんと涼しげに言い放った。
悔しいけど、悔しいけど、私の幼馴染は立派に育っていた。
「…もう!あんたらの人生なのに私のために高校生活全部賭けるなんて、馬っ鹿じゃないの?かっこつけやがって!」
私は3人にタックルしながらそう言った。
「姉ちゃんの馬鹿力!」と弥生。
「…久しぶりにくらったな」と進也。
「あはははは!なっつかしー!」と優。
私たちの身長は伸びるし、一人一人が纏う空気は変わってしまうけれど、私たちが集まったときの空気は幼かったあの頃のまま。
あの頃から変わってしまったことといえば、あの人がいないことくらいだろうか。




