「金色の娘と砂の旅人」プロット
果てしない砂漠を旅する白衣の男。彼は最愛の人を失った。彼女は月の神格精霊の憑代として生贄に捧げられ、今や自我の無い精霊として空を漂っているだけだ。彼はその自我を取り戻す方法を求めて旅を続けていた。
彼の目的は、"なんでも願いが叶う魔法の器物"。 精霊ジンが閉じ込められ、持ち主の願いを何でも叶えると言う。
その力を使って、彼女に自我を取り戻す事はできないかと探している。
白衣の男と、その式神の力で、彼らは見つけ出した。賑やかな骨董市に、その存在を忘れられた"それ"。そのランプはあった。器物に封じられたジンの中でも、特に強い力を持つと言われる"ランプの魔神"。
ランプを手にした白衣の男は、街から離れ、その封印を解いた。代償は、彼の少年の頃の記憶。彼女と過ごした大切な日々の記憶。それを失っても、彼の猛執は失われない。彼はランプを擦った。
すると、ランプが震え、金色の光が溢れ出した。甘い香りとともに美しいジンが現れた。その魔神は白い羽と金色の装飾に彩られ、その姿は、まるで蚕が繭から生まれ変わった姿のよう。魔神は暗く俯き、目には力無く虚空を見つめる。しかし、肩を巻きながらも彼女の大きな胸が堂々とした存在感を放つ。
彼女は少し顔を上げ、彼を向いた。そして静かに微笑みながら男に言った
「わたし、カナクプリヤ(金色に輝く娘)と申します。あなたがわたしを呼び出したニープナ(ご主人様)ですね。さあ、ニープナ、願いをお申し付けください。どんな願いでも、3つだけ、叶えてさしあげます」
その表情は暗いながらも、その言葉は気品溢れる。その唇から漏れる声は、上品ながら色香を帯び、まるで誘うように響いた。
彼は彼女に願いを告げる。死して精霊となった魂を取り戻したい。
しかし、カナクプリヤは答える。いかなランプの魔神といえど、神の理を超えた死者の蘇生は難しい。ましてや、ジンを遥かに超える巨大な存在となったヨルダの自我を取り戻す事は、彼女の力の範疇を超えていた。
男は、代わりの一つ目の願いを伝える。死者を甦らせる方法を教えてくれ。
「神の理を超え、魂を呼び戻す魔法がございます。西方の秘境に隠された禁断の祭壇なら、死者の魂に再び自我を与え蘇らせる事がでると言われています。その祭壇ならもしや。その場所まで、わたしがご案内いたします」
白衣の男とその式神、カナクプリヤの3人は禁断の祭壇を目指して旅を始める。
灼熱の砂漠を越え、魔物の巣窟を抜ける。
旅を続けるうち、初めの暗い雰囲気から徐々に明るさを取り戻すカナクプリヤ。どうやらこの快活で自信溢れる彼女が、本来の性格の様だ。
夜のオアシスで休息を取った際、ふと彼はカナクプリヤに尋ねた。貴女は、私が他に会ったジン達とまるで違う。彼らは問い掛ければ答えるだけの、虚な自我しか持たなかった。貴女はまるで人の様に話し、そして笑う。その理由が知りたい、と。
彼女はイタズラっぽく微笑み答える。
「もしかして...それが、二つ目の願いかしらぁ?」
ああ、それで構わない、と男は答える。カナクプリヤは更に明るい表情となり。
「冗談ですよぉ。最初の願いにちゃん応えられない代わりに、サービスでおしえちゃいますね」
彼女は一瞬目を伏せ、静かに語り始めた。
「わたし、かつては人間のお姫様でした。愛する者との恋が許されず、命を奪われ、このランプに閉じ込められたのです。わたしの金色の装飾は、失われた愛と自由の象徴…。きっとあなたのお姉様と同じ様に、わたしも自由を求める身だったりするんですよ?」
彼は、彼女に姉の姿と、姉を失った自分の哀しみとを重ね合わせた。
男は、姉の魂を取り戻したら、次は貴女を自由にする方法を見つけよう。そう申し出る。
カナクプリヤはイタズラっぽく首をかしげ、クスクス笑いながら応える。
「そのお心遣い、ありがたく思います」
彼女は髪をかきあげ、オアシスの泉に写る自分の姿を見つめる。そして続ける。
「美しいでしょう? わたし......。わたし、実は自分の姿に、ちょっぴり自信持っちゃったりしちゃってるんですよぅ?」
と微笑んだ。
彼は、彼女の唐突な言葉にキョトンとする。
「わたしの姿に心奪われ、わたしの身体を手に入れようとした方々、妻に迎え入れようと願った方々は数多いらっしゃいました」
彼女は続ける。
「ですが、私は既に肉体を失った身。ランプから解き放たれても、持つのは虚な仮初の体だけ。それを聞くと、貴重な願いをそんな事には使えないと、みなさん諦めちゃうんですよねぇ...」
彼女は口元に微笑みをたたえ、顔を上げた。
しかし、その眉には隠しきれぬ哀しみが浮かんでいた。
白衣の男は、なんだ、そんなくだらない誤解をしていたのか。私の目的は姉を取り戻す事だけ。貴女の身体になど興味は無い。と続けた。
カナクプリヤは少し驚き、苦笑いしながら言った。
「あんまり期待はしてませんけど、わたし、楽しみにしていますねぇ」
そう、自信を湛えた声で答えた。
男は彼女の気品ある姿と、大きな胸を堂々と見せる妖艶な態度に、徐々に心を許していた。
カナクプリヤの導きで、祭壇にたどり着いた男。式神とカナクプリヤの力で祭壇の起動法を突き止め、祭壇に願う「姉の魂を呼び戻してほしい」と。
しかし、祭壇から響く声が伝える。死者を甦らせるには、引き換えとなる魂が必要だと。
ー姉を蘇らせるには、生贄が必要だと言う。かつての姉の様な...。その矛盾に苦悩する男。
主人の願い事を叶えるのが、ランプの魔神の役目。そして...男の本来の一つ目の願い事は、亡き姉の復活...
「...わたしに...。わたしに、任せちゃってください!」
カナクプリヤはニコリと微笑み、祭壇に身を投げた。起動した祭壇、輝く中から現れたのは、変わらぬ美しいカナクプリヤの姿。
しかしその口調は姉のそれ。語りかける言葉も語る記憶も姉の物。喜びに震える白衣の男。
しかし式神が異変に気づく。彼女は子供の頃の記憶を全て失っていた。式神が、耳が痛くなるほど男に聞かされた(男の主観的には)楽しい思い出。
その記憶が一切ない。まるで、その記憶をカナクプリヤに捧げた白衣の男の様に...。
式神はその謎を解き明かす。それは死者を蘇らせる祭壇ではなく、生者の魂を、望む者の記憶を映す鏡に作り替えるだけの紛い物。
絶望に沈む男。
式神は男にかける言葉も無くし、静かに祭壇を逆操作してカナクプリヤを取り戻す。
肩を落としたまま、男はカナクプリヤに問う。
ジンとはなんなんだ?精霊なのに自我を持つ。そして、強力な力を持ちながら器物に閉じ込められている。その秘密を知りたい、と。
そして続ける。
私は記憶を写すだけの紛い物で無く、姉の自我をこの世に留める方法。それをジンの秘密から作り上げたい。その為に、その身を私に捧げろ、カナクプリヤ。それが2つ目の願いだ、と。
しばらく後、ジンの秘密を解き明かしたものの、その道の先には望む物は無い、と知った白衣の男。
その道の導きとなる魔神にも興味を失い、他の数々の禁術に手を出している。カナクプリヤと話すどころか、目を向ける事すら稀だ。
その姿に、式神は皮肉めいた口調で主に聞く。
「...旦はん、ヒメの事、どうなさるおつもりなん?
いつまでも飼い殺しのよぉに手元に置いて。
ヒメを自由にするとか言うてた、いつかのオアシスの話は、まあ夢か空耳やったんやねぇ」
白衣の男は式神の皮肉に、自虐的にフッと笑った。およそ数ヶ月ぶりにカナクプリヤを見て言う。そうだな、3つ目の願いだ。オマエに自由を、と。
実にあっさりと、カナクプリヤはジンの姿のまま自由となった。白い羽と金色の装飾が輝きを増し、彼女の妖艶な美しさが一層際立った。
式神はカナプクリアに言った。
「はあ、せいせいしたわぁ。そのデカいもんのせいで、狭うてしゃあなかったんや。まあ、ずーいぶんと遅めのセカンドライブいうのんも、ええんやないの?」
カナクプリヤは微笑んだ。彼女もまた、男の姉と男自身に自分を重ねていたのだった。
彼女はジンの姿のまま、金色姫と名を変え、男のそばに留まることを選んだ。男の住処とほど近い、森のほとりに居を構え、彼女は笑う。
「あたしですか?そぉですねぇ〜、昔はなんでも叶えちゃう“魔法のお姉さん”だった、かも?うふふ、ちょっと盛っちゃったかしら?」
——完




