その泉、聖域につき 〜君風番外編〜
泉の水面が、ゆるく揺れている。
差し込む陽射しが、緑の葉を透かし、水に模様を描いていた。
飛鳥達が野営しているキャンプ地...
Romela’s Riot Clubからの差し入れ、お姉様方から飛鳥へのプレゼント、ウェーリー信者の貢物...などなどで、随分と居心地が良くなったテントの隣の泉。
静けさに包まれたその場所には、水音と、笑い声が響いていた。
陽光の下、ツヤツヤと光るウェーリーの肌。
しなやかな腕、緩やかな胸元、尾鰭が水に揺れるたび水飛沫が宙を舞う。
ロメラは、ツギハギだらけの腕で、濡れた髪をかき上げながら「あー、背中洗う用ブラシ持ってくりゃよかった」とボヤきつつも、肩まで泉に浸かって気持ち良さそうにしている。
「おら、リンド。そんな端っこで縮こまってっと、よけい変に見えんぞ〜?」
「や、やだってば……っ、だって、ロメラが変なとこばっか見てくるからっ……!」
「ん〜? オレはただ、そのカワイイ翼と腕の境目が、えっちぃな〜って言っただけじゃん?」
「言ってるのそれだよっ!!」
飛鳥は翼で、ばしゃっと水を跳ね返し、ぷるぷると震えながらロメラから距離を取る。
その様子に、泉の中心近くで優雅に漂っていたウェーリーが、ぬるりと近づいた。
尾鰭:くるんくるん(だいじょうぶ、羽根が可愛いのは誇ってよいこと)
「……アクウェリーナ……」
飛鳥の頬が、またふわっと赤くなる。
「だって、なんか、こそばゆくなるんだもん……“可愛い”とか、そう簡単に言われると……」
尾鰭:すいすい → ぴとっ(ならば触れて確かめる)
ウェーリーが、そっと飛鳥の翼の縁に頬を寄せる。
水の中で、鱗の滑らかな感触がやさしく羽毛をなでる。
「ひゃっ……あっ、ちょ、まっ、あの……っ!」
羽根をばたつかせた飛鳥がバランスを崩し、ばしゃんと水の中へ。
そこに、ロメラが背後からすかさずダイブしてきて——
「キャッチ!! あ〜あ、風呂でもないのに全裸祭りとは風流だなぁ〜、オレら!」
「裸じゃないもんっ! ちゃんと隠してるもん……!」
「ギリな!」
「ロメラああああああっ!!」
ふたりのやり取りを眺めながら、ウェーリーは泉の中央でくるりと一回転し、尾鰭をたわめた。
尾鰭:ぐるぐる → ぽしゅっ(飛鳥は私のもの、ロメラは離れろ)
しかし、それを合図にしてロメラが飛鳥を背後からがばっと抱きしめた。
「ほら〜、しっぽ語きたぞ。オレらベタベタ禁止令だってさ、リンド?」
「ううううう……もう知らないっ!」
飛鳥は真っ赤になって、ぷしゅーっと水面に沈みそうになった。
その頭を、ウェーリーがそっと抱き寄せてなでる。
尾鰭:ふわ、ふにゃ、ぺたぺた(なでなで、よしよし、落ち着いて)
「……ありがと、アクウェリーナ……でも、それがいちばん恥ずかしいの……」
泉の中、ぬるくて甘い時間が、光と水の粒の中に漂い、
三人はただ、気持ちよさそうに、午後の水の中を揺れていた。
***
その木立の奥。
息を潜め、葉陰から様子を伺っている影があった...
「……やべぇ、マジで天女の水浴びだぞ……」
「ありゃ反則……乳と尾鰭の暴力じゃねぇか……」
「しっ!声出すなって! ……この距離、最高だ……!」
***
「……あれだ。ギターの姉ちゃん……!」
「おお……あれがあのチューブトップの下……まじかよ……。あの柔らかそうな……ッ!」
チューブトップに押し込まれていたほどよい膨らみと、その下にちらついていたヘソ。
風に濡れた髪がなびくたび、影と光のコントラストが妙に艶っぽく、彼らの理性を激しく削っていく。
「……でもな、あの子も捨てがたいんだ……」
視線が、ロメラの傍らで髪を解き、そっと水面に翼を伸ばしている少女へと移る。
華奢で白い肩。
細く、儚げな身体。
胸元は控えめで……だがそこがまた良いと、三人目が唸る。
「“妹系”はな……一周して最強なんだ……庇護欲ってやつよ」
「は……っ、ちょ、待て、あそこ……っ!」
——視線が、泉の中央へと吸い寄せられた。
水に浮かぶように腰掛ける、一人の女性。
濡れた肌は艶やかにほのかに光り、尾鰭はゆるやかに揺れて波紋を描く。
大きく、均整の取れた胸が、水面のすぐ上でゆるやかに上下していた。
「…………あれ、見た……?」
「……罪だろ、あれ……」
「人じゃないってのが、逆に……逆にヤバい……」
誰もが声をひそめ、魅了されたように息を呑む。
その間にも、ウェーリーは無言のまま尾鰭を小さく動かし、水音だけが静かに響いていた。
——彼らは、
日頃から、酒場でロメラのギターとヘソを肴にし、飛鳥に“抱きしめたくなる……”などと呟き、ウェーリー(の胸部)を見ては「女神だ...」と拝む者たちである。
その彼らが今、聖域に踏み込んだ——いや、踏み入れてしまったのだ。
「……っ、オレ、もう限界……」
とうとう、男のひとりが、草むらの影でごそごそと——
その時である。
「Yo, perv patrol. アウトォー。」
男達が振り向くと、素肌に革ジャンを羽織ったロメラが、静かに立っていた。
男たち、全員硬直。
「お、おおおおい、なんで!? いま水浴びしてたじゃ……!!」
「……天国はすっかり堪能したか?次はGo to hell(地獄へご招待)だ」
「Say hello to…【Black String #7】!!」
ロメラの腕を縫っている黒糸が解け、黒炎の様に腕の周りに立ち昇る。
「ちょ、ちょっと待て、話せば……!」
言い終わる前に、ロメラが空を拳で振り抜く。追随する黒糸が、暴風の様に一人の男を吹き飛ばした。
バキッ!
——そのとき、泉にいた飛鳥が、気づいて振り返った。
「……ん? ……え……な、なに、今の音……?」
木の陰から、吹っ飛んでくる一人の男。
「……っっ!?」
飛鳥の顔が一気に真っ赤に染まり、翼をばたつかせ、水しぶきがはねる。
「ま、まままま、見られてたのっ!? い、いや、まさか……っ! 嘘、ちょっ、えっ、ロメラっ!ロメラァァ!!」
ぽふっ!
両手(というか翼)で顔を覆いながら、水に沈みかける。
全力で身体を小さくし、泉の端っこでぷるぷる震える飛鳥。
残り二人が逃げようとする——
ぐるっ、パシィィッ!!
その足元、泉の中から飛び出した水鞭が、躊躇なく足首を絡め取る!
「う、うわあっ!? 水が、生きて……っ!?」
ウェーリーが尾鰭をゆらし、静かに“しっぽ語”で怒りを表す。
・尾鰭、ピンと立てる=「警告」
・首すじに尾鰭を添える=「処刑許可」
・スッ、っと横に引く=「決定」
バチーン!
びしゃああっ!
水柱クラッシュ!
飛鳥が慌てて駆け寄る。
「わ、わあああああ!? アクウェリーナ、もうやめてあげてっ!」
尾鰭が「しぶしぶ許す」の角度でゆるく揺れると、水はぴたりと静まり返った。
***
夕暮れも近づく村の広場、
そこに転がされていたのは、三人の男たち。
手首は、「どこ触ってた手かわかんねーしな」と、ロメラのギター弦でしっかり結ばれていた。
転がされた姿勢のまま、男たちは顔を見合わせていた。
ひとりは鼻にススがつき、もうひとりは頬にしっぽ型の赤い痕。
最後のひとりは、顔面にしっかりと羽毛の跡がついていた。
そして彼らを囲む、異様な雰囲気を漂わせる三つの団体。
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【Romela’s Riot Club】
タンクトップやチェーンアクセに身を包んだ若者たち。
ギターケース型のバットや、缶バッジだらけの革ジャンで武装し、明らかに悪目立ちしている。
「姐さん狙ったって、どういう了見だァ!?」
「ギターが泣くぞ、クソ親父!!」
「Romelaは音楽の女神、聖域なんだよボケェ!!」
パンチ、キック、回し蹴り——
男たちが転がるたびに、ギターの描かれたシールがぺたぺたと体中に貼られていく。
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【アクウェリーナ教徒(通称:ウェーリー信者)】
全員白い服を身にまとい、人魚モチーフのオリジナルシンボルの描かれた布を、額に巻いた男たち。
なぜか皆一様に、まるで"常に賢者モード"かの様な穏やかな表情をしている。
「アクウェリーナ様を穢すとは……」
「悔い改めなさい...」
「これも、修行と思いなさい...」
男たちは、水の入った桶で、ひたすら三人に水をぶっかけ始めた。
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【飛鳥ちゃんを愛でる会】
最後に登場したのは、村の年若い娘たちと、お姉様方。
「飛鳥ちゃんの羽根にっ……!」
「水浴び中の乙女を、覗くなんて……!」
「この清らかで儚げな生き物にッ!! お前らの視線を!! 穢れッ!!」
きれいな布で包んだ菜箸パンチ、
ぬか床入りの鉄拳、
ちりとりスラッシュなど、地味に痛い攻撃が続く。
————
飛鳥は、ひとりその輪の外で、
「ま、待って……ちょっと、やりすぎ……!」とオロオロするばかり。
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ロメラ(指導・傍観)
「……ま、いい見せしめだろ?」
革ジャンの袖をまくりながら、木陰で腕を組むロメラ。
目元には一切の憐憫なし。
ギターの弦をもう一組、くるくると指に巻いていた。
⸻
ウェーリー(無言の満足)
広場の噴水の中で、静かに尾鰭を振るウェーリー。
無表情なその顔が、妙に満足げに映る。
その尾鰭:ぱしゃ……スッ……くるん……(処刑完了・心地よき静寂)
その姿はもはや水辺の審判者であった。
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全身ぐったりしたスケベ三銃士が、広場に打ち捨てられていた。
それを子供たちが囲み、木の棒でつんつんしている。
「……こいつら、また来たら、次は飛鳥お姉ちゃんの“飛び蹴り”食らうかな?」
「ええええっ!? そ、それは……その……や、やらないけどっ!!」
「……教えるか? Rolling Sobat」
尾鰭をふるふると縦に(賛成)
——風が吹いた。
その音は、どこか滑稽で、けれど暖かい、
“守られた者たちの夜明け”を知らせる音だった。
——おしまい。
※村の道徳は守りましょう。
※飛鳥は全方位にモテますが、ピュアです。




