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君は、風に還る。  作者: 矢崎 那央
第二部
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32/58

その泉、聖域につき 〜君風番外編〜


泉の水面が、ゆるく揺れている。

差し込む陽射しが、緑の葉を透かし、水に模様を描いていた。


飛鳥(あすか)達が野営しているキャンプ地...


Romela’s Riot Club(ロメラファンクラブ)からの差し入れ、お姉様方から飛鳥へのプレゼント、ウェーリー信者の貢物...などなどで、随分と居心地が良くなったテントの隣の泉。


静けさに包まれたその場所には、水音と、笑い声が響いていた。


陽光の下、ツヤツヤと光るウェーリーの肌。

しなやかな腕、緩やかな胸元、尾鰭が水に揺れるたび水飛沫が宙を舞う。


ロメラは、ツギハギだらけの腕で、濡れた髪をかき上げながら「あー、背中洗う用ブラシ持ってくりゃよかった」とボヤきつつも、肩まで泉に浸かって気持ち良さそうにしている。


「おら、リンド。そんな端っこで縮こまってっと、よけい変に見えんぞ〜?」


「や、やだってば……っ、だって、ロメラが変なとこばっか見てくるからっ……!」


「ん〜? オレはただ、そのカワイイ翼と腕の境目が、えっちぃな〜って言っただけじゃん?」


「言ってるのそれだよっ!!」


飛鳥は翼で、ばしゃっと水を跳ね返し、ぷるぷると震えながらロメラから距離を取る。

その様子に、泉の中心近くで優雅に漂っていたウェーリーが、ぬるりと近づいた。


尾鰭:くるんくるん(だいじょうぶ、羽根が可愛いのは誇ってよいこと)


「……アクウェリーナ……」


飛鳥の頬が、またふわっと赤くなる。


「だって、なんか、こそばゆくなるんだもん……“可愛い”とか、そう簡単に言われると……」


尾鰭:すいすい → ぴとっ(ならば触れて確かめる)


ウェーリーが、そっと飛鳥の翼の縁に頬を寄せる。

水の中で、鱗の滑らかな感触がやさしく羽毛をなでる。


「ひゃっ……あっ、ちょ、まっ、あの……っ!」


羽根をばたつかせた飛鳥がバランスを崩し、ばしゃんと水の中へ。

そこに、ロメラが背後からすかさずダイブしてきて——


「キャッチ!! あ〜あ、風呂でもないのに全裸祭りとは風流だなぁ〜、オレら!」


「裸じゃないもんっ! ちゃんと隠してるもん……!」


「ギリな!」


「ロメラああああああっ!!」


ふたりのやり取りを眺めながら、ウェーリーは泉の中央でくるりと一回転し、尾鰭をたわめた。


尾鰭:ぐるぐる → ぽしゅっ(飛鳥は私のもの、ロメラは離れろ)


しかし、それを合図にしてロメラが飛鳥を背後からがばっと抱きしめた。


「ほら〜、しっぽ語きたぞ。オレらベタベタ禁止令だってさ、リンド?」


「ううううう……もう知らないっ!」


飛鳥は真っ赤になって、ぷしゅーっと水面に沈みそうになった。


その頭を、ウェーリーがそっと抱き寄せてなでる。


尾鰭:ふわ、ふにゃ、ぺたぺた(なでなで、よしよし、落ち着いて)


「……ありがと、アクウェリーナ……でも、それがいちばん恥ずかしいの……」


泉の中、ぬるくて甘い時間が、光と水の粒の中に漂い、

三人はただ、気持ちよさそうに、午後の水の中を揺れていた。



***



その木立の奥。

息を潜め、葉陰から様子を伺っている影があった...


「……やべぇ、マジで天女の水浴びだぞ……」


「ありゃ反則……乳と尾鰭の暴力じゃねぇか……」


「しっ!声出すなって! ……この距離、最高だ……!」



***



「……あれだ。ギターの姉ちゃん……!」


「おお……あれがあのチューブトップの下……まじかよ……。あの柔らかそうな……ッ!」


チューブトップに押し込まれていたほどよい膨らみと、その下にちらついていたヘソ。

風に濡れた髪がなびくたび、影と光のコントラストが妙に艶っぽく、彼らの理性を激しく削っていく。


「……でもな、あの子も捨てがたいんだ……」


視線が、ロメラの傍らで髪を解き、そっと水面に翼を伸ばしている少女へと移る。

華奢で白い肩。

細く、儚げな身体。

胸元は控えめで……だがそこがまた良いと、三人目が唸る。


「“妹系”はな……一周して最強なんだ……庇護欲ってやつよ」


「は……っ、ちょ、待て、あそこ……っ!」


——視線が、泉の中央へと吸い寄せられた。


水に浮かぶように腰掛ける、一人の女性。


濡れた肌は艶やかにほのかに光り、尾鰭はゆるやかに揺れて波紋を描く。

大きく、均整の取れた胸が、水面のすぐ上でゆるやかに上下していた。


「…………あれ、見た……?」


「……罪だろ、あれ……」


「人じゃないってのが、逆に……逆にヤバい……」


誰もが声をひそめ、魅了されたように息を呑む。


その間にも、ウェーリーは無言のまま尾鰭を小さく動かし、水音だけが静かに響いていた。



——彼らは、


日頃から、酒場でロメラのギターとヘソを肴にし、飛鳥に“抱きしめたくなる……”などと呟き、ウェーリー(の胸部)を見ては「女神だ...」と拝む者たちである。


その彼らが今、聖域に踏み込んだ——いや、踏み入れてしまったのだ。


「……っ、オレ、もう限界……」


とうとう、男のひとりが、草むらの影でごそごそと——


その時である。


「Yo, perv patrol. アウトォー。」


男達が振り向くと、素肌に革ジャンを羽織ったロメラが、静かに立っていた。


男たち、全員硬直。


「お、おおおおい、なんで!? いま水浴びしてたじゃ……!!」


「……天国はすっかり堪能したか?次はGo to hell(地獄へご招待)だ」


「Say hello to…【Black String #7】!!」


ロメラの腕を縫っている黒糸が解け、黒炎の様に腕の周りに立ち昇る。


「ちょ、ちょっと待て、話せば……!」


言い終わる前に、ロメラが空を拳で振り抜く。追随する黒糸が、暴風の様に一人の男を吹き飛ばした。


バキッ!


——そのとき、泉にいた飛鳥が、気づいて振り返った。


「……ん? ……え……な、なに、今の音……?」


木の陰から、吹っ飛んでくる一人の男。


「……っっ!?」


飛鳥の顔が一気に真っ赤に染まり、翼をばたつかせ、水しぶきがはねる。


「ま、まままま、見られてたのっ!? い、いや、まさか……っ! 嘘、ちょっ、えっ、ロメラっ!ロメラァァ!!」


ぽふっ!


両手(というか翼)で顔を覆いながら、水に沈みかける。


全力で身体を小さくし、泉の端っこでぷるぷる震える飛鳥。


残り二人が逃げようとする——


ぐるっ、パシィィッ!!


その足元、泉の中から飛び出した水鞭が、躊躇なく足首を絡め取る!


「う、うわあっ!? 水が、生きて……っ!?」


ウェーリーが尾鰭をゆらし、静かに“しっぽ語”で怒りを表す。


・尾鰭、ピンと立てる=「警告」

・首すじに尾鰭を添える=「処刑許可」

・スッ、っと横に引く=「決定」


バチーン!


びしゃああっ!


水柱クラッシュ!


飛鳥が慌てて駆け寄る。


「わ、わあああああ!? アクウェリーナ、もうやめてあげてっ!」


尾鰭が「しぶしぶ許す」の角度でゆるく揺れると、水はぴたりと静まり返った。



***



夕暮れも近づく村の広場、

そこに転がされていたのは、三人の男たち。


手首は、「どこ触ってた手かわかんねーしな」と、ロメラのギター弦でしっかり結ばれていた。


転がされた姿勢のまま、男たちは顔を見合わせていた。

ひとりは鼻にススがつき、もうひとりは頬にしっぽ型の赤い痕。

最後のひとりは、顔面にしっかりと羽毛の跡がついていた。


そして彼らを囲む、異様な雰囲気を漂わせる三つの団体。


⸻


【Romela’s Riot Club(ロメラファンクラブ)】


タンクトップやチェーンアクセに身を包んだ若者たち。

ギターケース型のバットや、缶バッジだらけの革ジャンで武装し、明らかに悪目立ちしている。


「姐さん狙ったって、どういう了見だァ!?」


「ギターが泣くぞ、クソ親父!!」


「Romelaは音楽の女神、聖域なんだよボケェ!!」


パンチ、キック、回し蹴り——

男たちが転がるたびに、ギターの描かれたシールがぺたぺたと体中に貼られていく。


⸻


【アクウェリーナ教徒(通称:ウェーリー信者)】


全員白い服を身にまとい、人魚モチーフのオリジナルシンボルの描かれた布を、額に巻いた男たち。

なぜか皆一様に、まるで"常に賢者モード"かの様な穏やかな表情をしている。


「アクウェリーナ様を穢すとは……」


「悔い改めなさい...」


「これも、修行と思いなさい...」


男たちは、水の入った桶で、ひたすら三人に水をぶっかけ始めた。


⸻


【飛鳥ちゃんを愛でる会】


最後に登場したのは、村の年若い娘たちと、お姉様方。


「飛鳥ちゃんの羽根にっ……!」


「水浴び中の乙女を、覗くなんて……!」


「この清らかで儚げな生き物にッ!! お前らの視線を!! 穢れッ!!」


きれいな布で包んだ菜箸パンチ、

ぬか床入りの鉄拳、

ちりとりスラッシュなど、地味に痛い攻撃が続く。


————


飛鳥は、ひとりその輪の外で、

「ま、待って……ちょっと、やりすぎ……!」とオロオロするばかり。


⸻


ロメラ(指導・傍観)


「……ま、いい見せしめだろ?」


革ジャンの袖をまくりながら、木陰で腕を組むロメラ。

目元には一切の憐憫なし。


ギターの弦をもう一組、くるくると指に巻いていた。


⸻


ウェーリー(無言の満足)


広場の噴水の中で、静かに尾鰭を振るウェーリー。

無表情なその顔が、妙に満足げに映る。

その尾鰭:ぱしゃ……スッ……くるん……(処刑完了・心地よき静寂)


その姿はもはや水辺の審判者であった。


⸻


全身ぐったりしたスケベ三銃士が、広場に打ち捨てられていた。


それを子供たちが囲み、木の棒でつんつんしている。


「……こいつら、また来たら、次は飛鳥お姉ちゃんの“飛び蹴り”食らうかな?」


「ええええっ!? そ、それは……その……や、やらないけどっ!!」


「……教えるか? Rolling Sobat」


尾鰭をふるふると縦に(賛成)


——風が吹いた。


その音は、どこか滑稽で、けれど暖かい、

“守られた者たちの夜明け”を知らせる音だった。



——おしまい。

※村の道徳は守りましょう。

※飛鳥(あすか)は全方位にモテますが、ピュアです。

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