第21話 ドワーフの王カプノス
ナディア魔道学士館での再会に浸ってる余裕は無かった。
アルティミストの魔法学の脅威であり魔力の宝庫でもあった孤高の塔。この世界の魔法はこの地から始まっている。それ程に歴史ある場所なのだが、今この地は内乱で荒れていた。
この魔道学士館最高権力者であった“魔道士カルラ”、彼女を崇拝する派である“紺碧の風”と名乗る魔道士達と、その対抗派閥である“紅い翼”と名乗る魔道士達との紛争だ。
現に今、私達の居るこのフロアでもアチラコチラで彼等は戦っている。魔法を放ち合いその生命を削り合っている。大広間の様なこの場所は正に戦場……、傷つき倒れ込む者達も多く崩れ掛けた壁面の下には地に臥せ動かぬ者達も居た。
それは両者同様。
どれ程の死傷者がこの塔内に居るのかは想像したくもない。けれども、この紛争は終わりを迎えようとはしておらず、傷ついた者達、戦死者達を放置し目の前に居る敵を倒す為に魔道士達は力をぶつけ合っていた。
青年❨男女含む❩魔道士、少年、少女魔道士、更に幼い子供達までもが混在し戦っている。見るからに20代前半までの者達だ。その中に大人の姿はない。私は少しだけ不審感を抱いた、、、若き者達だけの紛争状態に。
そしてーー、この地に駆付ける様子も無い。
(どう言う事だ?学士館ならば“師”が居る筈……、なのにこの場にはそんな者達の姿が無い。)
そんな事を思っていた時だった。
「瑠火殿かっ!?」
少し嗄れた低い声が聞こえたーー。
はっ。として振り向くと、そこに白銀の髪をしたドワーフが立っていた。白銀の鎧に銀色の眼をした人がーー。私は咄嗟に駆け寄っていた。
「カプノスさんっ!」
大きな両刃の斧を右手に携えていたドワーフのカプノスさんに駆け寄り、、、私はその背丈は低いけどもガッチリとした身体した彼の首元に抱き着いていた………。
おお……。と、カプノスさんは少し驚いた声を発してたけど、ぎゅっ。と、私の背中にその太く大きな手を掛けて抱き締め受け止めてくれた。
「………良かった……無事で……。」
私が言うとカプノスさんは背中を擦りながら返してくれた。
「それはお互い様じゃ。いきなり消えてしもうてビビったわい。でも良かった、愁弥もルシエルも無事で。」
とても優しい声だったーー。それだけで私の心はとても暖かくなり、同時にホッとしていた。
「カプノス殿がおいら達を守ってくれてたんだっ、だからおいらもミントもこーして生きてるっ。」
そんな弾んだ声が聞こえた。え?と、振り向くといつの間にやら愁弥の肩から降りたカリンが、地面でぴょんぴょんと跳ねていた。
「そうなのか?」
私が聞き身体を起こしカプノスさんから離れると、カリンは直ぐ様にカプノスさんの肩に飛び乗っていた。
「そうだよ、カプノス殿が居なかったらおいら達は抗争に巻込まれて今頃、死んでた。」
フォッフォッ。と、左肩に乗ったカリンを見ながらカプノスさんは低い声で笑った。
「それはちと大袈裟じゃ。」
え〜?ホントだよっ。と、カリンは小さな身体を肩の上でカプノスさんの顔に向けながら言ったが、ドワーフの彼は私を見た。それは少し強い眼差しで。
「それで?お主らだけが戻って来たと言う事は、この地を離れてる間に何かあったのだな?」
カプノスさんはそう言いながら銀色の瞳で私、愁弥、ルシエル……そしてレイネリスを眺めた。
私は少し思う。
(言うべきなのか?全てを……。だが、カプノスさんはブラッドさんの親友であり“ドワーフの王”。しかもこの魔道学士館に潜入し、内情を探る様にあの“トリアノン皇帝”から頼まれた人……。)
私は更に思う。
(だが……“信用”していいのか?いや……同時に巻込む事になるんじゃないのか?)
私の中で錯綜する、、、色んな思いや思考が。でも、それを突き破ったのは愁弥だった。
「あー……悪い、カプノスさん、話すわ。ぜんぶ。聞いてから決めてくれ。その答えがどっちに行っても何とも思わねぇから。」
ん?と、、、直様にカプノスさんの眉間にシワが寄った。私は愁弥の発言にも驚いたけど、、、カプノスさんの判断も気になった、ズルいけど委ねた……愁弥に。
彼は……この地を離れてから起きた事を、カプノスさん、ミント、カリン、そして……グンジ達に向けて話したのだ。
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………………。
沈黙は流れた。
私は誰の顔も、目も見れず………俯いていた。まるで咎人の様に。けれど、、、そうか。と、声を発したのはカプノスさんだった。
「なるほど、だからルカーナ様の姿が無いのだな?お主らと共に消えたのは知っておる。が、此処に居ないと言う事が愁弥の口言は真実と語っておる。」
ん?ああ。と、愁弥は頷いた。カプノスさんは少し気難しい顔をしながら言った。
「それに……“守護の盾”の望まぬ復活……、リデアと言う存在と、“堕神アンフェル”……。そのリデアと言う者の話が真実であればブラッドは態と堕ちたと言う事になる、“冥門”へ。そこで本来ならお主の力になる為に統治者になろうとしていた。が、、、それをしてる場合ではなく兎に角、お主を守護する者が欲しい、だから敢えてリデアを送ったのであろうな。」
え?と、私がカプノスさんに聞き返すと彼は言った。
「“冥界”元は、お主ら“月雲の民”が統治していた世界。この世界の俗に言う天国と地獄は別れている。“聖界”、“獄門の島”、“天国の門”、“冥門”、神、神族が生命を全うし逝き着く先が聖界アルカディアが統治する聖界、そして罪を犯した者達は獄門の島……つまり、神、神族の地獄に逝き着く。そこは“堕神アンフェル”が統治する世界でもある。」
「え?」
と、私が聞き返すとカプノスさんは言った。
「彼奴は堕神……自ら闇に堕ちそこで新世界を創造した。それが神、神族を制裁する立ち位置を作り上げたのだ。聖神戦争から僅か数年で彼奴は“本当の闇の世界”を創り上げた。」
カプノスさんは言うと、はぁぁ。と、溜息ついた。彼は長い時を生きて来たドワーフだ、、、これまでのアルティミストを見て来たのだろう、変化も何もかも。だからこその溜息だと、私は思って言った。
「カプノスさん、続きを。」
ああ。と、カプノスさんは項垂れた顔を上げて言った。
「だが神、神族を裁き制裁する世界はあったが、人間、多種族を同様に裁く世界はなく……神、神族と同様に死した者はその2つの世界に当然の如く召された、が……それに“異”を唱える者が現れたんじゃよ、それが……“ディオール戦争”を招き……、このアルティミストは再び大きな戦火に巻込まれ崩壊寸前まで危ぶまれた。その時に、迫害されていた月雲の民が何故か現れ、戦争を終結させる事になる。 “天国の門”と“冥門”を創り上げ統治し、人間、多種族の鎮魂を守ると約束した。“白雲村長”……あの者は世代に力を受継ぎ、このアルティミストを守って来た御魂だ。」
カプノスさんは私を見て言った。
「色んな意味で月雲の民と言うのは奇っ怪で、恐怖の存在なのだよ。この世界の人間、多種族の天国と地獄を創り上げた一族でもあるのだから。」
「……………っ!」
私は言葉が出なかった。
(歴史上とは言え………それは現実で……、私達“民”は神の真似事をしてるのか?)
私は……受け止められなかった……。
「あー、解った、うん。コレは俺が悪いわ、そーゆう話したくて言ったんじゃねーのよ?カプノスさん、俺らの未来のハナシ解ってくれてる?」
と、、、そこに愁弥の何だか明るい声が聞こえた、しかも彼は私の前に立っていた。
歳下……2つ程だが。
なのに………とても逞しく大きな背中に見えた。
「愁弥……。」
私が名を呼ぶと、愁弥は少し振り返り笑った。
「お任せを。」
と。
なんかちょっと悪ガキっぽい笑いだったけど……??
「未来の話とな?」
「そー、俺らは新世界創んのよ、解る?神とか関係ねぇ世界。誰もが信念持って生きれる世界、なんで、協力してくんねー?」
驚くカプノスさんに愁弥は軽い感じでそう言っていた。
「は??新世界??」
カプノスさんは目を見開いたけど、愁弥は更に言った。
「拗れてんだよ、この世界は。何だか解かんねぇけど、俺からしたら。なんで、1回ブッ壊して新しく始めてみんのもアリなんじゃね?1度、全部ブチ壊して作り上げるってのもオモロいと思うけどな?俺は。」
「は??」
カプノスさんはとても驚いた顔をしていた。でも、愁弥は言った。
「俺は違う世界の人間でいつかは帰る存在……、❨帰れるか知らんけど❩なーんてちょっと前までは思ってましたよ?ええ。でも、俺はハラ括ってるんで。惚れてる女の生きる道、、、添い遂げてーからな、なんで叶えてやりてー、ずっと剥奪されて来た瑠火の願いを。」
「………愁弥………!」
解らないけど………私の顔はとても熱くなった………、同時に目頭が熱くなった。
おわっ♪と、背後から声が聞こえた。
「プっロポ〜ずっ♪愁弥のプロポぉ〜ずっ♪♪」
ルシエルが鼻息荒く興奮気味にそう煽っていた………。
「やめろっ!バカ!違う!!」
私は余りの恥ずかしさにそう怒鳴ったのだが、、、意外にもカプノスさんは……頭を抑えながら言った。
「………そうか……お主は“守護の盾”……、ブラッドと同じ……、そしてリデアと言うどうしても傍に置きたかった存在と同じ……。いや?それ以上なのか……。」
後半はほとんど独り言の様だった。でも、言い終えるとカプノスさんは私ではなく、、、愁弥を見て言った。
「お主には感じていたのだよ、、、ずっと。だから共にゆこうぞ、それが例え違えた道だとしても。が、言うておく、我等の民は巻き込むな。もうこれ以上、血を降らせたくはない。共にするのはワシのみ。解ってくれるか?」
カプノスさんの言葉は……又聞きの私にも重かった。
愁弥は少し間を置いた後、、、言った。
「解ってる、俺は何も絶滅を望んでねーから。」
その1言の後に、、、カプノスさんはフッ……と、、、笑ってた。そして、
「そうか。」
と、その笑みが安堵の笑みに変わっていた。私にはとても印象的だった。




