第20話 ミントと魔道学士館の魔道生たち
「ミントっ!!」
私はようやくーー、ずっと気になっていた者の姿を見れて高揚としていた。混乱渦中に置き去りにしてしまった事……それも、彼女は自身の姉、兄を殺され“生首”を面前に放置された……。それをやったのは私と同族の“氷憐”だ。そんな状況で彼女を孤独にさせ結果放置してしまった事……それがずっと引っ掛かっていた。だからリデア、レオンには申し訳無いが……、ミントを救う事。この地から連れ出す事を優先してしまったのだ。
私達はレイネリスの“神力”により無事に落下を免れ地に足を着けた。魔道士の少年、少女達もふわり。と、地に足を着けていた。私は自身の足をしっかりと着けてから抱きかかえていた少女を降ろした。
あ。と、彼女はグレーのブーツの底が地を踏んだのを確認すると、私を見上げた。
「ありがとうございました。」
「いや?怖い思いをさせたのは私だ、すまなかったな。」
私は彼女をきちんと地に降ろしてから手を離した。少女は、いえ。と、少しはにかんだ笑みを向けてくれた。
ほっ。とした。その顔を見て。怖さや不安が消えた様に見えたから。
「瑠火さんっ!!」
けど、、、直ぐにそのちょっと歓喜混じった声は聞こえた。
「!」
私は目線を上げた。
両手を広げながら駆けて来るミントの姿が見えた。彼女はもう泣きそうな顔になっていて少し頬が紅くなっていた。
それを見てなのか……私の傍に居た魔道士の少女は場を空ける様に退いた。
「ミントっ!!」
「瑠火さぁぁんっ!!」
泣きそうは……撤回だ。駆け寄りながら彼女は泣いてしまったから。
飛び付いて来た少女を私は受け止め抱き締めた。
「ミントっ!良かった、無事で。」
わぁぁぁ……っ。と、、、ミントは私が抱き締めると肩に顎を乗せながら豪快な涙声を上げた。私の背中にしっかりと両腕で抱き着きながら。
可細く私よりも少し小柄なミントの身体を抱き締める。ぎゅっ。と。あったかい温もりが私を安堵させた。
「良かった……………、本当に。」
私は彼女を抱き締めながらそう呟く様に言った。
「瑠火さぁぁん………っ。」
不安だったのか……怖い思いをあれからしたのか。それは解らないけど、ミントは泣き止まず私の身体に抱き着き泣きじゃくっていた。何も言わずで、ただ私の名前を呼び、ぎゅっと痛い程に背中を抱いて来る。
私はミントの柔らかなピンク色の髪を撫でた。
「もう大丈夫だ、迎えに来たんだ。ミントとカリンを。」
「うぇ??」
鼻声で、ぐすっ。と、鼻啜るミントの髪を撫でながら私は言った。
「これから共に生きる為に。」
「え………??」
ミントは驚いた声を発した。と、、、横で弾んだ声が聞こえた。
「愁弥っ!」
「おーカリンっ、無事で良かった。」
それはカリンと愁弥の声だった。ふと、見れば愁弥はルシエルから降りていて、ぴょんぴょん跳ねながら飛び付く幻獣の申し子カリンを受け止めていた。
カリンは愁弥の大きな胸元に飛び着き、彼がその身体を右腕で抱える様に抱くと嬉しそうに顔をすりすりと、愁弥の胸元に擦りつけていた。何だか甘える様な満足そうな顔をしながら。
フッ……と、私は自然と笑みが溢れてしまった。
そんな少し和やかな再会の刻を突き刺す様な声が響いた。
「ミント·オーフェン、お前……この人達と知り合いなのか?何なんだお前は。派閥に属さず自由にしやがって。只の見習いの癖に。」
ハッ。と、、、表情を強張らせながら、私から瞬時に離れたのはミントだった。え?と、私は驚いたんだけど背後から聞こえたその声の主がレストだったのにも驚いていた。だから、振り向いて私はレストを見た。既に少年、少女達はロッドを握り締め勢揃いで、まるで敵意向き出し。そんな眼でミントを睨みつけていた。
(ん?)
でも、、、その中で唯1人だけちょっと気まずそうな顔をしていて目線下げてる魔道士が視界に入った。1人だけ俯いていたのだ。
「…………。」
私と一緒に降りて来た少女だった……。
「自由にしてるつもりない、、、あたしは只、カルラ様の指示通りにしてただけだもん。」
この中で1番幼いのはミントだろう、、、この喋り口調で何となく解るし、何よりもミントと比べると彼等は大人に見えた。
「は?ふざけんなよ?お前はカルラ様にちょっと気に入られてただけ、それを何か勘違いしてんじゃねーの?何も出来ねーのに“学士館最高魔道生”だと思ってんだよな?だからこの戦いにも知らねー顔してんだろ?」
「違うっ、そんなつもりじゃないっ。」
レストの声にミントが直ぐに言った。は?と、レストは桃色の眼を吊り上げながら言った。
「じゃー何?パライティ達と同じ様に俺らの紛争に知らん顔してた理由は?どーせ、お前は何も失わなくて済むから傍観してただけだろ?」
「それは………。」
と、、、ミントが困った様な顔をした所で怒鳴った者が居た。それは、いつの間にやら愁弥の右肩に乗っかっていた銀色のリスに似た幻獣の申し子カリンだった。
「違うわいっ!ミントはな!お前達の抗争に敢えて関わらなかったんだ!それは“アリス”!お前の為だ!」
「えっ!?」
頭を上げたのはずっと気まずそうな顔をしていたあの少女魔道士だった。カリンは愁弥の右肩で仁王立ちしながらその声を張り上げた。
「紅い翼と、紺碧の風……お前らとの関係性をミントも問われた、それは当然だ。カルラ様からしたら何処に裏切り者、内通者が潜んで居るか知りたかったから。でも、ミントは素知らぬ顔をした、敢えて!もし、紅い翼に居るアリスと友達だとカルラ様にバレたらややこしい事になるから!お前を捕えて拷問し、紅い翼に脅迫する道筋もあるからっ!だからミントは関われなかったんだ!」
!!
カリンの言葉に、少女、少年達は驚いた顔をしていた。レストは、信じ難いと言った顔で言う。
「そんな……馬鹿な……。」
「馬鹿はお前だっ!レスト!いい加減目を覚ませっ!お前達、紺碧の風はカルラ様に利用されてたんだ!カルラ様は恐ろしい方だ。最期は手を出してはいけない“闇の力”に縋り死んだんだ!それも他者の生命も巻き込んだ!散らなくていい生命を散らした!お前達が縋り護ろうとしていた“偉大な魔道士”は闇堕ちし消えたんだよ!!」
カリンが咆哮する様に怒鳴ると誰もが押し黙り……、項垂れていた。中でも特に落胆していたのはレストで、彼はしゃがみ込んだ。と言うよりも脱力した様に地に膝を着け……へたり込んだ。
がっくり。と、、、両肩を落としていた。
「な……何だったんだ……俺らの思想……この紛争……、死んだ者達は………。」
レストは両手を地に着けまるで懺悔の如くその銀髪の頭を項垂れさせていた。
「………。」
私はそんな彼を見て言った。
「レスト、それから若き魔道士たち、貴方達が此処で腐るのは勿体無い。だから共に歩んで欲しい。喪った者は帰らないが、それでも腐って違えた道へ進むよりは、己の信念の元、二度と同じ過ちは犯さないと身に刻み今度は護れる様に生きること。そして、心身共に強くなること。私と共に。」
「……………!」
レストは顔を上げ……ああ………と、、、呟く様に言うと、再度、、、頭を項垂れさせた。けど、彼は地に着けていた両手を、ぎゅっ。と、握り締めていた。拳を強く。
そして振り絞る様な声で言った。
「そう……ですね……。」
と。
「俺達は過ちを犯した……、多くの仲間をこの紛争で喪いました……、でも残ったのは………。」
ぎゅうぅぅっ。と、地面の上で彼は両手を強くまた握り締めていた。血管が浮き上がり白くなる程に。
「…………。」
項垂れているレストを私は見据えていた。が、彼はその頭を地に擦りつける様に下げた。
「………俺達も連れて行って欲しい、、、お願いします。俺は二度と仲間を死なせたくない………。」
「………!」
私は驚いたけど、、、地に頭を着けながら言うレストに、これは想いが変わったのだと感じた。さっき、彼が憑いて来ると言ったのは、“魔道士カルラ”の本性を知る為だった。でも、今の彼は違う。理由が変化した。
「……………。」
私は頭を地に擦りつけながら下げてる彼を見て思う。
(生きる目的を見つけた……、彼はきっと喪った仲間たちへの贖罪の為に生きるのであろう。それがどんな辛い道筋であっても、彼はそれを選んだ。私と同じだ。)
私はそんなレストを見て言った。
「こちらこそお願いします。どうか貴方達の知識力、見聞を存分に活かせる世界の創造の為に力を貸して欲しい。」
「………っ!」
がばっ。と、、、レストは顔を上げた。彼はとても驚いた様な顔をしていた。私を見て彼は言う。
「………お名前を………すみません、、、聞いてなかったので。」
え?と、私もちょっと驚いたけど、なんか必死感が伝わって来たので応えた。
「瑠火だ。宜しく。」
「あ………瑠火様………、宜しくお願いします。」
レストは私を見てそう言った。
「ふんっ。何だよっ!いきなり改心したみたいになっちゃってさぁ、おいらはまだちょっと信用してないっ!」
と、、、何故かお怒りモードのカリンの声が聞こえた。でも、まぁまぁ。と、そんなカリンの兎耳の間の頭をわしわし。と、撫でる愁弥は言った。
「いいじゃねーか?変わろうとしてんだ、受け止めてやれよ。」
うぅ。と、カリンは頭を撫でられ心地よさそうな顔をしつつも、ちょっと不貞腐れた顔をしていた。
はぁぁ。と、、、大きな溜息が溢れた。ん?と、見ればルシエルが頭を擡げていた。
「終わった?お話。それならさっさとこの争い止めるんだな、アッチコッチでまだ戦ってるぞ?」
あ。と、、、レストは立ち上がり紺碧色の長いロッドを握り締めた。
ルシエルはそんなレストを見て言った。
「カルラが死んでこの魔道学士館は崩壊した、その事を知らない奴等がまだ戦ってる。お前達はそれを知らせこの戦いを止めさせろ。じゃないと死人は増える。」
「!」
レストだけでなく、グンジ達の顔色も変わった。瞬時に強張ったのだ。
「そうだ……、このままでは無駄に戦死者を増やすだけになる。」
グンジが言うと、レストが、ああ。と、頷いた。
「でも……どうするの?塔の中を駆け回って言い回るの??それってちょっと無理ない??」
紺碧の風の魔道士の少女がそう言うと、う〜〜ん。と、グンジとレストは困った様な顔をしたのだ。すると、愁弥が言った。
「あー、んじゃココはルシエル様の出番だな。」
と。
は??私とルシエルは愁弥を見たのだが、彼は太い両腕組み右肩にカリン乗せながら言った。
「壊すんだよ、この塔を。俺らが入れたって事は良く解かんねぇけど、既にカルラの結界とやらは消えてんだろ?なんでそーなってんのかは知らねぇが。だったらもう壊せんよな?」
あ。と、私とルシエルは顔を見合わせた。その後で、私は思う。
(そう!それ!私はグンジに結界の解除を頼むつもりでいた、じゃないとルシエルと愁弥がこの塔に来れないと思っていたから。でも、彼等は来た。そして私も入れた。そう……何故??)
愁弥の言葉で私は思い返しグンジを見た。
「グンジ、結界はお前達で解除出来るのか?」
「え?はい、勿論。じゃないと僕等は外からこの中に入る事が出来ないですからね。」
グンジが答えると私は更に聞く。
「では、何故今は結界が消えているのだ?私達が入れたって事は消えてるんだよな?」
するとグンジがとても驚いた顔をした。
「いえ、聞きたいのはコッチですよ。何で侵入出来たのか。」
え?と、私は目を見開く。グンジは言う。
「この周りに騎士団が囲ってるのは知ってます、が、彼等は結界があるから入れないんです。紛争中もこの魔道学士館は結界に覆われ侵入者を許さなかったんで。ですが、貴女はその中を突破して来た。それがとても不思議でしたし、でも……“月雲の民”だからと思った部分もあります、正直。」
グンジの言葉に、フッ。と、、、是迄黙っていたレイネリスが少し笑みを溢しながら言った。
「未知なる者達だから。そう言うことだな?」
「あ………はい、、、。」
グンジは蒼く光る女神を見て戸惑う様な顔をしていたが、彼女を見て言った。
「何でもアリ。とは言いませんが……、得体の知れない力を使える一族なのでどうにかする術を備えているのかと思っただけです。」
ああ……なるほど。と、、、私はレイネリスと共に頷いてしまった。ん?と、レイネリスは私を見た。
「そなたの事だが?」
「ああ……すまない、いや?私も私を知らないから納得してしまったんだ。」
ふふっ。と、レイネリスは笑うと言った。
「月雲の未知の力を追求するのはこの先の課題とし、今は愁弥の言う様にこの塔を崩落させ、強制的に戦いを止める事。それが先だ。これ以上、、、無駄な血を流させぬ様に。違うか?月雲の姫。」
私はレイネリスの言葉に彼女を見据えた。ああ。と、頷き、ルシエルと愁弥を見て言った。
「ルシエル、愁弥、この戦いに終結を!」
「りょ。」
「はいは〜い。」
夫々の返事が返って来たところで、、、私達は魔道学士館の紛争を止める事にしたのだった。




