六
八月第一週の火曜日、写真部の四人は天水家の最寄りの駅から電車に乗り、県庁のある市の名前のついた駅で降りた。天文同好会の名雲の後輩が一人来るので、名雲の家のミニバンを借りることになっている。
天水の先導で、駅正面からのびた道を歩き、国道を渡ると住宅街に入った。天水が白い家の前で止まり、インターホンを押した。応答の前に、家の扉が開いた。
「よーす、写真部ご一行。時間通りだ、たいへんよろしい」
出てきたのは名雲だった。
「確認しないで開けるのは不用心」
挨拶の前に古泉が言った。
「窓から見えたからさ」
「ならいい」
あらためて挨拶をすると、名雲の後ろからもう一人女性が出てきた。名雲は彼女の肩にてを置いて、
「この子が例の後輩。天水以外は初対面のはず。はい、自己紹介して」
後輩はわかりやすく緊張している。
「たた、ただいまご紹介にあずかりました、日文一年の橋野紗綾です。どうぞお見知りおきをおねがいいたされます」
「誰も紹介してないよ」
古泉が冷静に訂正した。
「はい拍手ー、わー」
率先して手をたたき、名雲が強引に閉めた。写真部の四人も橋野に自己紹介をした。天水はすでに彼女と面識があるらしい。
「さて、それじゃあ運転手を決めよう」
名雲家の車を使うからか、自然と名雲が仕切ることになっていた。
「ゆっきーの家のだし、自分で運転すれば」
「いや、私はほら、望遠鏡とかの精密機械に傷がつかないように見とかないといけないし、それに紗綾を一人で写真部の中に放り込むわけにも……」
「つまり?」
「運転したくないです」
名雲が本音をはいたことで他の人が運転することになった。
「免許持ってる人?」
古泉が手を上げながら聞いた。橋野以外の全員が手を上げた。続けて、
「運転したい人?」
全員手をおろした。天水がめずらしく消極的だったので、
「いいんですか?」
と夏川が聞いた。
「こんな大きい車はご勘弁ねがいたいね」
「なるほど」
古泉は少し考えてから、五人を見回して、口を開いた。
「仕方ないから、俺が運転するか、って人?」
挙手する人はいなかった。女性四人の目線が二人に集中した。
「一人称だけで二人にまで絞られてる気がするんだが」
水上は夏川に同意をもとめるように言った。
「口調からして、水上さんのことでしたよ」
「ええー」
水上は少し嫌そうな顔で周りを見た。全員の視線が彼に集まっていた。
「仕方ない、運転するか」
心から仕方なさそうな声だった。
「ほら」
「あっ」
わざとではなかったが、古泉の言ったような口調になっていた。橋野が隠れるようにして小さく笑っていた。
エアコンを付けて少ししてから、名雲家の七人乗りのミニバンに乗り込んだ。運転は水上、助手席に夏川、二列目には天水と古泉、三列目に名雲と橋野が座った。
望遠鏡は丈夫そうなケースに入っていたので、揺れても問題なさそうだ。カーナビにはすでに目的地が設定してある。ここから三十分ほどの場所らしい。
「忘れ物はないかー?」
走り出す前に、水上が後部座席に向けて言った。
「おー」
天水と名雲が声をそろえてこたえた。天水は拳を握って斜め上につきだしている。
「シートベルトはしたかー?」
「おー」
今度は古泉と橋野と夏川も加わった。
「生命保険には加入したかー?」
「おー」
「えっ?」
天水と橋野が返事をした。名雲は少し戸惑っているようだ。
「遺書は書いたかー?」
「おー。いえーい」
天水と橋野はなぜかハイタッチをした。
「古泉、写真部っていつもこんなんなの?」
盛り上がっている横で名雲が尋ねた。
「いや、近年希に見るほどの盛り上がり」
「そう」
「あとは祈るだけだ。出発するぞー」
「おー」
最後は全員で言った。車はのろのろと走り出した。
「あ、水上君、コンビニ寄って」
路地道を抜け国道に出たとき、名雲が言った。




