五
春学期の試験期間の最中だが、自分たちの試験が一通り終わった名雲と古泉は学食にいた。昼休みがもうすぐ終わる時間なので学食は空いている。名雲は力尽きたようにテーブルに突っ伏して寝ていて、その向かいで古泉は本を読んでいる。
古泉の携帯電話に天水からメールが届いた。学食にいることを伝えると、間もなく天水がやってきた。
「学食で読書と昼寝って」
名雲は突っ伏したまま軽く手を上げて挨拶した。
「天水もテストは終わった?」
と古泉が聞いた。
「うん。調べたいことがあって、今まで図書館にいたんだ」
「お昼は?」
「まだ」
天水は鞄から財布を取り出し、鞄を古泉の隣の椅子に置いた。
「学食久しぶりだな。何かおすすめある?」
「からあげ丼」
「もうちょっと女子力溢れるメニューはない?」
「からあげ丼小」
「ありがとう。参考になったよ」
天水は食券を買いに行った。名雲は未だに顔をあげない。
読書に戻り、しばらくすると天水がお盆を持って戻ってきた。乗っていたのは味噌ラーメンだ。
「古泉の意見も参考にはしたよ」
「女子力?」
「効能とかが、きっと女子力」
テーブルに突っ伏していた名雲が、
「味噌ラーメン」
と、唐突に言ってから体を起こした。
「え? なんでわかったの?」
「味噌ラーメンとは言ってないはず」
二人は驚いて聞いた。名雲は眠そうな目のままこたえる。
「まあ、あれだよ。第六感的なかんじのやつ」
「曖昧だなあ」
「においじゃないの?」
第六感などというものを信じるつもりのない古泉が聞いた。
「においだけで判断できると思う?」
「私、ゆっきーの嗅覚には絶対の信頼をおいてるから」
「人柄とかに信頼をおいてほしかったな」
「それは、まあ、ねえ?」
天水は古泉に同意を求めた。
「でも、実際においだけでわかるとは思えない。そんなに特徴のあるものではないし」
古泉が色々考えていると、天水が、
「あ、わかった」
と、手をぽんとたたいた。そして名雲に耳打ちをする。
「正解」
「やったー。古泉に勝ったー」
「いつから勝負になったんだ」
子供か、と思いつつ、このままわからないのは古泉としても面白くない。
「わからん」
「諦めちゃダメだ古泉、まだ時間はある」
天水は励ますように言った。
「あとどれくらい?」
「五秒」
「もうどうしようもない」
五秒たった。
「まあ、おばちゃんの『味噌ラーメンおまちどうさま』って声が聞こえただけなんだけどね」
「えー」
古泉は抗議するような声を出した。単純なだけに、わからなかったことが悔しい。
「あ、ラーメンのびてる」
食べ始めようとした天水が言った。
「ここまでが名雲のねらいだったのか」
「いや。ここまでは考えてなかった」
「天体観測って、部外者も参加できる?」
のびてしまった味噌ラーメンを食べ終わってから天水が尋ねた。
「できるよ。参加したいの?」
「私だけじゃなくて、写真部で」
「大丈夫、だと思う」
名雲はスマートホンを操作した。
「来週の月、火、水あたりがいいかな」
「それなら火曜日は?」
火曜日は写真部の活動日で、夏休みも同様に部活がある。
「ちょっと聞いてみる」
数分後。
「いいって」
天水と古泉にスマートホンの画面を見せた。
あっさりと決まってしまった。天水は勝手に決めてしまったが、写真部の面々への説明はこれからだ。
「なんで来週?」
と古泉が聞いた。
「ちょうど新月だからね。月の明かりがない方が星は見やすいんだ。それに、晴れるみたいだし」
その後、写真部の部室で天水が天体観測に行くことを説明した。反対はなく、全員参加できるとのことだった。




