四
古泉の希望により、お月見は縁側をもつ天水家で開催されることになった。彼女には「お月見は縁側で」というこだわりがあるようだ。名雲にもその気持ちはよくわかった。
中秋の名月の日は日曜日で、三人とも大学も部活もなく、昼間から天水家に集まることとなった。
改札から出る前に、改札の正面にいた古泉を見つけた。名雲は天水家に行ったことがないので最寄り駅で古泉と合流することにしていた。駅から出たとき、晴れてはいたが空の半分ほどが白い雲で覆われていた。天気ばかりはどうしようもないので、夜までに晴れてくれることを願うばかりだ。
二人が天水家に入ると、天水と彼女の姉が出迎えてくれた。天水の姉と古泉は面識があるが、名雲は初対面だ。
「初めまして、名雲結紀といいます。妹さんにはいつもお世話に……なってるっけ?」
妹のほうを見て聞いた。
「かなり」
「いや、それはない」
「いや、ゆっきーは私が育てたと言っても過言ではないね」
「過言にもほどがある」
二人のやりとりを見て、姉は静かに笑った。
「初めまして。志穂の姉の天水佳苗です。これからも志穂をよろしくね、二人とも」
「おまかせあれ」
と古泉がこたえ、招かれるまま家に上がった。
佳苗は二階に上がっていき、志穂についていくと、連れて行かれたのは床の間のある和室だった。南側に縁側があり、そこには花瓶に生けられた薄と豚の形をした陶器の蚊取り線香入れが置いてあり、少し離れたところに黒猫が寝ころんでいた。そして窓際に風鈴がさがっていて美しい音を響かせている。
「完璧な縁側だ」
古泉は和室の入り口に立ちつくし、縁側を眺めてそう言った。黒猫が目を開けて一度だけ三人のほうを見たが、興味を失ったようにまた目をとじた。
月見団子を作ったり佳苗も呼んできてテーブルゲームをしたりして夜を待った。夕方くらいから雲がさらに多くなり、夜に入ると月の位置がわからないほどになった。
「そういえば、日食の時も曇りだった」
名雲はとなりに座っている志穂に言った。二人は縁側にこしかけて南の空を見上げていた。古泉は早苗とともに台所で夕食をつくっている。
「そうだったね。あの時はなんとか見えたけど」
「まあ、待つしかないし」
「だねー」
お供え物をのせるような木の台に、先ほど作った月見団子が積まれている。正四角錐型に積まれた月見団子の一番上をつまんで、あんこをつけて食べた。おいしかったので名雲はもう一つ食べようとしたが、夕食の前なのでやめておいた。
志穂はじゃれついてくる黒猫の相手をしている。月を見るために部屋の電気は消してあり、塀の向こう側の街灯の光が届いている。
空を見上げると、月は見えないが雲のすきまから星が見えているところがあった。
「天水、ほら、星が見える」
名雲はその場所を指さした。志穂は黒猫を腿にのせてそちらに目を向けた。
「ほんとだ」
「あんな風に、そのうち月も見えるよ」
「そうだね、待っていれば見えるよね」
自分に言い聞かせるような言い方だった。
首が疲れてきたので、仰向けに寝ころんで夜空を見ていると、名雲の言ったとおり時々月が雲の間に見えた。周辺が雲で暗いせいか、満月はとても明るかった。月が見えたとき、空が少しだけ明るくなったような気がした。
和室の襖が開いて古泉が入ってきた。
「ごはんできたよ。……なにしてんの?」
縁側に頭を出して仰向けになっている二人をいぶかしんだようだった。
「古泉、こっち来てみ。今、月が見えるから」
名雲は自分の横の畳をたたいて古泉を呼んだ。




