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「愛することはない」と言った旦那様と離婚して、王都一の魔導衣装師になりました  作者: 星舟能空


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第45話 書く手、縫う手

 資格を失って最初に持ち込まれた術式衣は、パン屋の前掛けだった。炉の熱を散らす銅糸が腹で途切れ、着ると右側だけが熱くなるという。以前なら私がほどいて縫い直した仕事だが、今は布を読み、原因を口で伝えるところまでしかできない。


 判決後、赤い封紙は庁の執行官が外した。代わりに、術式針と登録印のあった抽斗へ「使用資格なし」と刻んだ木札を取り付け、通常針は窓側の小机へ移した。封じられているあいだは触れないことが仕事だったが、これからは同じ店の中で、私にできる工程とできない工程を、客にも見える形で分ける必要がある。


 入口の料金表も書き直した。布読みを含む助言、通常繕い、記録作成は私の名で受け、術式縫製はミナ、最終検分は外部の二級へ依頼する。三人分を一つの工賃として曖昧にせず、依頼人が助言だけで帰ることも、最初から別の工房へ持っていくことも選べる欄を作った。私の判決を知らずに来た人へ、会計のとき初めて資格がないと告げるのでは遅い。


 パン屋の主人は料金表を読み、「前より人が増えたのに、安くならないのか」と率直に訊いた。一人で終えられた仕事を三つへ分ければ、手渡す時間も検分料もかかる。私は以前の工賃と今日の見積もりを並べ、試験片を今後も使うため、同じ型の前掛け二枚目からは安くなることを説明した。


「あんたが縫えば今日返るんだろう」


「縫えません」


「腕がなくなったわけじゃない」


「腕を使ってよい登録がなくなりました。隠して一針入れれば、あなたの前掛けも、ミナの資格も、また私の都合へ巻き込みます」


 主人は不満を隠さなかったが、明朝の炉入れまでに予備が一枚あると確認し、二日預ける方を選んだ。理解してくれた美しい客にする必要はない。値段と納期に納得したから預けたというだけでも、仕事は成立する。


 縫うのは、三級試験に合格したミナだった。彼女の登録証は私の判決を待つ間に届き、名と番号が真新しい銅板へ刻まれている。私は祝いの言葉を言い、彼女も受け取ったが、「先生の代わりになった祝いにはしません」と先に釘を刺した。


 前掛けを人台へ掛け、裏から灯りを当てる。断線しているように見えた箇所では、油染みで銅糸の周囲が硬くなり、流路が細く折れていた。布を交換する範囲、術式をほどく位置、出口へつなぎ直す角度を私は説明した。


 表布は煤けた生成り、裏は汗を逃がす粗い麻で、銅糸だけが赤黒く変色している。油染みの縁へ白い粉を振ると、布が柔らかい箇所だけ粉が落ち、硬化した三日月形が残った。私はそこへ針を刺さず、木の指示棒で始点と終点を示す。触れれば分かる、という言葉を禁じなければ、説明を受ける者は永遠に私の指の中身を推測するしかない。


 まず腹囲を立った姿勢と屈んだ姿勢で測り、差を紙へ移した。炉の前では腰を曲げて長柄を使うため、正面の布が横へ引かれる。まっすぐな銅糸は短い距離なら美しく見えるが、毎朝同じ箇所で折られ、油が染みれば固い針金のようになる。斜めに逃がすのは見栄えのためではない。身体の伸びを一本へ集中させず、布と一緒に銅糸を呼吸させるためだった。


 ミナは針を持ったまま動かなかった。


「三つ目が分かりません。出口へ斜めに渡す理由です」


「まっすぐだと、腹の動きでまた折れます」


「どのくらい斜めなら、折れないんですか」


 私は、自分なら指の感覚で決める角度を言葉にできていなかった。布を読む目があることと、他人が縫える説明を渡せることは別である。紙へ腹幅と屈伸時の伸びを描き、古布で三種類を試すまで、本番へ針を入れないことにした。


「先生が大丈夫と言っても、あたしが分からないものは縫いません」


 拒まれた瞬間、私は自分の仕事を否定されたように感じた。すぐに、それは婚家で私ができなかった拒否であり、今度の分業に必要な線だと気づく。私の診断が正しくても、縫う手の判断を代わりにはできない。


 三つの試験片で、四十度の線だけが屈伸を繰り返しても折れなかった。ミナは自分で結果を読み、前掛けへ同じ線を入れる。私は完成品を検分したが、公的な診断書へ署名するのは別の二級衣装師で、ミナは縫製者として自分の番号を置いた。


 試験片は同じ麻を二重にし、三十度、四十度、五十度へ銅糸を渡した。ミナが木枠を百回曲げ、私は十回ごとに油を薄く塗る。三十度は五十六回目に内側へ皺が寄り、五十度は出口の縫い留めへ力が集まった。四十度も無傷では済まず、九十回を越えると表糸が一本だけ浮いたので、本番ではその位置へ交換可能な短い継ぎを置いた。


「折れない線ではなく、先に直せる線ですね」とミナが言った。


「そうです。永遠に持つと説明しないでください。洗うたびにここを見て、浮いたら熱が偏る前に持ってきてもらいます」


 彼女は依頼人向けの説明紙を、自分の言葉へ書き換えた。私が「流路の屈曲部」と記した箇所を「腰を曲げると皺が集まるところ」とし、確認する糸へ銅色の小さな絵を添える。正確さを保ったまま、着る人が使える言葉にする仕事は、私より彼女の方がうまかった。


「遅くなりましたね」と彼女は言った。


「一人で縫うよりは」


「でも、次は試験片が残ります。あたしも理由を説明できます」


 一件に半日かかった。その代わり、私がいなくても四十度の理由が紙に残る。手早さと引き換えに、次の手へ渡せる時間を仕事へ足したのだと思えた。


 私は通常の針で、前掛けの破れた紐だけを繕った。術式へ触れない仕事なら資格はいらず、右手の紋も熱を受けない。日暮れに指を検めても崩れは増えておらず、針を持つことと、紋を削って縫うことが、初めて別の動作になった。


 客へは、診断した者、縫った者、公的に検分した者を三欄に分けた控えを渡した。私の欄には資格番号がない。空白を隠して店の名だけにする案もあったが、資格を失った者が口頭で布を読んだと明記し、依頼人が選べるようにした。


 同じ週、二件目と三件目ではミナが私の指示を修正した。袖口の出口を二つにする案へ、洗濯で左右を取り違えると危険だと指摘し、一つの広い出口へ替える。私より彼女が正しい箇所を、師弟の面目のために残さなければ、この分業もまた私一人の隠し縫いになる。


 二件目の依頼人は、私に資格がないと知ると衣装箱を閉じた。診断だけでも受けてほしいと引き留めることはできたが、彼女は判決文の六十九件を読み、無資格で布へ触れた者に見てほしくないと言った。私は箱の留め金を閉じるのを手伝わず、近隣の二級衣装師三人の一覧を渡した。彼女がその紙も受け取らず帰ったことを、帳面には「依頼辞退」とだけ記し、怒りを説明する文章は書かなかった。


 三件目は逆に、私だけに読ませ、ミナには縫わせたくないという客だった。若すぎることを理由にしたので、ミナの三級登録と、私にはない縫製権限を示す。客は最後まで納得せず、助言料だけを払って別の工房へ向かった。分業を始めたからといって、三人すべてを信用する義務まで客へ負わせることはできない。


 仕事が減る日は、ミナと説明書を整えた。口頭の助言を、確定、推定、不明の三欄に分け、縫う者が「先生が言ったから」という理由を書けない書式へする。私が確定とした箇所でも、ミナが試験片で再現できなければ不明へ戻す。資格のない私の言葉を軽く扱うためではない。権威だけが店に残り、試す手を鈍らせることを防ぐためだった。


 会計も変えた。診断と縫製を別々に請求すれば、私の助言に誤りがあったとき、ミナの工賃から損を埋めずに済む。一方、彼女の縫い直しが必要なら、その時間は彼女自身の記録へ入れる。師弟だから財布を一つにする温かさより、どの手が何を引き受けたかが見える方を私たちは選んだ。


 ライナルト様が正式な依頼書を持って来たのは、判決から十日後だった。品目欄には「未完成王衣焼損部の布読みおよび原因仮説」とあり、縫製、修復、型紙起草は含まれていない。報酬と閲覧権限、記録の公開範囲まで、王室の書式で定められていた。


 依頼書の報酬は、以前の灰色外套より低く、通常の二級診断よりは高かった。王室の秘密資料を読む拘束時間と、資格を持たない助言者であることを、別々に算定したらしい。私は金額を読み、王弟が同情で仕事を作ったのなら安すぎ、私を特別な天才として囲うつもりなら高すぎない、腹立たしいほど妥当な数字だと思った。


 ただし、成果物の所有欄には王室とだけある。私はそこへ異議を入れた。王衣の構造そのものは公開できなくても、焼損布の読み方と、判断不能とした理由は、後の検分教育へ匿名化して使いたい。ライナルト様はその場で許可せず、王室法務へ持ち帰ると言った。


「あなたが決めてくだされば早いのでは」


「早い。だが、私が依頼人だから許した資料では、次の人が使えない」


 数日後、王室資料一般に適用できる教育利用の審査欄が新設され、私の依頼書にも同じ条件で許可が付いた。彼は私のために扉を開けるとき、私だけが通れる幅にはしない。その遠回りを待てることが、今の私たちの近さでもあった。


「資格を失った私を慰めるための仕事ですか」


「違う。あなたが読んだ二十一の線を、ほかの者がまだ読めないから頼む」


「診断書は出せません」


「仮説書でよい。採用する者は別に置く」


 彼は私を衣装師と呼んで仕事を戻そうとはしなかった。今できる範囲を狭く書き、その狭さの中に必要な仕事を置いた。失ったものを見ない優しさより、持っているものだけで契約する厳しさの方が、私は受け取りやすかった。


 王衣の型紙を改めて起こすには、一級型紙起草師が要る。現役の起草師は王室か組合と長く仕事をし、二十一回路を中央へ集める現行仕様を守る側でもあった。白紙から別の線を引ける者として、私はケルナーの左手を見た。


 ケルナーは、私の口述を聞くだけなら引き受けると言ったが、自分の名で型紙を起こすことは断った。失効した一級資格のまま描けば、私の無資格縫製と同じく、必要だったという事情に隠れて規程を破ることになる。現役の一級へ助言する方法も検討したが、二十一の線を前に、古い仕様そのものを疑う者がいなければ、言われた箇所だけを補修して終わる。


 私は登録簿で彼の失効理由を確かめようとした。「更新試験欠席」。たったそれだけで、二十年前に何があったかは読めない。ケルナーは右手を見せ、昔話をして同情を得る代わりに、試験当日の備品簿から調べろと言った。


「二十年前なら、この仕事を書けた人がいます」


 ケルナーは聞こえていないふりをせず、動かない右手を台の下へ置いた。「二十年前の名を出すなら、なぜ失ったかも書け」


 翌日から、私たちは王衣より先に、一双の手袋を探すことになった。


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