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「愛することはない」と言った旦那様と離婚して、王都一の魔導衣装師になりました  作者: 星舟能空


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第44話 判決の一行

 最終審理で、私は判決草案への異議を一つだけ述べた。量刑の生涯剥奪は争わない。六十九件の認定も求める。ただし認定理由へ、貸出型紙が第十二条を欠いていたため、各衣へ補う必要が生じた、と明記してほしい。


 二級の板を掛けていた青い紐は首へ戻さず、書類箱へ結んで持ってきた。金属板は資格停止のとき庁へ預けたままで、空の紐だけを身につければ、失う姿を人へ見せるための装いになる気がした。私は飾りのない濃紺の仕事着を選び、右袖の内側に、通常針を一本だけ収めた。審理室で使うつもりはない。術式針を持てなくなっても布を直す手までなくならないと、自分の皮膚へ覚えさせるためだった。


 卓上に五十四着そのものは置かれず、検分票と同じ寸法で切った裾の写しが並んでいた。第十一条の終端は灰、第十二条は金、後世の補修は銀。対照群四十一着も同じ色分けで、非閉環の十七着だけは、金の線がないまま灰色で途切れている。家名を出さずとも差が見えるようにしたのは、審理官側の提案だった。


 ライヒェルトは、草案に原因を戻す場合でも、判決はハーロウ家の型紙一種に限られ、すべての貸型紙を欠陥とみなすものではないと確認した。私は同意した。大きな問題を示すために、調べていない衣まで悪いと書けば、今回と同じ方法で反証される。残すべき一行に、広い断罪は要らない。狭くても、あとから引用できる事実であればよかった。


 中央の審理官は、原因を入れれば私の責任が軽く見えると指摘した。命令された、婚姻を救うためだった、型紙に欠陥があった。事情を重ねれば、無資格施術を正当な緊急避難と読む者も出る。


「正当だったとは書かなくて結構です。欠陥があっても、私は報告せず六十九回縫いました。その責任は消しません」


「ならば、なぜ一行にこだわる」


「私を罰する文章の中にしか、六十九着を同じ原因へ結ぶ場所がないからです。事情欄は非公開にできます。判決理由は、次の検分で引用できます」


 審理官は証拠をもう一度読み上げた。第一に、日付と貸出先を記した私的台帳。第二に、私自身の全件申告。第三に、提出された現物五十四着がすべて閉環していること。第四に、私の在家期間外の対照群七十四着のうち提出四十一着、その中の十七着が非閉環だったこと。現物のない十五着も、連続した台帳と統計差によって同じ施術の一部と認め得る。


 組合法務は、現物のない十五着まで認定すれば、私人の日記だけで違反件数を増やす前例になると異議を述べた。もっともな懸念だったので、私は十五着を五十四着と同じ確度で認めてほしいとは言わなかった。貸出日、糸の購入日、婚家の支出台帳、私的台帳の記載がそれぞれどこまで一致するか、十五行を三段階へ分けて出した。


 十二着は貸出記録と糸代の両方が一致し、二着は貸出日のみ、一着は支家と本家のどちらへ渡ったか確定できない。ただし、その一着も貸出自体と、同じ夜に私が金糸を買った記録は残る。私は曖昧な家名を判決本文へ入れず、施術一件として認定し、所在は不確定と脚注へ置くよう求めた。


「記憶違いの可能性は」と問われ、私はあると答えた。「ですが、記憶だけでなく、当時の私が隠すために作った台帳があります。自分のための記録なので、公正ではありません。その偏りを、貸出台帳と糸代で補ってください」


 自分の字を証拠として差し出すとき、その字が正直だから信じてほしいとは言えない。私は誰にも見せない前提で書いたため、日付を翌朝へずらした箇所も、糸代を家計費に紛らせた印もある。隠した痕跡まで読み、何を確かめられたかを分けることが、六十九件を告白の勢いだけで通さない方法だった。


 五十四着のうち三着は、傷みのため私の縫い癖を判別できていない。審理官はそこも問い直した。ゾンネは縫い手の癖を根拠にせず、第十二条の金糸の年代、貸出期間、台帳の連続性を合わせれば、施術群へ含められると証言した。ただし、別の者が同じ夜に補った可能性を完全には消せない、と最後へ付ける。その留保を残したまま認定するかが、審理官の仕事だった。


「あなたの自白だけで六十九件を認めるのではない」と審理官は言った。「しかし、自白がなければこの比較は始まらなかった。それを、被審理人に有利な自発申告として量刑へ入れないのか」


「入れるかどうかは、庁が決めてください。私は軽くする条件として原因を消さないでほしいと申し上げています」


 ボーデは組合席から、欠陥型紙の貸主責任を認定理由へ併記するよう求めた。組合にとって不利な一行であっても、修繕基金を作るなら責任の根拠が必要になる。彼が私の側へ移ったのではない。制度を動かすため、自分の側が負うものまで紙に要ると判断したのだ。


 一方で彼は、生涯剥奪が妥当だという組合意見を取り下げなかった。資格ある職人が無資格者へ密かに仕事を回すことを防ぐには、反復した六十九件を軽くできないという。私を助ける一行と、私を罰する意見を同じ口で述べる姿は、味方という言葉より信用できた。


 最終意見を求められ、私は右袖の通常針へ触れた。「私は、縫ったことで閉じた婚姻を壊してほしいとは申し上げません。また、縫わなければ人が困ったことを、免許なしに隠れて働く理由として残したくもありません。型紙を欠けたまま貸した責任と、それを黙って補った責任を、同じ衣の別の縫い目として読んでください」


 審理官たちは休廷し、写し布だけを卓へ残した。待合室でミナは青い紐の結び目を三度締め直し、ゾンネは検分票の頁数を数えた。私は十五年後の自分を考えかけ、どの量刑になっても、読み上げられる前に未来を完成させるのをやめた。


 判決は午後に言い渡された。


 ――被審理人ヴェレナ・ノルデンによる、他家婚礼衣装六十九着への無資格術式縫製を認定する。


 自分の婚礼衣一着は、既処理の別件であると脚注に記された。無資格施術の生涯総数は七十着、今回の審理対象は他家六十九着。数字がようやく、庁の文でも混じらず並んだ。


 続いて、求めた一行が読まれた。


 ――当該施術は、貸し出された標準型紙が本来の誓文第十二条を欠き、第十一条で途切れていたことにより必要が生じた。欠陥を知り得る立場で反復して貸与した者は、修繕に要する責任を負う。


 私のしたことが必要だった、とだけ読めば正当化に見える。その直後には、必要を知った時点で庁へ報告せず、無資格のまま反復した責任は施術者本人にある、と続いた。救った結果と違反が同じ文章にあり、どちらも片方を消さなかった。


「量刑を言い渡す。二級を含む衣装師資格を剥奪し、再受験を生涯認めない」


 二級の板は八日間しか首に掛けなかった。三級で得た仕事も、これからは公的な術式縫製として行えない。分かっていた言葉でも、声に出されると、右手が机の下で針を探す形に曲がった。


 私は手を開き、判決文の公開範囲を尋ねた。認定理由を含む全文が三十日掲示され、その後も記録として閲覧できるという。第十二条の欠落と貸主責任が、私の処分と同じ期間だけ残る。それを確かめて、礼をした。


 最後に、預けていた登録証の扱いを問われた。金属板は廃棄せず、表へ斜線と剥奪日を刻み、記録庫へ保存される。八日間しか使わなかった資格も、初めからなかったことにはしない。受験記録と推薦書、提出した六十九件は同じ番号で参照できるという。


 私は青い紐を解き、登録証を保管する箱の取っ手へ結んだ。祝いをやめた日にミナが作り、八日間、首の皮膚を守った紐である。庁の物にする必要はなかったが、彼女へ持ち帰れば、資格の形見を渡すようだった。私が保管を望んだ付属物として目録へ加えてもらい、箱を閉じるところまで見届けた。


 判決の効力は即日だった。直し屋の看板から「術式縫製」の札を外すこと、公的検分の依頼を受けないこと、預かり中の術式衣三件を有資格者へ移すことが命じられる。店そのものの閉鎖ではない。通常の繕い、布の洗浄、記録作成、資格者への助言は、依頼人へ身分を告げれば続けられた。


 禁止と許可の境を聞く間、私は生涯という語より、三件の依頼人へどう説明するかを考えていた。それが逃避なのか仕事なのかは分からない。ただ、処分を受けた瞬間にも、預かった衣は誰かの生活に戻さなければならなかった。


 審理室を出ると、外は雪だった。ゾンネ、フォス、ラウ、ミナ、エルナが石段の下で待っている。元試着係の女性たちは来ていなかった。私の判決を見届ける役目も、資格を失った私を慰める役目も、彼女たちにはない。


「生涯でした」と伝えると、ミナは唇を閉じ、青い紐も登録証と一緒に保管すると記された目録控えを握った。エルナは判決文の写しを受け取り、自分の証言が私への減刑理由にも加重理由にも使われていないことを先に確かめる。彼女は私へではなく、その書面の扱いへ向けて頷いた。


 フォスは量刑が重すぎると吐き捨て、ラウは判決理由が残った以上、控訴で原因の一行まで再審理される危険を指摘した。ゾンネは私に控訴するかと尋ねたが、今日ここで決めろとは言わなかった。私は写しを受け取り、期限を確認した。判決を受け入れることと、その場で痛くない顔をすることは違うので、手袋の中で震える指を隠さなかった。


 ミナは「先生が縫えないなら、あたしが全部縫います」と言いかけ、雪の上へ目を落とした。先ほど命じられた三件だけでも、彼女一人が抱えれば納期を越える。私の代わりという感情で仕事量を決めれば、同じ隠れた酷使を作ると、彼女自身が先に気づいたのだろう。


「三件のうち一件だけ引き受けます。二件はゾンネさんの工房へ、依頼人に選んでもらいます」


「それでよいです。私のために全部取らないでください」


「先生も、あたしのために無償で診断しないでください」


 処分の直後に賃金の話をする彼女を、私は抱きしめたくなった。けれど両手には判決文があり、彼女も検分票を抱えている。私たちは紙を落とさず肩を触れ合わせ、その場で明日の引継ぎ時刻を決めた。


 ライナルト様は、皆から一段離れたところにいた。王家の恩赦状も、代替の爵位も持っていない。雪の積もる石段を上がり、私と同じ段に立つ。


「明日も、あなたに仕事を頼んでいいか」


「私は、もう衣装師ではありません」


「縫う仕事とは言っていない」


 判決のあとにしたいことを一つ残せと頼まれた日、私は空白を埋められなかった。今も大きな望みは出てこない。それでも、明日一日なら答えられる。


「縫わない仕事なら」


「では、明日、頼む」


 彼は生涯という時間を慰めず、次の日だけを私へ渡した。


 翌朝、庁で右手の紋を検分すると、崩れは一つ減っていた。資格停止から針を置いた期間に、損耗がわずかに戻っている。もう術式には使えない手でも、回復すること自体は止められていなかった。


 医師は、術式糸を通さなければ通常針を持ってよいと確認し、月ごとの検分を半年続けるよう告げた。紋が回復しても再受験はできない。その説明を聞くと、治ることさえ無駄に思いそうになったが、指は登録証のためだけにあるのではない。食事をし、髪を結い、麻糸を引き、誰かの型紙を押さえられる。


 直し屋へ帰ると、ケルナーが棚から針箱を出した。術式用の針には赤布を巻いて別にし、油を引いた通常の繕い針を一本だけ私へ渡す。


「まだ動く」と彼は言った。


 私は針を受け取り、判決の日に裂けた手袋の指先を縫った。魔力を通さない麻糸は光らず、紋も熱を持たない。生涯の最初の一針は、誰の婚姻も王衣も背負わない、小さな繕いになった。

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