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「愛することはない」と言った旦那様と離婚して、王都一の魔導衣装師になりました  作者: 星舟能空


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第43話 貸した責任

 貸主責任の判断が出ると、衣装師組合は誓約庁への共同抗議を決めた。欠陥が後から見つかるたび修繕費を負えば、古い型紙を持つ工房ほど際限のない債務を背負う。責任を恐れて型紙を貸さなくなれば、小工房や地方の職人は一から起草する費用を払えず、婚礼衣装そのものが一部の大工房へ偏る。


 大会議室には、六十六工房のうち四十二軒が代表を送った。前回の八人より声は多く、王弟が同席すれば圧力になるため、ライナルト様は私の求めで来なかった。代わりに、王室工房も一貸主として同じ規程の対象になる、という意見書だけを出した。


 ボーデは、破れた古い型紙を一枚、卓の中央へ置いた。三代前の親方が引いた線で、現工房は一度も使っていない。それでも貸出記録が残る限り、今日の親方が全額負うのかと問う。


 その型紙は、端を持つだけで乾いた音を立てるほど脆く、麻紙に引かれた青い線も半分は薄れていた。けれど貸出印だけは裏面へ七つ重なり、最後の一つは現親方が工房を継ぐより十二年も前の日付である。古いというだけで無害にはならず、むしろ古いからこそ、誰がどの時点で確かめる義務を持ったかが分からなくなっていた。


 私は卓の端へ、今回の六十九着とは関係のない三枚の写しを並べた。一枚は、親方の死後、妻と二人の針子が継いだ小工房の型紙。二枚目は、地方の職人が王都の組合から年ごとに借りている礼装の型紙。三枚目は、貸した側も借りた側も廃業し、帳簿だけが組合へ移されたものだった。同じ「貸主」という語を当てても、支払う手も、知識も、利益を受けた期間も違う。


 小工房を継いだ女性は、父の代の瑕疵まで背負えば春まで持たないと、帳面を開いた。雇う針子は二人、未納品が五着、材料代の支払いは翌月である。検分そのものを拒みたいわけではない。ただ、その結果を一度に払えば、正しい型紙へ直す職人ごと失われると彼女は訴えた。


「閉じれば、そこの針子はどこへ行きますか」と私は訊いた。


「大工房の下請けでしょう。今より工賃は下がります」


「では、工房を残す費用も台帳へ載せます。ただし、残した工房が古い型紙を使い続ける猶予にはしません」


 彼女はすぐに賛成しなかった。修繕費を求める者の前で、自分の暮らしだけを訴えることを恥じてもいたのだろう。私は、恥じる必要はないとは言わず、針子二人の月の工賃と、型紙を改めるあいだ受けられない注文数を、彼女自身の字で別紙へ書いてもらった。変化で失う人を数えるなら、同情しやすい顔だけを私が選んではならない。


「責任をなくせば、借りた人が払います」と私は答えた。「ただ、現親方一人へ過去全部を払わせれば、工房が先に閉じます。誰が原因を知り得たか、いつから訂正できたかで、負担を分ける必要があります」


 組合側は、責任の上限と時効を求めた。被害側の聞き取りに参加した女性たちは、古いから消えるなら火傷の後遺症にも時効があるのかと反発する。私は両者を同じ席へ置いたが、和解の言葉を求めなかった。工房を守るために負傷を軽くすることも、負傷を示すために働く人を廃業へ追うことも、数字の外へ落ちる人を作る。


 提案したのは三つだった。第一に、工房と組合が拠出する修繕基金を作り、個々の依頼人へ直接争わせない。第二に、古い型紙を半年で一斉廃棄せず、危険度と使用頻度で期限を分ける。第三に、祝い術式を減らして失われる仕事、別の縫製へ移る日数、廃業を、工房名を伏せた台帳にする。


 基金は、責任を薄めるための大きな袋にはしなかった。貸出料を得た工房は件数に応じて負担し、記録を出して早期に使用を止めた工房には分納を認める。型紙の由来が途切れた分は組合の共通拠出から出し、依頼人への支払いを、貸主同士の争いが終わるまで待たせない。各工房が払った額は一般には家名を伏せても、監査する三者には開くようにした。


「三者とは誰だ」とボーデが訊いた。


「組合、誓約庁、それから基金を受け取る側が選ぶ一人です。被害を受けた人を無報酬で監査役にしないよう、その一人にも日当を出します」


 被害者代表という席を一つ置けば、そこへ座った人に全員分の怒りと赦しを語らせることになる。希望者から任期ごとに選び、断った人の名を記録しない形へ改めた。日当を払う案には「発言を買うのか」という反対が出たが、工房側の出席者だけが仕事を休んだ費用を帳簿へ入れ、傷を負った側だけを善意で呼ぶ方が、私には不公平に見えた。


 段階施行の表はミナが作った。赤は使用中止、黄は三月以内の検分、白は次回貸出前の確認とし、どの色にも理由欄を置く。彼女は六十六工房から持ち込まれた一覧を読み、古いことだけを赤へはせず、焼損報告、条文の欠落、貸出回数の順に危険を分けた。私が横から赤へ移そうとした一枚について、報告されているのは保存箱の火事で、布の焦げはないと指摘され、白へ戻す。資格を失う前でも、彼女の訂正を採用することはできた。


 転業台帳には、祝い術式を減らした場合に失われる金糸刺繍の仕事だけでなく、新しく必要になる検分補助、古布の洗い張り、記録写し、通常縫製も並べた。華やかな誓文を一行減らせば、仕事はただ消えるのではなく、別の工程へ姿を変える。ただし、同じ人が翌日から担えるとは限らないため、必要な訓練期間と、その間の賃金を基金の支出へ加えた。


「あなたは、剥奪されたらこの教育を無償でするつもりか」とボーデが尋ねた。


 以前の私なら、責任を取るためだと言って引き受けただろう。私が縫った六十九着から始まった費用を、私の睡眠と手で埋めれば、基金の数字は小さく見える。けれど、それではまた、表に出ない一人の労働で制度を閉じることになる。


「しません。私が記録作成へ参加できるなら、働いた時間を書き、報酬を受け取ります。受け取った後に基金へ寄付するかは別に決めます」


 ボーデは初めて、反論する代わりにその文を議事録へ入れた。私に譲ったのではない。無償で後始末をする弟子や妻を、制度の費用から消さないためだった。


「責任を基金へ逃がすのか」と、首に痕のある元試着係が訊いた。


「逃がしません。どの貸主が何件分を拠出したかは、非公開の監査帳へ残します。あなたが個別の工房名を出したい場合は、その同意も別に扱います」


「私が許したことにはしないでください」


「しません。基金を受け取ることと、許すことも結びません」


 彼女は賛成の署名をせず、発言だけを残して退席した。制度が前へ進む場面で被害者が頷けば、きれいな決着になる。けれど彼女が貸主を許さないまま治療費を求めることも、矛盾ではなかった。


 工房側からは、段階施行の間にまた事故が起きたら誰が負うのかと問われた。危険が確認された型紙は即日停止し、記録が欠けていて判断できないものだけを短い期限で検査する。使用を続ける場合は、借り手へ未検査であることを説明し、拒否できるようにする。猶予を、黙って使い続ける権利にはしなかった。


 三日間の協議で、組合は全面拒否を取り下げた。基金への拠出率と施行期間は決まらず、ボーデも合意とは呼ばない。それでも、貸した側に責任があるという判断そのものを撤回せず、その負担方法を争うところまで線を動かせた。


 最終日の夕方、卓の古い型紙は、持ってきたときよりさらに端が欠けていた。ボーデは屑を捨てず、小さな薄紙の袋へ入れ、型紙本体と同じ番号を振った。検分中に生じた損傷も、元からの破れと混ぜないためだという。彼が守ろうとしているのは、組合の面子ばかりではない。明日も賃金を払う工房と、証拠を出しても直ちに潰されない仕組みを守ろうとしていた。その正しさがあるからこそ、原因の一行を消す取引だけは、別に拒まなければならない。


 審理の判決草案が届いたのは、その夜だった。無資格施術六十九件を故意の反復として認定し、生涯の資格剥奪を相当とする。そこまで読んでも、予想した文だった。


 認定理由を開き、私は手を止めた。私的台帳と五十四着の閉環、対照群四十一着との差は列挙されている。しかし、「貸し出された型紙が第十二条を欠いていた」という一行だけがなかった。私が無資格で縫ったため閉じた、と書かれ、なぜ縫う必要が生じたかは事情の欄へ薄く移されている。


 私は草案を一段落ずつ細長い紙へ写し、作業台へ順番に置いた。判決文は布ではないが、何をつないで何を外したかは、型紙と同じように目で確かめられる。六十九件の認定から私の施術へ線が通り、五十四着と対照群の差も添えられているのに、施術が必要になった原因だけが、本文から離れた非公開の事情欄へ逃がされていた。


 ミナが第十一条までしかない貸型紙の写しを持ってきて、細長い紙の隣へ置いた。二つとも、途中までの線は整っている。だからこそ、知らずに読めば、最後の一行が初めから存在しなかったように見えた。


「この草案のままでも、基金は作れますか」


「作れます。でも、任意の見舞金になります。次の貸主が払わないと言えば、今回の合意だけでは強制できません」


「先生の資格は、十五年で戻るかもしれないんですよね」


 私は頷いた。十五年後なら五十歳になる前で、通常の針を持ち続ければ、術式へ戻る余地がある。店を守り、ミナの隣で働き、王衣の完成を見る未来も、決して軽くはなかった。


「戻りたいですか」と彼女は訊いた。


「戻りたいです」


 口にすると、手が草案の端を強く押さえた。生涯剥奪を望んでいるわけではない。針を捨てる潔さも、処罰を引き受ける美しさも欲しくなかった。私は資格を持ったまま縫いたいし、登録証へ自分の名を戻したい。その欲望があっても、欠けた一行を代価にはできないだけだった。


 ライヒェルトの添書には、原因の一行を判決理由へ入れなければ、情状を考慮して量刑を十五年停止まで下げられる可能性がある、とあった。型紙欠陥を公的な判断にせず、私個人の違反として閉じれば、庁も組合も過去の貸出全体を背負わずに済む。


 ケルナーは草案を左手で押さえ、欠けた箇所へ細い紙片を挟んだ。婚家の型紙が第十一条で止まっていたのと同じく、判決も最も必要な一行の前で止まっている。


「軽くしてほしいか」と彼は訊いた。


 私はすぐ答えず、ライナルト様に渡され、まだ何も書けずにいる紙を草案の隣へ置いた。資格を失ったあとにしたいことは、まだ決められない。だからといって、その空白を守るために原因の一行を消せば、また自分一人が夜に縫えば済むという形へ戻る。


「量刑の軽さと、この一行を交換しません」


 閉店後、ライナルト様が会議に使った紙束を受け取りに来た。彼は草案を読んでも助命を申し出ず、十五年という箇所へ指を置いたあと、私の顔を見た。


「戻りたいか」


「はい。縫いたいです」


「なら、その願いを隠して決めるな」


「隠しません。戻りたいまま、この草案には同意しません」


 彼は紙から手を離し、「最終審理には入れない。石段で待つ」と告げた。王弟が同席すれば圧力になるという私の判断を、最後の日だけ変えようとはしなかった。その代わり、私が判決後に会いたくなければ帰るという、先日の条件も変えずにいる。


 私は異議書の末尾へ、処分の軽減を求めない、という文を足しかけて止めた。軽減を拒んでいるのではない。原因を消さない量刑判断なら、庁が自発申告を考慮することまで退ける理由はなかった。求める一行と、争わない部分を分け、「量刑について独立した判断を求める」と書き直した。


 翌日の審理へ出す異議書では刑を争わず、認定理由の欠落だけを書いた。


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