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「愛することはない」と言った旦那様と離婚して、王都一の魔導衣装師になりました  作者: 星舟能空


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第41話 八日目

 赤い封紙は、机そのものを使うなという意味ではなかった。術式糸、術式針、登録印を封じ、資格停止中の私が縫製も公的診断もしていないと分かるようにする印である。通常の針と布鋏は別の棚へ移せば使えるが、六十九着の検分が始まるまでは、私は机上の配置を一つも変えなかった。


 封紙は作業台の三辺へ渡され、引出しにも一枚ずつ番号が付いた。糊の下に髪や糸を挟む小細工は使わず、毎週、庁の書記が紙の乾きと破れを自分の目で確かめる。私を信用しないための制度を、侮辱とは思わなかった。六十九着を秘密に縫った者の「触っていない」という言葉だけで審理を進めれば、判決もまた私一人の内側で閉じる。


 私は封印前の配置を四方向から図にし、ミナと執行官へ一部ずつ渡した。青い絹の繊維が一本、右端の針山に付いていることまで書く。あとで誰かが証拠を混ぜたと疑われたとき、清潔すぎる机より、元からあった汚れを記した机の方が確かだった。


 執行官は針を本数ごとに数え、二級登録証とともに庁の箱へ入れた。三級の板も同時に効力を止められる。処分がまだ決まっていなくても、二級だけを使わず三級の仕事へ戻ることはできない。八日間の二級は終わり、私は審理中の資格停止者になった。


 ミナが、届いた衣装のほつれへ手を伸ばした。六十九着の一つで、輸送中に第十二条の端が一針だけ浮いている。今直さなければ検分前に糸が切れると考えたのだろう。


「触らないでください」


 私の声が強くなり、彼女の手が止まった。


「でも、このまま運んだら、ほどけます」


「ほどける前の状態を写し、保護布で固定します。縫い直してはいけません」


「あたしは資格があります。先生の代わりに」


「代わりだから、いけないのです。私の縫い目へあなたの一針が混じれば、どこまでが三年前か証明できなくなります」


 私は自分が針を持てない苦しさから、彼女の手まで止めようとしているのではないかと確かめた。けれど今は、完成した衣を守るより、欠けも傷みも含めた証拠を守らなければならない。ミナには綿を入れない薄布で裾を挟み、縫わずに木枠へ固定してもらう。


「先生が言えば、何でも縫っていいわけではないんですね」


「最初から、そうです。私がそれを忘れさせていました」


 ミナは手を引いたあとも、自分が触れかけた箇所を黙ってはいなかった。右端から三寸、浮いた金糸の一針手前へ指先が触れた、と保全票へ自分で書く。実際には糸を動かしていなくても、触れた可能性を残す方を選んだ。


「これで、あたしのせいで証拠にならなかったら」


「その場合も、触れたことを隠すよりよいです。証拠のためにあなたを罰する紙にはしません」


「先生は、そういう紙を自分には作らなかったんですね」


 返す言葉がなかった。私は自分が針を入れた六十九着へ、誰にも見つからない工夫ばかりをし、止めてもらうための記録を作らなかった。ミナが一度触れたと書ける店を、今度は私が守らなければならない。


 六十九家へは、誓約庁から検分通知が送られた。衣装を庁へ提出する、検分官の訪問を受ける、拒否する、の三つから選び、理由は求めない。私が直接連絡すれば、罪を軽くするために協力を迫ったと受け取られるので、所有者の応答を知るのも番号だけにした。


 通知の最初の文面には、「無資格施術の疑いがあるため」とだけ書かれていた。受け取った家から、婚姻そのものが無効なのかという問い合わせが相次ぐ。庁は、検分の目的が誓文の条数と閉環を確かめることで、閉じていれば現在の婚姻効力は動かないと、説明紙を追加した。


 それでも、衣装を他人へ見せることを拒む人はいた。亡くなった妻の衣を箱から出したくない夫、再婚したため最初の婚礼を調べられたくない女性、私の名を新聞で知って怒った家。拒否理由は任意とし、答えた人の言葉だけを番号に添える。十五着が出ないことを、隠した証拠とは扱わなかった。


 提出した家にも、私を助けるためではないと明記した人がいる。「子へ相続する前に裾を確かめたい」「貸出料の返還請求に使う」「施術者の処分には関心がない」。協力という一語で善意にまとめず、衣を出した利益を各家自身のものとして残した。


 最初の十日で二十一着、ひと月で四十三着、最終的には五十四着が提出された。未提出は十五着。その中には衣装が失われた家、婚姻を調べられたくない家、私の名を聞いて協力を拒んだ家がある。拒否を一つの理由へ揃えず、十五という数だけを残した。


 検分には、私の推薦者三人と、別工房の二級衣装師が加わった。私は同席できないため、縫い目の癖を先に答えとして渡さず、見る箇所と記録の仕方だけを書面にする。第十一条と第十二条の境、終端の返し、糸の年代、貸出台帳との日付。誰が見ても同じ資料へ戻れるよう、項目ごとに現物の小さな図を添えた。


 最初の五着を検分したあと、ゾンネから書式の訂正が届いた。私の図では、終端を右から見た向きしか示しておらず、裾を裏返すと左右を取り違える。私は資格停止中なので診断欄は直せないが、書式作成者として図の上へ「着用者から見た右」と追記する提案を返した。採用を決めたのは五人の検分者で、改訂者欄にも彼らの名が入る。


 検分作業は、外から見れば裾を読むだけで半刻ほどだった。実際には、所有者の前で封を解き、虫損を写し、糸の熱を通さず条数を数え、再び同じ折り方で箱へ戻す。古い香草が舞うため、一日に扱えるのは三着まで。五十四着を急いで積まず、一着ごとに保管時の傷と施術時の傷を分けた。


 三月後、五十四着の報告が届いた。すべて、第一条から第十二条までが閉じ、裾は閉環している。私的台帳と貸出日が一致するものは五十四、私の癖と整合するものは五十一、傷みのため判別できないものが三。ただし、五十四着が閉じているだけでは、私が縫ったと証明したことにはならない。


 三月のあいだ、店では術式へ触れない繕いだけを受けた。裾上げ、釦の付け替え、洗い張りした裏布の綴じ直し。以前の半分にも届かない売上だったので、ミナの賃金を減らす案を出すと、彼女は自分の労働時間も減らし、その分を試験勉強へ回すと決めた。私が差額を無償労働で埋めることも、彼女が忠義で店へ残ることもせず、家賃と食費を毎週の帳面で確かめた。


 客の一人は、封紙のある台を見て、私へ袖口だけでも術式を直してほしいと頼んだ。誰にも言わないという好意を、私は受けなかった。通常のほつれだけを麻糸で繕い、術式部分はゾンネの工房へ渡す。秘密を共有すれば客との近さになるように見えても、同じ近さが六十九着を蔵に隠したのだった。


 一着には、第十二条の上から別の職人が補強した銀糸が重なっていた。所有者はそれを私の縫い直しと考えていたが、年代を測ると婚礼から十二年後の糸である。私はその補修者を知らず、検分者も工房印を特定できなかった。「私の施術と整合」と書かず、閉環のみ確認、縫い手不明とした。


 別の衣は、洗い張りで裏布が交換されても、金糸の輪だけが古い裾へ残っていた。着る人の生活に合わせて直され続けた衣を、証拠だから婚礼当日のまま保存されるべきだったとは言えない。後世の補修を汚染と呼ばず、どの年代の手かを分けることが検分だった。


「全部閉じているなら、よいのでは」とミナが言いかけ、自分で首を振った。「よくないですね。誰が足したか分からないから」


「それだけではありません。最初から型紙に第十二条があった可能性も残ります」


 私が嘘の申告をしていると疑うためではない。六十九件すべてを認定してもらうなら、私の言葉に有利な可能性だけを消してはいけない。閉じた五十四着とは別に、同じ型紙で私のいなかった時期に作られた衣を調べ、差を見なければならなかった。


 封じられた針箱は、直し屋の棚に置かれた。庁が預かるべき術式針とは別に、ケルナーから借りた鋼の針が二十本ある。私は触れなかったが、ケルナーは毎朝箱を開き、油布で一本ずつ拭いて戻した。


 ある午後、ライナルト様が灰色外套を着て、その隣へ腰を下ろした。二人はほとんど話さず、ケルナーが針を拭き、彼が本数を数える。私に慰めを見せるために集まったのではない。使えるかもしれない道具を錆びさせない、その仕事だけが続いた。


「取り上げてしまえば、あなたが使えないことを考えずに済む」とライナルト様が言った。


「だが、返す日が来ても錆びていれば使えん」とケルナーが答えた。「来ないかもしれん日を理由に、今日錆びさせる必要はない」


 私は二人の背へ礼を言わず、検分報告の余白に対照群を書き出した。婚家へ入る前と出た後、過去二十年に同じ型紙を借りた婚礼は七十四着ある。私がいなかったため、第十二条を足す者もいなかったはずの衣である。


「この七十四着を、同じ手順で調べてください」


 七十四は、二十三家の貸出帳と誓約庁の婚姻簿を突き合わせて出した。私が入る前の十七年間に六十二着、離縁後の三年間に十二着。自分の在家期間だけを都合よく切り取らず、同じ型紙が使われた連続した二十年を対照とする。私の六十九着より古く、現物が失われている可能性も高かった。


「全部閉じていたら」とミナが訊いた。


「私の縫いが六十九着を閉じたという仮説は弱くなります。型紙には最初から別の閉じ方があったかもしれない」


「先生の申告が、間違いになるんですか」


「私が縫ったことは変わりません。でも、必要だったという事情は変わります」


 自分に不利な対照を求めることも、潔白を示すためではない。六十九件を認定させたいからこそ、違う結果が出る可能性を検査へ入れる。ミナは七十四という数字の横に、「閉環なら仮説を再検討」と書き足した。


 五十四着を集めるだけでも三月かかった。七十四家の婚姻には相続を終えたものもあり、庁が拒む理由は分かっている。それでも、閉じた衣だけを見て六十九件を認めさせれば、私の告白が証拠の代わりになってしまう。


 私は申請書の目的欄へ、「被審理人に有利な事実の確認」とは書かず、「同一型紙における非施術期間との差の確認」と記した。封紙の向こうで針は動かなくても、調べる範囲を示す手はまだ動いた。


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