第35話 二十六人の名前
二十六人全員へ同じ場所に来てもらうことはしなかった。組合の会議室へ入れば親方に見られ、王弟の屋敷へ来れば王家へ訴えたことになる。私たちは本人の希望を先に尋ね、直し屋、貸し会議室、自宅、靴屋の裏口と、場所を分けた。
面会を断った人には、質問票と返送用の封筒だけを置いた。字を書けない人にはリッタかミナが読み上げ、答えを復唱してから代筆した。名を出すかどうかは最後に別紙で訊き、家族の印で代えず、必ず本人の印をもらった。
質問は七つの照会状を、そのまま読み上げる形にはしなかった。最初に、いつ、どこで、何着を着たかを本人の言葉で話してもらい、こちらの帳面と違うところだけを後から確かめる。「火傷しましたか」と先に訊けば、赤くなっただけだから違うと答える人も、治療したから工房が数えているはずだと黙る人もいる。腕を見せてほしいとも、こちらからは求めなかった。
同席者を希望するか、途中でやめた場合にそれまでの言葉を残してよいか、面会後に記録を読み直すかも、毎回選んでもらった。二十六人へ同じ質問をすることと、同じ方法を押しつけることは違う。場所も時間もばらばらになり、十一日間の予定表は何度も書き直したが、調査の早さを本人の都合より上へ置かないと決めていた。
最初に会った女性は、試着をやめたいと思ったことはないと言った。
「一着で銀貨が入りました。冬の二月は、それがなければ妹が薬を飲めなかった。なくすなら、綺麗な言葉より先に代わりの仕事を持ってきてください」
二人目は、火傷が一度もなかったので危険だと知らなかった。三人目は肩を焼いたが、工房が治療費を出したことを必ず書いてほしいと頼んだ。四人目は親方の名を公表するなら自分の証言を使わないでほしいと言い、五人目は反対に、工房名まで出さなければ意味がないと怒った。
六人目は、最初の三着では何も起こらず、四着目で手首を焼いた。慣れていたため白変を見ても自分で袖を脱がず、親方が止めるまで黙っていたという。工房は治療費を払い、翌月から試着を頼まなかった。それを「解雇」と感じたか「保護」と感じたかを訊くと、彼女は長く考えて、どちらでもあると答えた。
九人目の男は、婚礼衣装の試着は女の仕事だという噂を嫌い、自分の名と職種を出してよいと言った。細身だった十五歳のころ、花婿衣装を七回着て、発火はなかったが二度気を失った。工房帳には焼損がないため事故零と記録されているはずだという。私は失神を別の欄へ足し、今回の十九件の焼損とは混ぜず、見落としていた症状として残した。
十一人目は、話す前に当時の報酬袋を机へ置いた。銅貨の枚数は組合の相場表より二枚少なく、その代わり昼食と帰りの馬車が出た。金額だけなら低賃金、本人の記憶では町へ働きに出られる貴重な日だった。どちらか一方を本当として選ばず、貨幣と現物、本人の評価を三段へ分けた。
私は言葉を「試着廃止を希望」に揃えず、一人ずつ違う欄を作った。説明、拒否、本人名、工房名、治療費、代替の仕事。要求が互いに矛盾していても、穏当な一文へ縫い合わせない。
十四歳のリッタは、聞き取りのたびに自分の古い手配札を持ってきた。父の治療と薪のため銀貨十八枚が必要だったこと、四着目を着る予定だったこと、止められた後は靴の配達と聞き取りで同じ額を得たことを、自分から話す。
彼女が同席することを嫌がる人もいた。十四歳の子の前では工房を責める言葉を言いにくい、反対に、危険な仕事へ戻りたいとは言いづらいという。その場合、リッタは席を外し、封筒の整理だけをした。自分も当事者だから全員の話を聞く権利があるとは言わず、話す側が選ぶ権利を先に置いた。
三日目の帰り、彼女は「みんなが同じ答えなら、あたしは楽だったと思います」と漏らした。試着をなくせと言う人だけなら、自分が止められたことを正しかったと迷わず思える。けれど金のため続けたい人の事情を聞けば、別の仕事を得た自分だけが安全を選べたようにも感じるという。
「楽な答えを渡すために聞いているのではありません」と私は言った。「でも、あなたが別の仕事を得たことを悪いことにもしません。全員が同じ条件を持てるようにするのが、私たちの次の仕事です」
彼女はすぐには頷かず、その言葉も聞き取り記録へ入れてよいかと訊いた。私は自分の発言として入れ、正しい結論としては扱わないと約束した。
「あたしは、焼けなかったからやめられたんじゃありません。姉さんとユリアン様が、別の仕事にしたからです」
その説明を聞くと、金が必要だった女性も、初めてリッタへ質問した。何日働き、誰が賃金を払い、いつまで続くのか。安全を選べと言うだけでは選択にならないことを、私より早く二人は確かめ合っていた。
十一日かけて、二十六人すべてから返事を得た。面会したのが十九人、書面だけが六人、家族を通して「話したくない」と返した人が一人。その拒否も、回答の一つとして数えた。
記録を机へ並べ、延べ着用数を足す。百三十七まで来たところで、ミナが四枚目の裏に小さく書かれた再試着を見つけた。三度計算し直し、数字は百四十一着になった。
人数は二十六人のままだが、一人あたり一着から十一着まで幅があった。「百四十一人が危険にさらされた」と書けば、数は大きく見える代わりに嘘になる。私は表の見出しを、試着者二十六人、延べ着用百四十一回とし、衣が一着でも同じ人が日を替えて着れば一回ずつ数える規則を注記した。
焼損十九件も、十九人ではない。同じ女性が二度焼けた例が一人あり、反対に十着を無傷で着た人もいる。工房側の帳面と一致したのは十一件、本人の証言で初めて分かったのが八件。その八を虚偽の隠蔽と断定せず、本人が申告しなかった、治療を家庭でした、工房が赤みを焼損に数えなかったという理由を分けた。
数字を確かめる作業には、話を聞くのと同じだけ時間がかかった。ミナが足し、私が引き、ケルナーが元の紙と一件ずつ照合する。計算が合っても、誰かの一日が二重に消えていないかを番号で追う。最終表の百四十一と十九へ三人が署名したとき、胸にあったのは、大きな数字を手に入れた喜びよりも、少なくとも今ある記録を粗末に畳まなかったという安堵だった。
焼損は十九件。赤みだけで翌日に消えたものから、今も指が曲がりにくいものまで同じ一件にはせず、治療日数と後遺症を分けて書く。そして、事前に「術式の漏れで皮膚を焼く可能性がある」と説明された人は、一人もいなかった。
「危ないとは言われました」と、首に細い痕のある女性が話した。「でも、針に触るなとか、裾を踏むなとか、私が失敗しないための話でした。衣の方が私を焼くとは聞いていません」
説明を受けた人数、零。その数字だけは、何度確かめても変わらなかった。
最後の集まりには、名前を公表してもよいと答えた者だけが来た。ライナルト様も同席したが、灰色外套を着て三歩離れた壁際に座り、紹介されたときだけ頭を下げた。
「殿下が謝る会ですか」と一人が訊いた。
「違う」と彼は答えた。「私の衣にも、名を残されなかった試着者がいたかもしれない。その記録を聞くために来た」
「王家が治療費を払うんですか」
「今ここで約束すれば、あなた方が求めた条件を聞く前に、金で答えを決めることになる。今日は聞く」
彼の返事を冷たいと思った人もいただろう。だが、すぐに救うと言わなかったことで、女性たちは要求を王家が払える形へ小さくせずに済んだ。
危険の説明を義務にすること。本人が断っても家へ違約金を課さないこと。着た者の名を、希望すれば衣装の記録へ残すこと。火傷の治療費を工房だけでなく発注者も負担すること。子供を使わないこと。年齢だけで線を引かず、断れる立場かを確かめること。
「説明したという紙へ署名させるだけでは、また読めない人が残ります」と、代筆を頼んだ女性が言った。「口で聞いて、何が起きるか自分で言い返せるまで、着せないでください」
別の女性は、拒否した日にも交通費を払ってほしいと求めた。試着場へ来てから危険を聞かされ、断れば一日の稼ぎを失うなら、本当には断れない。報酬の全額か、半額かでは意見が割れたが、説明は仕事を受ける前に行い、来場後の拒否には最低の補償を出すという線では一致した。
治療費を発注者にも負担させる案には、婚家へ恨みを持たれたくないという反対が出た。工房と依頼人の直接払いを避け、注文額の一部を共通基金へ入れ、事故時は名前を伏せてそこから出す方がよいという提案もある。要求は単なる禁止から、誰がいつ何を払うかという制度の形へ変わっていった。
最後の二つは意見が割れた。十五歳未満を一律に禁じたい者と、年齢だけ上げれば貧しい十八歳へ仕事が移ると言う者がいる。私は両方を並べた。
聞き取りの後、ライナルト様は壁際の椅子を自分で戻した。帰り際、一枚の記録をもう一度見たいと頼む。そこには試着の日、工房、婚礼家の頭文字がある。
「この日付を知っている」
彼が指したのは、ハーロウ家の婚礼台帳にもあった日だった。私は直し屋へ戻って控えを開き、年月日を重ねる。試着者の記録では、腹部に焼損。ハーロウ家の台帳では、同じ日に婚礼衣装一着を仮縫いし、三日後に貸し出している。
その貸出先の名には見覚えがあった。婚家の蔵で、私が第十二条を縫い足した衣の一つである。ただし、私が針を入れた日付までは、表の台帳に残っていない。
記録上、その衣は仮縫いの三日後に「完成」とされている。だが私が第十二条を足したのは、婚礼の前夜、誰も蔵へ来ない時刻だったはずだ。工房の完成日、試着者が焼けた日、婚家が貸し出した日、私が秘密に針を入れた日。その四つが近接しているのに、正式な帳面では互いにつながっていない。
もし私の第十二条がなければ、婚礼衣装は裾から誓約を漏らしただろう。縫ったことで結婚は成立し、着る花嫁は救われたと、三年間の私は思っていた。けれど、その完成より前に、別の女性の腹部が焼けていた。私が直したのは最後の欠陥であり、その前に誰が代わりに衣を着たかを、知ろうともしなかった。
「あなたの記録ですか」とライナルト様が、開きかけた台帳を見て訊いた。
「はい。ただし、今はまだ私だけの記録です。これを先に答えにすると、ほかの十八件まで私の告白の背景にしてしまいます」
彼は開けとは言わず、私が手を離すまで待った。その沈黙は、隠してよいという許しではない。自分で開く順番を、自分で選べという時間だった。
私は自分の私的な作業台帳を開きかけ、手を止めた。今ここで一件だけを取り出せば、十九件の火傷が私の罪を量るための数字に変わる。先に、提出された衣と記録を同じ手順で確かめる必要があった。
「明日、ハーロウ家に関わる衣装を、出せる家だけで構いませんから集めます」
ライナルト様は理由を問わず、私の選択を待った。百四十一着の一件が、六十九着の台帳へつながり始めていた。




