第34話 焼けない代わり
ボーデは通達を否定しなかった。衣装師組合の大会議室へ私たちを通し、同じ文面の原本を机へ置いた。
長卓の一方には、祝い術式を扱う親方が八人座っていた。反対側は私、ケルナー、ミナ、そして灰色外套を着たライナルト様である。王弟が同席すると知って席を立とうとした者へ、彼は命令を避け、「今日は一工房の依頼人として聞く」と告げた。
それでも、彼が椅子へ座るまで誰も腰を下ろさなかった。王弟が命じないと言っても、身分は外套と一緒に脱げるものではない。私は議事録の冒頭へ、王族の同席を事前に知らされた者が五人、当日知った者が三人、退席を選んだ者が零と記した。零が自由な同意だったかは分からない、という注記も添えた。
匿名の通達を送った人を探さないため、原本との照合はボーデ自身にしてもらった。紙質、印、日付、文面の四点が一致し、配布先は組合加盟六十六軒。彼が認めたところで、私は写しを封へ戻し、入手経路を答えないと宣言した。八人の親方のうち二人は不満を示したが、情報を出した者を守れなければ、今日以後の帳面は一冊も開かない。
「外部へ出せば、数字だけが歩く」とボーデは言った。「試着で火傷した子供がいる。それは否定しない。だが、祝い術式が売れなくなれば、まず仕事を失うのも、同じように断れない立場の者だ」
親方の一人が、婚礼衣装一着に関わる仕事を書き出した。絹を織る者、金糸を引く者、刺繍の下絵を写す者、仮縫いを運ぶ者、洗い張り、仕上げ、箱を作る者。小さな工房でも十数人、大きければ家族を含めて五十人以上が、一着の代金から賃金を受け取る。
「一着が売れなくなれば五十人が失職する、という計算ではありませんね」と私が確かめると、親方は顔をしかめた。「分かっている。一人は別の衣にも関わる。だが、その重なりを調べる帳面などない」
私は五十という数を消さず、延べ関係者と書いた。試着の延べ着用数と同じく、実人数と仕事の回数を混ぜれば大きく見える。相手の数字を小さくする意図はない。同じ区別をこちらの百四十一着にも当てはめなければ、公平な比較にならないからだった。親方は渋々、自工房で祝い術式が売上に占める割合と、雇っている実人数を後日出すと約束した。
別の親方は、光らない婚礼衣装の注文が冬から三割増えた一方、金糸職人への発注が半分になったと話した。布を裁つ仕事は残っても、術式だけを十年学んだ者はすぐ別の針へ移れない。制度を替えるなら、安全な技術へ移る訓練期間と、その間の賃金を用意してほしいという。初めて、危険な試着を続けるための猶予という曖昧な反対から、具体的な日数が現れた。
「光らない婚礼が広がったこの冬、弟子を一人返した工房がある」とボーデは続けた。「試着係をなくせば焼ける者は減る。代わりに薪を買えない家が増えたとき、あなたはそちらを数えるのか」
妹の白い衣装を作ったことで、注文が減った工房がある。その因果を「安全な婚礼が選ばれた」で終えれば、落ちた人は私の紙から消える。
私の胸には、あの白い婚礼衣装を選んだことへの後悔はなかった。妹を試着台へ載せず、光より本人を残すための衣だった。ただ、その一着が新しい流行になり、何も知らされないまま仕事を失った刺繍師がいるなら、「正しいものが勝った」で済ませることもできない。正しさの費用を、危険を訴えた側にだけ払わせる制度は、長く続かない。
「では、祝い術式を残したいのですか」とミナが小声で訊いた。
「残すかなくすかを、今ここで私が決めたいのではありません。試着者を焼かずに残せる技術があるなら、そのための日数を出してほしいのです」
ミナは頷き、自分の三級試験までに必要な日数の紙を、転業訓練の欄へ置いた。制度の数字は、同じ店で働く彼女の三年へも、まっすぐにつながっていた。
「数えます」
私は新しい集計案を卓へ出した。祝い術式をやめた工房数、減った注文、解雇、廃業、転業先、技術を替えるまでの日数。被害者の火傷と同じ欄へ混ぜず、同じ報告書の別表として置く。
「責任を免除するためではありません。火傷した人を、職人の暮らしで相殺もしません。ただ、制度を変えた結果として落ちる人まで、見えないことにはしない」
表は三枚に分けた。一枚目は試着者の身体と説明、二枚目は工房の売上と雇用、三枚目は変更に必要な日数と費用。三つを足し引きして「利益が被害を上回る」といった一つの答えにはしない。同じ報告書に綴じても、単位の違うものを同じ列へ置かない。その原則を読み上げると、ケルナーはようやく左手を表から離した。
「数字を増やせば公平になると思うな」と彼は言った。「書ける帳面を持つ工房だけが詳しく見え、日雇いの者ほど空欄になる」
そこで空欄を零として扱わず、不明、記録なし、回答拒否に分けた。何もない欄にも理由があり、理由が分からないこともまた一つの情報である。報告書を整えて見せるために空白を埋めれば、見えない人をもう一度消すことになる。
「言うのは簡単だ」と別の親方が返した。「あなたの店は、新聞に王都一と書かれて客が増えた。こちらの減収を数えても、補えるのか」
「補えるとは申し上げません。補えないと分かったとき、変更の時期を延ばすか、基金を作るか、祝い以外へ技術を移すかを選べます。数えなければ、誰も選べません」
ケルナーは発言せず、私の表から「廃業理由」という欄を消し、「本人の申告した理由」と書き直した。私が因果を決めないための訂正だった。
議論が一刻を越えたころ、一人の親方がライナルト様へ向き直った。私との話では動かないと見て、王家の損失へ論点を移したのだろう。
「殿下は、このような調査をお許しになるのですか」
「私が許すものではない」
「ですが、工房は王家の儀礼衣装を納めています。信用が崩れれば、王室にも損失がございます」
「損失はあるだろう。だから、あなたが今述べた。私はそれを止めない」
彼は私の代わりに正しさを宣言せず、親方の不安も退けなかった。王家の側へ話を移せば私を黙らせられると思った者は、もう一度、自分の言葉でこちらへ向き直るしかなくなった。
ボーデは、最初の通達を指で叩いた。工房を黙らせた紙を隠さないことと、その判断を撤回することは、彼の中ではまだ別だった。
「記録を出させなかったのは、工房名と顧客名が結びつけば、既存の婚姻まで疑われるからだ。試着で事故があった衣装は、婚礼そのものも危険だったと受け取られる。何十年分の家名が傷つく」
「でしたら、公開する統計と、本人が同意した名前を分けます。婚姻の有効性は、試着時の負傷とは別に検分する。それも書きます」
「書けば、人は分けて読むのか」
「全員は分けません。だからといって、何も書かない理由にはできません」
婚姻の有効性については、誓約庁の書面を添えることにした。試着時の事故があっても、結婚した二人の誓約が自動的に無効になるわけではない。ただし依頼人が「安全に完成した」と工房から虚偽の証明を受けていた場合は、衣装契約だけを再検分できる。婚姻と衣装を切り分ける法の言葉を、工房側の親方にも確認してもらった。
「それでも家名は噂される」とボーデは言う。
「はい。完全には防げません。だから本人の同意がない名は出さず、統計から衣装番号も外します。ただし、噂が怖いから火傷を数えない、には戻しません」
守れる範囲を大きく言わない返事は、誰にも快くなかった。条件付きではあったが、八人のうち三人が帳面を見せると言った。工房名を伏せる者、集計前に数字を確認したい者、本人の所在を組合が仲介する者。それぞれの条件も議事録へ残した。
ボーデは私の返事を嫌ったようだった。私も、彼の通達を正しいとは思わない。こちらが被害者という強い言葉だけを持ち、向こうを保身と呼んで終えれば、次の制度はまた一方の暮らしを型紙へ押し込む。
「工房の帳面が信用できないなら、着せられた側へ訊け」と彼は言った。「あなたは、試着係を全員、何も知らない被害者だと思っている」
「全員が同じだとは思っていません」
「薪のために自分から来た者も、弟妹の薬を買った者もいる。火傷がなかったから続けたいと言った者もいる。工房を告発するつもりがない者の言葉を、あなたの結論へ使うな」
彼は鍵のかかった革鞄から、二十六人分の名と当時の住所を書いた名簿を出した。組合が報酬の相場を調べたときに作ったもので、現在の住所には不明も多い。
「これは、公開のために渡すのではない。本人に、何を残すか訊くためだ」
「なぜ、私へ」
「工房へ訊いて十七通しか集まらなかった。その数を隠さず、私の通達まで持ってきたからだ」
ボーデは私を信じたのではない。自分の側だけで二十六人を訪ねれば、また組合に都合のよい答えを集めたと言われる。その危険を、彼も分けようとしていた。
私は名簿を受け取る前に、用途、保管、複写しないこと、面会を断られたら再訪しないことを書いた。ボーデにも署名を求めると、彼は「面倒な女だ」と言いながら名を記した。
名簿の原本は組合金庫から出さず、二十六人それぞれへ無作為の番号を振った連絡票だけを受け取ることにした。住所を知る担当はボーデと組合書記、訪問する者は封を開いた一件だけを見る。直し屋に戻るころには、使い終えた住所票を一枚ずつ組合へ返し、応答の有無だけ番号で管理する。面倒な手順だが、聞くために得た住所が別の商売や噂へ流れることを防ぐには必要だった。
「私の屋敷の書記を使えば、もっと早い」とライナルト様が言った。
「王家に住所を渡す許可は取っていません」
「そうだった。では使わない」
彼は善意を退けられた顔をせず、条件を一つ覚えた顔をした。何度断っても、次の提案まで遠ざからない。その変化が、私はありがたかった。
「そうでなければ、六十六軒へ同じ封筒は送りません」
会議を終え、ライナルト様と階段を下りた。彼は一度も私の盾にならなかったが、席にいるだけで親方たちの言葉が慎重になったことも事実である。
「私がいない方がよかったか」
「いいえ。あなたがいる時に何が変わるかも、記録します」
「私は、数えられる側か」
「私もです」
「今日、私が黙っていても、八人は私を見て話した」
「はい。ですから次の聞き取りには、あなたがいる回といない回を作ります。どちらを望むか、相手に先に訊きます」
階段の踊り場で、彼は灰色の襟へ手をやった。私が整えなくても、もう自分で折れを直せる。その手が一瞬止まったので、同じ場にいるだけで影響を与える自分を、また遠ざける理由にするのではないかと思った。
「いない方を選ばれても、聞くのをやめないでください」と私は言った。
「あなたが、私に来るなと言ってもか」
「その面会には来ないでください。でも、次に来てよいと言われた場所まで、ご自分を消さないでください」
彼は襟から手を下ろし、「難しい注文だ」と答えた。簡単に従うとは言わなかったことに、かえって私は安堵した。
二十六人の名簿は軽かった。そこに書かれた人が、同じ結論を持つとは限らない。その違いを潰さず聞くことが、次の仕事になった。




