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「愛することはない」と言った旦那様と離婚して、王都一の魔導衣装師になりました  作者: 星舟能空


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第33話 十七通

 六十六通の照会状には、答えてほしい項目を七つだけ書いた。過去二十年の試着者数、延べ着用数、焼損件数、年齢、報酬、事前説明、拒否した者の記録。名前は求めず、工房名も集計時には伏せると付記した。


 最初は「試着被害調査」という題を付けたが、ケルナーが墨を引いた。被害であるかを私が先に決めれば、火傷を負っても仕事を失いたくない人や、何も起きなかった人の記録が落ちる。「祝い術式衣の試着実態照会」と書き直し、焼損には発火だけでなく、白変、赤み、治療を要した熱傷を分けて記入する欄を作った。


 質問の言葉も、ミナに一度読んでもらった。「拒否した者の記録」は、断った人の有無を数える問いをやめ、工房が拒否を帳面へ残したかを尋ねる文にする。拒否した人の名を差し出させれば、次の仕事で不利益を受けるかもしれない。「事前説明」も、単に危険と言ったかで終わらせず、衣が皮膚を焼く可能性、断れること、断った場合の賃金を三つへ分けた。


 七項目は変えず、答えの中身を分ける。表を細かくしすぎれば帳面のない工房は返せず、粗くすれば違いが消える。その境を探すだけで二日かかり、試しにフォスへ見てもらってから、意味の取り違えがあった二箇所を直した。質問する側の語彙もまた、回答へ混じる条件だった。


「七つだけ、って顔じゃないですよ」


 封筒へ蝋を落としながら、ミナが言った。彼女の右には未封の三十三通、左には封を終えた二十一通が積まれている。


「一つずつなら簡単です」


「六十六軒ぶんになると、簡単が四百六十二個あります」


 数えたらしい。私は残りの封筒を半分引き取り、リッタが靴の配達で回れる南区だけは直接渡してもらうことにした。十四歳の彼女を一人で工房の奥へ入らせず、封筒は表で手渡し、質問には答えず直し屋へ戻るという条件も書面にした。


 郵便で送れば、親方以外の手へ渡る可能性がある。直接持っていけば、王弟の外套を作った店から圧力をかけられたと受け取られる。北区と西区は封蝋郵便、南区はリッタ、王室御用の七軒には祭礼局を通さず私が受付へ預けた。渡し方も回答率へ影響するため、封筒の右下へ小さく配布経路の記号を付けた。


 ライナルト様の名も、依頼文から外した。王家の後援があれば開く帳面は増えるだろうが、それは自由な照会への返事とは別の数字になる。代わりに、調査責任者として私の名と三級資格番号を明記した。無資格者と同じだと退けられる覚悟をした上で、持っている資格まで小さくは書かなかった。


 照会を出してから、返事を待つ三十日にも仕事はあった。灰色外套は祭礼後、三日、七日、十四日と点検し、波形の縁に残る色を比べた。ライナルト様は一日二刻を上限に着用し、熱を感じた場所と時間を自分で記している。十四日目まで焼損はなく、右脇にも背にも偏りは出なかった。


 新聞の記事を見て診断へ来る客は増えたが、「王弟殿下のものと同じ外套」を求めた者には断った。一人の魔力と寸法にしか合わないことを説明すると、半数は失望し、残る半数は自分に合わせて測ってほしいと依頼した。私たちが渡すべきなのは、灰色の答えよりも、一人ずつ誂える手順なのだと少しずつ分かった。


 ある婦人は、背に同じ菱形があれば娘の婚礼で話題になると、銀貨を倍出すと言った。私は試験布を見せ、あの二十一口はライナルト様の背幅と流入量から割り出した数で、娘の衣へ付ければ不要な切れ目になると説明する。婦人は「飾りとしてなら」と譲らなかったが、働かない線を働くように見せることは、術式衣では装飾ではなく虚偽になる。


 一方、荷運び人の男は、片腕を上げると仕事着の脇が熱くなると持ち込んだ。出口の数は足りており、古い修繕糸が流路を横切ったことが熱の原因だった。修繕をほどき、術式を避けて当て布を置くと、灰色外套とはまるで違う方法で直った。同じものを売らず、一人ずつ違う原因を見つける。それが祭礼後に増えた注文へ、私たちが返せる唯一の答えだった。


 最初の返書は、照会から五日目に届いた。フォス工房からで、工房名の公開にも同意するとある。試着者の名は伏せられ、年ごとの数と焼損だけが、古い帳面から正確に写されていた。


 フォスは、数字の横に帳面の欠けも記していた。十七年前の冬は水害で二頁を失い、試着者数は少なくとも三人だが上限が分からない。焼損零と書けば清潔に見える年を、「不明」とする方を選んだのだ。私は返書の数へは一通と数え、集計できる年数は十九年とした。


 二通目には、試着者八人、延べ四十三着、焼損二件とあったが、報酬欄が「工房規定」としかない。問い合わせを返すと、親方は額を出せば安い労働だと非難されると答えた。私は非難しないとは約束せず、数字をどう使うかと匿名化の手順だけをもう一度説明した。三日後、銅貨の額が追記されて戻った。


 二通目は無記名を条件にした回答、三通目は「当工房に焼損なし」の一行だけだった。焼損がないのに着用数を書かない返事は、分母を持たないので集計には使えない。私は不備として捨てず、そのまま別綴りへ入れた。


 三十日の期限までに届いたのは十七通だった。すべての項目へ答えたのは四軒、人数と焼損だけが九軒、帳面がないという回答が四軒。何も返さなかった工房は四十九軒である。


「十七通も来た、では駄目なんですよね」


「来た十七通と、来なかった四十九軒を、同じ大きさで書きます」


 私は壁へ二枚の紙を貼った。左へ回答十七、右へ無回答四十九。返ってきた数字だけを正義の味方にすると、答えなかった側の事情も、黙ったという選択も消える。


 その日の夕方、ライナルト様が直し屋へ来た。灰色外套を着ているので、ミナは作業台を離れずに済む。以前なら入口から十二歩の場所へ椅子を出していたが、今は同じ卓の端へ座れる。


「王家の名で、回答を命じることができる」


 彼は二枚の集計を見てから申し出た。その口調には、命令を使わない方がよいと最初から決めつけず、使った場合に得るものまで考えた跡があった。


「命じれば、四十九軒から何かは届くと思います。ただ、断った工房の考えは消えます」


「拒否した事実より、数字が必要ではないのか」


「両方必要です。命令のあとに届いた帳面は、危険を認めたから出したのか、王家が怖いから出したのか、区別できません」


「だが、そこに書かれた火傷の数は変わらない」


「変わりません。ですから、あなたの命令で集めた別の調査としてなら使えます。私の照会への回答に混ぜないでください」


 彼は少し考え、「今は命じない」と言った。永久に権力を使わないという立派な誓いまで掲げず、この調査の形を守るため、今は待つという限定された選択だった。


「何日までを、今とする」


「まずは期限後七日です。遅配と、帳面を探す時間を待ちます。その後、回答率と欠けを公表してから、王家が別の調査をするか決めてください」


「その時は、あなたの調査を上書きしない」


 私は、王命による第二調査には別の封筒、別の表題、別の集計を使う条件を紙へ足した。彼は卓の向こうから身を寄せ、私の書いた行を読む。灰色外套の襟が手の届く場所にあったが、祭礼前のように折れてはいない。私は布へ触れず、代わりに彼へ筆を渡した。


 同じ卓へ座れるようになったことを、仕事が早くなったとだけ考えようとした。けれど、以前なら声を張らなければ届かなかった相談を、今は紙一枚の上でできる。距離が縮まった結果を、襟に触れた一度だけへ閉じ込めないことが、かえってその一度を大切にしているように思えた。


「助かりました」


 その言葉が口から出て、私の方が驚いた。これまでは、助けられれば借りになると思い、断ることばかり考えていた。彼が何もしないと決めたことで私の仕事が守られたのなら、礼を言っても手を奪われるわけではない。


「何もしないことへ礼を言われたのは初めてだ」


「難しいことをしていただきましたので」


 ライナルト様は、返事のない四十九軒の紙を長く見ていた。その横顔が穏やかだったので、私は自分の言葉を取り消さずに済んだ。


 閉店間際、リッタが最後の配達袋を持って戻った。南区の工房から預かったという封筒には、回答用紙の代わりに、組合印のある通達の写しが入っていた。送り主は名を書かず、「捨てるつもりが、間違えて同封したことにしてください」とだけ添えている。


 通達は、私たちの照会から七日後の日付だった。


 ――試着記録は業界の信用および顧客の婚姻に関わるため、外部の無資格な調査者へ提供しないこと。既に回答した工房は、組合へ控えを提出すること。


 紙には折り跡が三本あり、一度掲示板へ留めた針穴も残っていた。写しではあるが、組合印の縁と日付は明瞭で、六十六軒へ一斉に出された書式と見てよい。私は素手で触れた箇所を余白へ記し、ミナ、リッタにも届いたときの状態を順に話してもらった。誰が封筒へ入れたかを追わない代わりに、紙が私たちの手へ来てからの経路だけは残す。


「これをすぐ新聞へ渡せば、明日の一面ですよ」とリッタが言った。


「一面にする前に、原本が同じかをボーデへ確かめます。違えば訂正しますし、同じでも、通達を出した理由を聞きます」


 隠された紙を得ると、こちらだけが真実を持ったような気持ちになる。その勢いで敵の名を大きく書けば、匿名で送った人を守るための慎重さも失う。私は封筒を新しい薄紙へ包み、受領時刻と保管場所を記して鍵箱へ入れた。


 私は差出人のない紙を、回答十七通の外へ置いた。四十九軒がそれぞれ考えて黙ったのではない。黙るよう伝える声が、私の照会より先に届いていた。


「組合長へ伺いますか」とミナが訊いた。


「伺います。ただし、この紙を誰が送ったかは訊きません」


 通達の下へ受領日だけを書き、差出人欄は空白のまま綴じた。答えなかった人の考えを消さないためには、答えたくない人の名も守らなければならなかった。


 翌朝ボーデへ持ち込むのは、勝敗をつけるためではない。十七通しかない調査を、四十九の沈黙ごと開くためだった。私は鍵箱の鍵をケルナーへ預け、自分一人の怒りで夜のうちに紙を持ち出せないようにした。


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