第20話 焼ける人が一人減る
翌日の午後、フローリアとユリアンは、二人だけで書いた覚え書きを持って店へ来た。第一に、現在の欠けた術式衣装は使わない。第二に、安全な誓文衣装が用意できるまで法的婚姻を延期する。第三に、春分の日には無術式の白衣装で、互いに共同生活を選ぶ式を行う。紙の下には二人の署名が並び、その間に父親や家令の承認欄はなかった。
「無術式なら、婚姻にはなりません」と私は念を押した。「妻としての相続権も、夫としての代理権も発生しません。子が生まれた場合の扱いも、別に取り決めが要ります」
「分かっている」とユリアンは答えた。「だから、私たちの同居を始める式だと公に言い、家の婚礼契約と明確に分ける。正式婚姻は、安全な方法ができてから二人で申し込む」
「世間はフローリア様だけが待たされたと言うでしょう」とミナが帳簿から顔を上げた。
「言わせておけばいい、とは言えないわね」とフローリアは、自分の衣装の見積もりを読みながら言った。「私は傷つくし、ユリアンも家に背いた息子と呼ばれる。でも、誰かを焼いて、光る裾を見せるよりは、自分たちで引き受けられる傷です」
リッタには、試着係の経験者へ聞き取りを行い、年齢、着た回数、報酬、火傷の有無を匿名で記録する仕事を依頼した。一人につき銀貨一枚、移動費と筆記具は別、最初の十八件を終えれば銀貨十八枚となる。読み書きに不安があると言うので、質問票は印を付ける欄と、本人の言葉をそのまま書く欄へ分け、最初の三件にはミナが同行することにした。
「一日で十八人、回ってきます」とリッタは勢い込んだ。
「一人に話を聞く時間を四半刻、移動を入れれば無理です。急がせる賃金にはしません」と私は答えた。
「でも、父の薬が」
ユリアンは前金として銀貨六枚を差し出した。質問票作成と三件分の着手金として契約書へ明記し、リッタ本人の署名、父親の同意、発注者二人の署名を揃える。残りは六件ごとの納品払いとし、聞き取りを拒まれた訪問も、訪問記録があれば半額を払うことにした。
「これで、全部は変わりません」とフローリアが言った。
「はい。この春に仮縫いされる衣装は、ほかにもあります」
「完全ではないわ。でも、焼ける人が一人減ります」
その一人を小さいと数えないこと、同時に一人を救ったことで制度全体を直した顔をしないこと。その両方を、妹は私より先に言葉にした。リッタは契約書の写しと銀貨を内ポケットへ入れ、四着目の試着契約については、工房主の前で自分から辞退すると決めた。
辞退の書面はリッタが口述し、ミナが代筆した。理由欄には恐怖だけを置かず、『危険の説明が契約後であり、避難位置も決められていなかったため』と具体的に残す。工房主は自分の名誉を傷つける文だと渋ったものの、試着台の移動と補助者の配置を先に行えば、次の契約に役立つと認め、受領印を押した。リッタが仕事を一つ断っただけで、工房の床にあった裁断机が動き、水桶は三歩近くなった。
衣装を注文する前に、二人は市の書記官を店へ呼び、法的婚姻なしで暮らすための契約を作った。家賃は収入の比率で負担するが、住居の名義は共同とし、どちらかが病気になったときの医療同意、共有品と個人財産の区別、同居を終える際の退去期限まで書く。恋人同士が春分の日に読み上げるには不似合いな文ばかりで、だからこそ、二人の熱が冷めた日にも働く紙になった。
フローリアは持参財の全額を共同資金へ入れる案を出し、ユリアンが止めた。彼女は、自分だけ逃げ道を多く持つのは不公平だと言う。書記官は、同額に見せるため弱い側の財産を差し出すことが公平とは限らないと説明し、互いの個人財産を残した上で、毎月同額を生活箱へ入れる方式を提案した。
「お姉様は、どうしていたの」と妹に訊かれ、私はハーロウ家で自分名義の財布を持たず、衣装用の小口金だけを預かっていたと答えた。愛されなかったことより先に、出ていく日の馬車代さえ自分で決められなかった。その事実を聞いた二人は、別離のための銀貨十枚を、それぞれ封をしたまま別の箱へ置く条項を加えた。
「別れる準備ばかりして、縁起が悪いと言われるでしょうね」とフローリアが言う。
「縁起で家賃は払えません」と私は答えた。「準備があるから、出ていかずに話し合える日もあります」
白衣装の注文は、フローリアとユリアンが同額ずつ銀貨六枚を出した。術式金糸を使わないぶん材料は安いが、三百人の前で着る礼装として、生地と裁ちは粗末にできない。私は三級資格の範囲を使わず、通常の仕立てとして受けることを説明し、ケルナーの店名で契約した。
銀貨六枚ずつを別の袋で受け取り、半額ずつ負担した事実と、片方が途中で衣装を要らないと判断した場合に返す未使用分を明瞭にした。材料費と工賃も二人の帳簿へ等しく割り、領収書も二通作る。共同で選ぶには、すべてを一つの財布へ混ぜず、どちらの支払いと責任も読める形が要る。二枚の領収番号は連番にし、片方だけ抜かれれば分かるよう控えへ赤糸を通した。
フローリアには乳白色の絹を選び、近くで見たときだけ花弁が分かる同色の織柄を裾へ置く。経糸に艶の異なる二種を使い、光の術式に頼らず、歩くたび布の陰影が変わる仕立てにした。ユリアンの上衣は同じ布を襟と袖口へ少量だけ配し、二人が並べば一着に見えず、別々の衣装が互いを選んでいると分かる形にする。
「裾は、閉じないままですか」とフローリアが尋ねた。
「術式の輪は作りません。ただ、衣服として裾がほどけては困るので、通常糸できちんと始末します」
「言い方が職人ね。私は少し感傷的な意味で訊いたのよ」
「感傷で歩けば転びます」
妹が呆れた顔をし、ユリアンが笑った。三人で布を肩へ当て、顔映りを確かめる。フローリアは真白より、ほんの少し黄みのある乳白が似合った。白は純潔や服従の意味を勝手に背負わされる色だが、彼女の肌の色から選べば、それはただ一人に似合う白になる。
採寸を始めたところで、コルヴィス侯爵家の家令が六人の従者を連れて現れた。ユリアンの父からの命令書を差し出し、婚姻でない式を侯爵家の名で行うことは家門への侮辱であり、春分の催しを中止するよう告げる。さらに、すでに配られた招待状を回収し、フローリアを実家へ戻す馬車まで用意していた。
「私はまだコルヴィス家の当主ではない」とユリアンは命令書を読み終えて言った。「だから父には、家の祝宴へ金を出さない権利がある。家名を使わせない権利もある」
家令が安堵しかけたとき、彼は自分の上衣から侯爵家の紋章釦を外した。
「式は私個人の名で行う。会場には市の広場を借り、家の礼拝堂は使わない。招待状は訂正して送り直す」
「若様、継承権を危うくなさいます」
「継ぐために、最初から伴侶の選択を家へ渡すなら、何を継ぐかまで父に決められたままだ」
フローリアも、ノルデン家の紋を衣装へ入れないと決めた。二人は両家から放逐される悲劇に酔う暇を捨て、住居費、彼女の持参財の保全、ユリアンの職務収入、病気になったときの代理人まで、覚え書きに追加していく。恋を証明するため貧しくなる必要はないが、家の庇護を断るなら、翌月の薪代を誰が払うかを数えなければならない。
家令が帰ったあと、外した紋章釦が作業台に残った。金でできた重い釦を見て、私はユリアンへ返そうとしたが、彼は売らずに保管してほしいと言った。
「父と縁を切ったわけではありません。いつか話し合えるなら、そのとき自分で付け直します」
私は釦を柔らかな布で包み、依頼品の箱へ入れた。切ることより、外したものを失わず預かるほうが難しい場合もある。春分までの納期は四十二日。三百人の前で光らない衣装を着る二人のため、まず仮縫いを必要としない木綿の試作から裁つことにした。
木綿の試作は、二人に別々の日で着てもらった。フローリアは一人で歩くと裾を右へ払う癖があり、ユリアンは考えごとをすると左肩をわずかに下げる。二人を並べた美しい立ち姿だけ採寸していれば、暮らし始めた翌日には窮屈になる型だった。私はそれぞれの癖を直さず、その動きで皺が寄らない場所へ縫い代を配った。
次の試着では、二人に言い争いをしたあとの距離で立ってもらった。フローリアは「そんな採寸があります?」と呆れたが、常に腕を組む前提で袖を作れば、離れて歩く日に布が余る。並ぶ日と離れる日、どちらにも衣装が相手を引き寄せない幅を選ぶと、白い試作の間には半歩の空間が残った。それを失敗とせず、二人は自分から一歩ずつ近づいた。
その半歩も採寸票へ記した。婚礼の日の密着だけを美しさにせず、近づくのも離れるのも、自分の足でできる衣装にする。二人の白衣装は共同で選び始める日の仕事であり、誓文の代用品にはしないと注文書へ書き直した。




