第19話 魔力熱を通す娘
フローリアは、婚礼衣装の危険を説明する私の手袋から目を離さなかった。金糸へ魔力を流すとき、完成品なら術式が布の中で閉じるが、仮縫いでは縫い目の深さも逃がし口も確定していない。着た身体を通して流れを試すため、熱は必ず肌へ触れ、漏れが大きいおよそ一割では火傷になる。そこまで話したところで、私は右の袖口を外し、肩から腕へ残る古い痕を見せた。
白く盛り上がった線、薄茶色に沈んだ斑、紋の周りへ細かく走る硬い皮膚。幼い頃に着せられた三十四着は、熱の深さが一着ごとに異なり、治りかけた場所へ次の熱が重なったため、輪郭は布の柄のように入り混じっている。
「八歳から十四歳まで、仮縫いの試着をしました。衣装を着るたび魔力熱は通ります。私は布の流れを読めたので、ほかの子より多く呼ばれました」
ユリアンは痕へ顔を近づけず、私の目へ視線を置いたまま尋ねた。
「断ることはできたのですか」
「家では、役に立つ仕事だと言われました。代わりの子もいると知っていましたから、私が断れば、その子が焼けるのだと思っていました」
「実際に、代わりはいた?」
「いました。だから、私が引き受けたことは無意味ではありません。ただし、それを子供へ選ばせてよかった理由にはなりません」
フローリアは椅子の上で、淡い手袋の指を強く組んだ。彼女は五歳の頃、私が熱で寝込んでいる部屋の前まで来たことがある。母に追い返された小さな靴音を、私は寝台の中で聞いていた。
「私、お姉様だけ昼まで寝ていてずるいと思っていた」
「そうでしょうね。あなたは朝の礼法の稽古へ行かされていました」
「違うの。最初は心配したわ。でも、誰も何があったか教えてくれなくて、お姉様は役目を果たしたから休んでいると言われた。だから、その役目を持っているお姉様が羨ましいことにしたのよ。そうすれば、次は私かもしれないと怖がらずに済んだから」
謝罪の言葉を探すように妹の唇が動いたので、私は先に衣装の写しを彼女の前へ戻した。
「昔の気持ちを、いま綺麗に直さなくて構いません。婚礼をどうするかは、その告白への罰にも償いにもしないでください」
「分かっている。だから、本人へ会うの」
フローリアは涙を拭かず、滲んだ目でユリアンを見た。彼は頷き、予定されている試着係の契約書を一緒に確認したいと言う。知らずに選ぶことも、二人の家に選ばせることもしたくない。その言葉には、婚約者を守る美しい役を自分だけが引き受けようとする響きがなかった。
衣装を仕立てる予定の工房へ連絡すると、試着係は南区の靴屋の娘、リッタ・ベルクマン、十四歳だと分かった。契約者は父親で、報酬は銀貨十八枚。その日の午後、本人が仕事の説明を受けに来るというので、私たち三人は工房主の許可を得て同席した。
リッタは大人用の古い外套を詰めて着ていた。袖口は三度折られ、肩が落ちている。靴だけはよく手入れされた焦茶色で、細い足にぴたりと合っていた。自分で作ったのかと訊くと、父が裁ち、彼女が底を縫ったという。
工房に用意されていた仮縫い台は、大人の肩幅に合わせた高さで、リッタが乗るための踏み台が置かれていた。熱が上がったとき掴む横木には古い指跡が黒く残り、水桶は三歩離れた壁際にある。私は避難の動作を実際に試してもらい、長い婚礼裾を着たままでは、踏み台から下りて桶へ届くまで九歩かかると測った。
「補助者が脱がせます」と工房主は言った。
「どこに立ちますか。金糸へ触れず、背中の留め具を外すには右後ろです。そこは裁断机で塞がれています」
机を動かせば済む不備である。しかし、三着を経験したリッタさえ、それを危険だとは数えていなかった。火傷が起きれば自分が我慢できなかったせい、早く脱げなければ動きが鈍かったせいだと思わされる配置だったからだ。
「今度で何着目ですか」
「四着目です。前の三着は、たいしたことありませんでした」
「たいしたこととは、どの程度ですか」
彼女は工房主の顔を見た。主人は、安全な仕事しかさせていないと先に答えようとしたが、私は質問した相手の返事を待った。
「一着目は熱いだけ。二着目は脇が赤くなって、薬を塗れば三日で引きました。三着目は背中に水疱ができたけど、見えないところです」
「今回、約一割で火傷になると聞いていましたか」
「十着に一着なら、私は三着済んだから、あと七着は平気だと父が」
「そういう数え方ではありません。着るたびに危険はあります。前に焼けなかったことは、次が安全だという意味になりません」
工房主は、怖がらせれば契約妨害になると咎めた。私は三級の登録証を示し、診断の場で危険を正確に伝えるのは規定上の義務だと答えた。フローリアもユリアンも口を挟まず、リッタが何を尋ねるかを待っていた。
「焼けたら、銀貨は増えますか」
「契約書には増額の記載がありません」
「途中で脱いだら」
「半額とあります。ただし、熱が通り始めてから一人で脱ぐのは難しいので、補助者の位置と合図を決めるべきです」
「お嬢様たちは、あたしにやめてほしいんですか」
フローリアはすぐ答えず、自分の白い手袋を外した。火傷も針傷もない掌を、作業台の上へ向ける。
「やめてほしいと思っている。でも、それを言って、あなたの銀貨十八枚がなくなったあとのことを、私は何も知らない。だから、先に聞きたいの」
「父の肺の薬と、冬の薪を買います。靴屋は今年、革が高くて。十八枚あれば、妹も学校をやめずに済む」
「大人を使わず、あなたを選ぶ理由は何ですか」とユリアンが訊いた。
「あたしの肩なら、どの花嫁の衣装にも入るから。それに大人は、十八枚じゃ着ません」
工房主は、子供の魔力は弱く術式を乱しにくいという説明を足したが、私は過去の検査記録を求めた。そこには成人と子供の成功率を比べた数字がなく、ただ小柄、安価、保護者の同意を得やすいという実務上の利点だけが書かれていた。技術上の必然はない。拒みにくく、賃金が低い身体を、工房の都合で選んでいる。
「あたしが上手だからじゃないんですか」
「あなたには経験があります。熱が来る位置を覚え、立ったまま耐えられる。それは技術です。ただ、その技術が必要になった理由と、子供を選ぶ理由は別に数えましょう」
リッタは自分の靴先を見た。誇りを奪わずに搾取を告げる言葉を、私はまだうまく持っていない。三十四着を着た自分の感覚が仕事に役立っていることも、そのために焼かれてよかったとは言えないことも、同時に本当だった。
リッタをこの工房から連れ出すだけなら、フローリアの財布でできる。しかし今日だけ十八枚を渡せば、次の婚礼では別の娘が呼ばれ、その子の事情は誰にも聞かれない。私が子供の頃に続けた理由と同じ構造を、善意で一つ横へずらすだけになる。
「この衣装を着なくても、十八枚を得られる仕事を考えます」とユリアンが言った。「私たちに必要な調査を、報酬のある仕事として頼みたい。ただし、あなたが受けるかどうかは内容と賃金を聞いてから決めてください」
リッタは疑うように彼を見たあと、私へ目を戻した。貴族の若者より、同じ痕を持つかもしれない私の答えを測っているらしい。
「四着目を着ないと、臆病だと言われませんか」
「言う人はいるでしょう。私も、怖くなかったから三十四着を着たのではありません。怖さを隠せることと、仕事が安全であることは別です」
私は自分の痕を袖で覆わなかった。リッタは背中の水疱が治ったら、ほかの試着係へ話を聞く仕事の内容を教えてほしいと言った。契約をその場で破らず、工房主と父を交えて支払い条件を作り直すことにする。選ぶまでの時間も有給とし、今日の説明に銀貨一枚を支払った。
帰り道、フローリアは私の肩へ触れようとして、袖の手前で指を止めた。慰めのために痕を撫でる権利まで、姉妹なら自動的にあるわけではないと気づいたのだろう。私はその手を取らず、拒みもせず、「冷えますから、手袋を」と言った。
「お姉様、私たち、婚礼をやめるのかしら」
「私に決めさせないでください」
「そう言うと思った。今夜、ユリアンと二人で決めるわ。お父様たちには預けない」
妹は手袋を嵌め直し、婚約者と並んで歩いた。二人の間にはまだ答えがなかったが、少なくとも、熱を通す娘の身体を答えの外へ置いたまま選ぶことだけは、もうできなくなっていた。
私は工房に残り、動かした裁断机の脚へ革を噛ませ、水桶から試着台までの床へ白線を引いた。リッタが今回の仕事を受けるかどうかとは別に、次に誰かが立つなら避難路を塞がないためである。工房主は余計な口出しだと不満を言いながら、自分で桶へ新しい水を満たした。補助者の立ち位置にも小さな四角を描き、衣装の裾が白線を越えた場合は作業を始めないと記録へ加える。一人の選択を待つ時間にも、直せる床の配置はあった。




