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「愛することはない」と言った旦那様と離婚して、王都一の魔導衣装師になりました  作者: 星舟能空


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第18話 一家の問題ではない

 フローリアへ返事を書く前に、私は同封された型紙が本当にハーロウ家から出たものかを確かめた。蔦の飾りはよく似ているが、紙の透かしは王都東区のメルツ商会のもので、作成印も四十年前の起草師になっている。ハーロウ家と血縁も取引もない商家が新たに起こした型紙に、やはり第十二条はなかった。


 午前中、メルツ商会の現当主を訪ねると、彼は古い仕入帳を三冊出した。四十年前、誓約庁で公開されていた第五次標準型を正規に購入し、商家向けに飾りだけを簡素化したという。家伝の誤写でも、ハーロウ家の悪意でもない。標準そのものが欠けていたから、正しく学び、正しく写した人ほど、欠けた型を広く配ったのだ。


「娘の婚礼にも使ったし、息子にも使わせた」と当主は言った。「二人とも二十年以上連れ添っている。いまさら、誤りだと紙に書かれるのか」


「誤りの種類を調べています。暮らした年月まで無かったことにする診断はしません」


「では、何が変わる」


「次に同じ型を使う方が、足りない一条を知って選べます。あなたのお子様方についても、衣装と意思を別々に確かめられます」


 当主はすぐには委任状へ署名しなかった。娘が夫の家で商いを続けていること、息子の妻が家業を辞めて子を育てたことを話し、同じ欠落でも二人には異なる意味があると自分で気づいたらしい。翌日まで考えると言うので、私は期限を書かず書類を置いた。


 翌朝、委任状は署名されずに戻った。その代わり、娘と息子の妻へそれぞれ型紙の写しを送り、本人たちが調査を望むなら改めて委任する、と当主自身の手で書かれていた。私が一家の代表から許可を得れば早いが、それではまた、衣装を着た者の意思が家長の印の下へ隠れる。調査が二日遅れる代わり、二人へ直接選択が届く返事だった。


 三日後、娘からは調べてほしいという印、息子の妻からは今は夫にも実家にも知らせたくないという返答が来た。私は前者だけを調査対象へ加え、後者の紙は封をして本人へ返した。標準型紙の欠落を証明するためなら、拒む人の資料も数へ入れたくなる。けれど、制度を正す証拠として一人の生活を無断で開けば、第十二条の言葉を使いながら、その人の手を取り上げることになる。


 メルツ商会の当主は、二つの違う返事を見て、同じ家の問題として処理できないと認めた。原型を買った記録と作成印だけは公開し、子供たちの暮らしについては本人の許可がある範囲に限る。その線引きを委任状へ書き足したことで、私たちが確認できるのは、ハーロウ家以外にも標準型から欠落が広がった事実までとなった。


 店へ戻り、妹への便箋を三枚並べた。一枚目には安全上の事実、二枚目には費用と日程、三枚目には選べる方法を書く。以前の私は、相手が傷つく情報を伏せ、その代わりに自分の手を差し出した。知らなければ怖がらずに済むと思っていたが、知らないまま選ばされた人は、のちに何を失ったかさえ自分で名づけられない。


『あなたの婚礼衣装には、本来あるべき第十二条がありません。私の衣装と同じです。裾が閉環しない可能性があります』


 次に、正規の修補は二級以上の衣装師へ依頼し、仮縫いで一度生きた魔力を通す必要があること、その際に熱が生じ、約一割の着用者が火傷を負うことを書く。衣装師の手数料、金糸、仮縫い役の報酬を含めれば、最低でも銀貨四十二枚。春分までの二月で仕上げるなら、工房の空きを押さえなければならない。


 方法は三つ示した。第十二条を足して術式衣装を完成させる、式を延期して調査を待つ、術式を使わない衣装で別の形の式を行う。ただし最後の方法では、現行法上の婚姻は成立しない。どれを勧めるとも書かなかった。


 正規に修補する場合の見本として、私は麻布へ第十二条の流路だけを縫った。金糸の代わりに色糸を使う説明図なので、衣装へ魔力は通さない。第七条から一方へ流れる赤、その対価として手と仕事を守り、力を戻す青。二本が裾で会っても、着る二人が意味を知らなければ輪は閉じない。フローリアへ『一行を足せば安全』とだけ読ませないため、試着の熱、二人の理解、衣装師の資格が揃って初めて修補になると余白へ書いた。


 無術式を選ぶ場合には、式を行っても法的な相続、代理、扶養の権利が自動では生じない。私は法官ではないので断定できる範囲を区切り、生活契約については独立した書記官へ相談するよう連絡先を添えた。選択肢を並べるだけなら簡単だが、どれかを選んだあとに開く穴まで知らせなければ、別の欠落を美しい布で隠すことになる。


『返事をしなくても構いません。決める前に、あなたとユリアン様で読んでください。父上へ見せるかどうかも、二人で決めてください』


 書き終えてから、私は『心配させてごめんなさい』と足しかけ、その一文を消した。知らせることを謝れば、妹は私を安心させるために急いで答えるかもしれない。情報を渡す以上、受け取った人が私の望まない選択をする時間まで渡さなければならなかった。


 ミナに読んでもらうと、彼女は銀貨四十二枚の内訳へ、試着係の報酬が銀貨十八枚とある箇所を指した。


「こんなに高いのですか。私の半年分に近いですよ」


「危険がある仕事ですから」


「危険だから高いなら、する人を選べるはずですね。どこで募集するんでしょう」


 私は答えられなかった。ハーロウ家では、仮縫いの日になると小柄な娘が裏口から連れてこられ、仕立て台の奥で衣装を着せられた。報酬の話を本人から聞いたことはなく、痛みを抑える薬と、帰りの馬車だけが用意されていた。私は衣装の不具合を読むことに集中し、その娘がなぜ来たかを訊かなかった。


「依頼先の工房へ、本人の年齢と契約も照会します」


「妹さんの返事を待ってからでは?」


「そうですね」


 すぐ調べようとした自分の手を、便箋の上で止めた。フローリアへ選択を渡すと言いながら、先回りして道を整えれば、結局は私が望む答えへ導くことになる。封をして使いを出し、その日の残りは、メルツ商会の型紙とゾンネの控えを年代順に照合した。


 翌朝、開店前の戸を叩く音がした。ミナが閂を外すと、薄桃色の外套を着たフローリアと、濃緑の旅行着姿のユリアンが立っている。妹は辻馬車で来たらしく、父の馬車なら付かないはずの泥が上等な靴の踵へ跳ねていた。


「返事をしなくてもいいと書いてあったから、来たの」


「それは、返事ではありませんか」


「お姉様は、昔からそういうところがあるわ。答えを三つ並べて、どれも選ばなくていいと言えば、自分は何も望んでいない顔ができるのね」


 思いがけず正確に刺され、私は二人を店へ招いた。ユリアンは帽子を取り、婚約者の代わりに挨拶することも、彼女の言葉を宥めることもしなかった。


「私たちは、説明を一緒に聞きたい」と彼は言った。「そして、衣装を着て熱を通す方にも会いたい。私たち二人だけで危険を選ぶ話ではないでしょう」


 私は机に、三枚の便箋と同じ順で資料を広げた。何も言わずに守ることをやめた結果、妹は怯えながらも私の書き方の欠点を見つけ、ここへ来た。一家だけの型紙ではないと分かった日に、問題を解く席も姉一人から三人の場所へ広がった。空いた四脚目には、まだ会っていない試着係のため、資料の写しを一組置いた。


 説明には午前いっぱいを使った。フローリアは費用の欄で、自分の持参財から払える額を確かめ、ユリアンは婚姻延期の場合に両家が負う違約金を一覧にした。二人は同じ結論へ急いで頷かず、一方が質問している間、もう一方は答えを代わりに言わない。姉である私が割り込んだのは、妹が『私のためなら試着係も納得するはず』と言ったときだけだった。


「報酬を受け取ったことと、危険を望んだことは同じではありません。会うなら、感謝される役を期待しないでください」


 フローリアは顔を赤くしたが、言い訳をせず、その一文を自分の覚え書きへ書いた。ユリアンも、侯爵家が費用を払うから正当だと思っていたと認める。二人が共同で選べる力は、生来の立派さより、互いの不格好な考えを相手の前へ出し、直す時間から育つのだろう。


 昼になると、私は乳白、青白、生成りの三枚の布を窓辺へ吊した。術式衣装を直す場合、無術式で仕立てる場合、式そのものを延期する場合を色で決めるためではない。布を前にすると、抽象的な制度が、春分の日に何を着て、誰の前へ立つかという身体の問題へ戻る。フローリアはどれにも触れず、まず試着係に会うと決めた。


 三枚はそのまま一晩、店へ残した。翌朝、乳白の布だけが朝日に柔らかく透け、青白は硬く、生成りは肌へ近すぎる色に見えた。選択は色の印象で決めないとしても、どの道を選べば自分の身体がどう見えるかまで確かめる時間を、妹へ渡しておきたかった。


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