第15話 私の作業台
合否通知は、朝一番の配達より遅く、昼の客より早い時刻に届いた。誓約庁の封を見つけたミナは、店の戸口から裁断台まで六歩を駆け、途中の椅子へ腰をぶつけたが、封筒を落とさなかった。私は預かっていた子供用外套の釦を付け終え、糸を切ってから受け取った。
『受験番号二十七。三級衣装師試験、合格』
その下には実技講評が一行だけあり、『次に触る者が助かる。この答案に礼を言う』と記されていた。点数はなかった。壊れていないので縫わずに残した空白まで仕事として読まれたのだと知った途端、右手が封筒の端を強く掴み、紙へ爪の跡をつけてしまった。
「師匠、笑うか泣くか、どちらかにしてください。両方を我慢すると怖い顔です」
「まだ登録が済んでいません」
「では、登録したら二つともなさいます?」
「たぶん、帳簿をつけます」
ケルナーは奥の台で、私たちのやり取りを聞きながら、古い針箱を磨いていた。蓋の角が丸くなった胡桃材の箱で、内側には太さごとに六列の溝がある。私が雇われた日から一度も開けたところを見なかったが、彼は中に残る針を一本ずつ白布へ並べ、錆のある二本を除いた。
「三級が使うには古すぎませんか」
「針に級はない。持ち主にはあったが、今はない」
「お借りしてよいのですか」
「貸すだけだ。自分で買える仕事をしたら返せ」
箱の蓋裏には、薄く削れた文字でケルナーの名と一級の登録番号が刻まれていた。資格を失ったあとも削り落とさず、見せびらかしもせず、抽斗の奥にしまっていたのだろう。私は両手で受け取り、最初に自分の名を足したくなる気持ちを抑えた。借りた道具への刻名は、仕事の記録より占有の主張に近い。
登録を終えると、店の看板へ新しい小札を掛けた。『術式診断・軽微修補 ヴェレナ・ノルデン(三級)』。木へ一字ずつ彫ったのは近所の看板屋で、代金は銀貨一枚と銅貨四枚、取り付けはミナが脚立へ乗って行った。少し右上がりになったので私が指摘すると、彼女は「客は級を見るので、水平を測りには来ません」と言いながら、結局三度直した。
登録窓口では、術式を扱える範囲と禁止事項を読み上げられた。三級が新規の閉環術式を起草すること、既存術式の主条項を追加すること、王家の礼装へ触れることはできない。軽微修補は全体の二十分の一までで、作業前後の流量を記録し、依頼人へ写しを渡す。七十着へ無資格で針を入れた私には、禁止が自分を狭める鎖には見えず、どこから先を他人へ渡すべきか示す裁ち線になった。
登録料を払うと、手元の銀貨は三枚だけになった。ミナの給金と宿代を引けば、新しい針を買う余裕はない。合格の喜びがそのまま暮らしを軽くしてくれるわけではないが、だからこそ、ケルナーから借りた針箱の価値を、美しい贈り物という曖昧な言葉へ逃がさずに済んだ。これは次の仕事を始め、代金を得て、自分の道具を買うまでの信用である。
三年間、私はハーロウ家の衣装蔵で、誰にも知られず、値段も責任の所在もない縫い方をしていた。直した衣装が褒められれば家の管理がよいことになり、何か起きれば、伯爵夫人が勝手に触ったと処理された。今日からは診断書に自分の名が残り、料金を受け取り、三級の範囲を越えれば断った記録まで私の仕事になる。
作業台も一つ与えられた。店の北窓に近い、小さな矩形の台で、片側には長年の刃傷が走っている。ケルナーは朝、積んであった端切れを黙って別へ移しただけだったが、ミナは白墨で台の側面へ『ヴェレナ』と書いた。
「消してください」
「どうしてです? 師匠の台ですよ」
「店の持ち物です。それに、白墨は黒い生地へ移ります」
「では、紙を貼ります」
「糊が湿気を吸います」
言い合った末、抽斗の右端へ私の針箱を置き、明日もここへ戻って途中の仕事を続ける印とした。台に手を置くと、木目の窪みへ過去の職人が落とした藍の粉が残り、まだ何もしていない私の掌にも淡く色がついた。
最初の有料客は、洗濯屋の主人が持ち込んだ幼児用の緑の外套だった。孫が着ると左袖だけ重くなるという。診断料を先に示し、通常糸のほつれなら銅貨、術式へ触れるなら三級料金になると説明してから預かった。原因は袖口に縫い込まれた温熱糸が洗浄で縮み、流れを肘へ溜めていることだった。
外套の持ち主である四歳の少年も祖父の後ろから顔を出し、直すところを見たいと言った。私は熱を通す試験ではないことを説明し、木の腕型へ着せる役を頼んだ。子供の指は袖を乱暴に引き、祖父が叱ろうとしたが、実際に毎日着る手つきを見られるほうが役に立つ。右袖だけ先に通し、左をあとから強く引く癖が、洗浄で縮んだ糸をさらに片側へ寄せていたため、修補後の紙へ着せ方も絵で足した。
私は依頼人を台の脇へ呼び、どの糸を外し、何を残すかを見せた。以前なら早く直して驚かせることを優しさだと思っただろう。今回は、緑の裏地へ白い仕付け糸で修補箇所を囲み、料金と再診断の時期を書いた紙へ主人自身の印をもらった。ケルナーの針箱から一番細い術式針を借り、七針で温熱糸を逃がし直す。孫へ着せる前に木の腕型で試すと、左右の袖へ同じぬくもりが流れた。
「こんなに説明されると、高い仕事を頼んだ気がするな」
主人は冗談めかしたが、その手は銀貨より小さな銅貨を一枚ずつ慎重に数えた。
「高く感じたなら、次は先に値切ってください。ただし、終わったあとでは七針を三針には戻せません」
「孫の腕も、前より短くはできんしな」
代金を受け取り、帳簿の最初の行へ日付と名を書く。無料ではない一件は、ハーロウ家で直した何十着より小さな外套だったが、誰のために何をし、いくら受け取ったかが残る重さはまるで違った。
受け取った硬貨をすぐ財布へ入れず、ケルナーの台へ持っていった。店の取り分、糸代、私の賃金をどう分けるか、雇われる前に決めた比率をもう一度確認する。彼は「一件ごとに感動していたら帳簿が濡れる」と言い、銅貨のうち二枚を私へ戻した。規定どおりの賃金として戻された二枚だから、私は合格祝いの遠慮を挟まず受け取れた。
午後、王家の紋を付けない使者が一通の予約票を持ってきた。ライナルトが寄越したのは祝いの品ではなかった。冬用外套一着の正式な診断予約で、依頼人欄には彼の名、希望日時、料金は店頭規定に従うと書いてある。私は使者へ、三級で扱えない範囲なら診断だけになることを確認し、その旨を予約票の控えへ記した。
「花くらい寄越しても罰は当たりませんのに」とミナが言う。
「花は衣装を直せません」
「殿下と会う理由にはなるでしょう」
「診断予約も、会う理由です」
答えてから、手元の糸巻きを無意味に並べ直した。ミナはそれ以上追わず、予約票を私の台の端へ置いた。仕事として会えることに安堵しながら、仕事でしか会えないことをわずかに惜しんだ自分を、まだ言葉にはしなかった。
午後の空いた時間には、自分の料金表を作り直した。診断一件銀貨二枚という額は、組合の標準を土台にし、布を読む時間、記録を二通作る紙代、店の取り分、私の賃金を一つずつ足したものだ。三級で縫えないと判断した場合にも診断料は変えない。客は完成品を受け取れなくても、危険と次の依頼先を知るための仕事を買うからである。修補不要なら、その根拠と次回検分の時期を渡すところまで同じ額に含めた。
ミナは、貧しい客には払えないと指摘した。私は無料枠を作ろうとしたが、彼女はすぐに首を横へ振った。
「無料にする人を師匠一人が選んだら、頼む側は困窮まで見せなければならないでしょう。積立箱を置きませんか。余裕のある客が銅貨を足し、足りない人は名前を出さず使えるように」
その案を帳簿へ起こし、使用には私とミナの二人が印を付けることにした。慈悲を私の所有物にせず、店を使う人の間で回す仕組みなら、無料だった三年とは違う。最初の銅貨一枚は緑の外套の主人が置き、二枚目はケルナーが、何も言わず自分の賃金から入れた。
夕方、戸口の鈴が鳴り、黒い外套の男が大きな筒を二十三本抱えて入ってきた。ギルベルトだった。従者へ持たせず、自分の腕で運んだらしく、上等な袖に紙紐の跡が食い込んでいる。
「話がある」
「ご予約は」
「元夫にまで必要なのか」
「最初から夫ではありませんでした。客としてなら必要です」
彼は以前なら怒ったであろう言葉を飲み込み、二十三本の筒を床へ置かず、私が示した客用の長椅子まで運んだ。中身はハーロウ家と関わりのある二十三家の婚礼型紙で、すべてを急いで調べ、必要なら直してほしいという。
私は自分の作業台から料金表を取り、ギルベルトの前へ置いた。彼がほかの客と同じ横椅子へ座るまで待つ。二人の間を占めるのは、二十三本の未診断の仕事と、それを受けるかどうかを決める権利だった。婚礼の名残を置く余地は、もうない。




