004 神様の弱さ
とりあえず、手に入れるのと同時にSTポイントだけ速度に全振りしておいた。破邪の片手剣込みでオーガよりも速かったんだ。百も増えればより動きやすくなるだろう。
単純計算で十五回、それらがSTポイントに全振り出来れば75ずつか。速度だけを上げている今はいいけど後々で足りなくなって来そうだね。そこも視野に入れて考える必要がありそうだ。
次は……外れが多かった枠から整理しようか。
まず、黒色の神秘から……とはいえ、名ばかりの物しか落ちはしなかった。全てがポーション、一部ステータスを強力に強化するものが三つだ。白は逆に体力、魔力、そして両者を回復させるポーションの三つ。
ただ、どれも有用ではあるから、やはり阿弥陀籤の力というのは名前に見合うものだ。使えない物ですら、ここまでの質を落としてくれるのだからな。
して、次は黄色……二つはVIT限定ではあったけど10上昇させてくれるものであった。問題は残りの一つ、固有スキル【鑑定眼】だ。
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固有スキル【鑑定眼】
スキル使用時に以下の効果を受ける。
・視界内に映る真贋の判定。
・視界内に映る価値の判定。
・視界内に映る生物のステータス鑑定。
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言葉通り、有用なスキルで助かるよ。しかも、オンオフが可能なパッシブスキルで、消費魔力はゼロという徹底ぶりだ。これのおかげでポーションに関しても詳細な能力を知る事が出来た。
ただ、これを越えるのが治癒から出た二つ。
一つはMPを100上げるもので、これまた有用ではあるが、それよりも、だ。ステータスウィンドウで見た時には即座に部屋を出ようか悩むくらいには有用だと言っていい。
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固有スキル【自動回復:魔力】【0/100】
一秒間につき、十のMPを自動回復する。
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固有スキル【自動回復:体力】【0/100】
一秒間につき、十のHPを自動回復する。
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言葉通り、死にづらくなるための固有スキルだ。
しかも、レベルの表記が無いというこに経験値は書かれているという徹底ぶり。まるでポイントを振ってくれと言わんばかりの三枚舌だ。……とはいえもし、ポイントで回復量が増えるのであればデメリット無しの不死身の体だって夢では無いだろう。
ただし、この結果は嬉しい反面、すごく悩む内容でもある。外れとはいえ、スキルポイントを得ようと思えば赤を引く必要がある。でも、例えば直近の問題となってくるのは食料だ。
それを解決出来るのは……多分、ポーション関係の白とかになるだろう。最悪は水分で腹を満たして死なないようにする、とかだろうか。ただ、他の籤も良い物が落ちるとなれば……方針を定めないといけない。
「一先ずは……黄色か」
最悪でも防御力の向上、良ければ鑑定眼のような有用なスキルが手に入る。中身からして基盤を整える物が出てくるとなれば……剣とは別に鎧とかが出てきてもおかしくはないからな。
足場とかが出てくれたら天井の見えない穴すらも一っ飛び、なんて芸当が出来てもおかしくは無いだろう。いいや、それなら青色の方がいいのか。ただ、今はまだ余裕があるんだ。腹が減る前に次の一手に移るだけ。
『知っているか、アレク。ダンジョンではな、時々魔物が肉を落とすらしいぜ。何でも、その肉には魔物特有の、魔素が籠っていない最高級の美味さらしい』
『貴方が生まれた時に食べたけど、とても美味しかったわ。将来は皆でダンジョンに潜って食べたいものね』
食卓を囲んで両親が笑って話していた内容だ。
五歳の誕生日、地獄が始まる少し前に聞いた夢物語のような話ではあるけど……食べた事があるのならば嘘では無いのだろう。それなら打って付けの魔物がいるじゃないか。
「この階層の攻略……もとい、オーガの討伐か」
また、帰る理由が出来てしまったな。
今頃、帰ってこない僕を心配しているだろう。さっさと帰ってオーガの肉でも振る舞ってあげなければ憂いは晴れないはずだ。……ああ、やっぱり、死ねはしないな。
剣を抜いて握る力を強める。恐怖は無い。
先程の扉を開いて探知をした結果、一番に近くて左側の通路を真っ直ぐに進んだ先だった。オーガとは別の感覚、とはいえ、三体も居るとなれば戦うかは悩みどころか。肉を求めるのならばオーガに限定するべきだろう状況だが……。
「いやいや、他に行っても確証は無いだろ」
オーガ程度が三体となれば、今回のスキルも含めて何とかなるレベルだ。仮に他に進んで四体、五体と明確に倒せないレベルが出るよりはマシだろう。
それに前回と同じく、先手が取れるなら相手は二体だと言っていい。二対一なら早めに試しておいた方がいいからね。後々なんて、何時の話になるか分からないんだ。
とりあえず、静かに左側へと進んで剣を構える。
探知から外れた敵がいたとしても対応出来るように、そんな考えがあったけど、別に何かと遭遇する事も無く視界内に敵を映す事が出来た。
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Cランク【ハイグールLV7(ランド)】
過去に落とされた者の成れの果て。
〇スキル
【剣術LV5】【格闘術LV4】
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肉が腐り落ち、口元をあんぐりと開けた遺体と呼べるゾンビが三体。鑑定にかかった一人はランドという名の存在で、一振の錆びた剣と盾を装備していた。片や弓を装備した男のグールがおり、最後に黒の装束を着た杖持ちの女のグールが一人いる。
落とされた存在……では無いのだろう。
落ちて魔素を浴びたから魔物となった、もしくは自分達の力を試すために降りてきたとかか。だとしても、ランドという男のスキルレベルは高い。五なんて熟練者に当たる程のものだ。
元人である者達を殺す……確かに鑑定眼は有用ではあるが、知りたくない事まで教えてくれるみたいだ。死ぬ前の名前、その者から受け継がれているスキルなんて、戦士としては恥の上塗りでしかないだろ。
努力して得た結果が、亡くなり魔物と化した自身を証明するための道具と成り得るなんて……僕ならば絶対にゴメンだな。
「───ッ!」
少しだけ、右手に持つ剣が震えた気がした。
漏れた声、バレるのを恐れて押し殺したというのに三人の視界は僕に集まった。単体を潰すための連携の構え、なるほど……やはり、彼等は三人でパーティを組んでいたらしい。盾を構えるランドを前衛に二人は後方から得物を構えている。
「そうか……そう、なのか……」
これが同族を殺す事への恐怖なのだろう。
向かってくる、殺さなければいけない……覚悟を持てないのは殺人への抵抗だろうか。でも、死にたくは無い。死ねやしない。なのに、その右手は想定通りに前へと向かってはくれないんだ。
「力を、貸してくれるのか」
震えた気がした。同時に光が三人を包む。
破邪、アンデッドへの特効……なるほど、確かに慈悲深い阿弥陀様が僕に与えた訳だ。光の中で煙へと変わる三人は生前の姿、笑って僕を抱き締めたかと思うと天へと上って行った。
『救ってくれて───ありがとう』
カランという音、残されていたのは三つの魔石と各々の装備品だけだ。無情な世界、どうして居たのかは分からないけど……長い事、この場で苦しんでいたんだろうな。
全て回収した上で剣を鞘に戻して手を合わせる。
詳細は知らなくても最後の表情からして極楽に行けたと信じたいからね。というか、僕に剣を与えた事にも理由があるのなら、それくらいはして貰わないと困ってしまう。
もしも、この場に……そう考えてしまうのは僕だからなのか、それともアレクの意思だからなのかはよく分かりはしない。それでも、アレクのように落とされて囚われている者達がいるのならば救ってあげたいと思ってしまったんだ。
「アンタの……仕事じゃないのか」
剣を鞘に戻したけど……余計に怒りを覚えてしまう話だな。神様なら下々の人間を使わず共に極楽へ導くはずだ。教派が違うなら極楽か、それとも……なんて、阿呆な話だよ。
神様が封印した勇者の力、その役目を無理やりにでも果たせってか。本当に馬鹿らしくて反吐が出て欠伸も出てしまう……けど、そんな意地の悪い思想のせいで被害を受けてしまう者達が残ってしまうのも嫌な話だ。
痛みとは、味合わないと分からないもの……それを幸福に過ごしながら落ちていった僕が言うのはおかしな話だ。封印をかけられた哀れなアレクこそがそう語るべき……でも、今の僕もまたアレクだろうからな。
天井に中指を立てて、ただ笑ってやった。
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