005 俗物と幸福と、それから陰鬱
そこから数日……三日程は経っただろうか。
神に中指を立てたせいか、未だにオーガから肉は落ちていない。当たり前の事ではあるけど、腐肉であるアンデッド系統は以ての外、落としたりはしなかった。確定で魔石と装備品を落としはするが、それだって気分の良いものでは無いからな。
まぁ……これらは家族に返してあげるつもりだ。
鑑定眼は悪い要素を伝えてくるのと同時に、持ち主の事まで簡単に教えてくれる。どの町に、どの名前でなんて教えてくれるのは有り難い話だ。その位置が転々としているのは玉に瑕だが。
「ステータス」
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〇名前:アレク【ササキ リョウタ】
〇年齢:7
〇職業:無職【封印:勇者LV1】
〇レベル:1【5050/1000】
〇HP 200/200
〇MP 208/350
〇STR 125
〇VIT 125
〇DEX 45
〇INT 35
〇MEN 55
〇SPD 710
〇LUK 100
〇固有スキル
【阿弥陀籤】【レベル一の呪】【ステータス詳細】【鑑定眼】【身体強化LV1】【自動回復:魔力】【自動回復:体力】【マップ】
〇スキル
【一覧を表示する】
〇魔法
【一覧を表示する】
〇STポイント:0
〇SKポイント:0
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とはいえ、成果は数値となって明確に出ている。
STポイントに関しては全てを速度に流している手前、大して強くなったようには見えないが……まぁ、悪くはない結果だろう。ここまで行けばハイグール相手には中距離から破邪を扱え、オーガ相手ならヒットアンドアウェイを行える程度には強くなっているからな。
ってか、これでようやく余裕になったくらいだ。
少し前までは逃げの一手を選びながら敵が隙を見せた中を進むしかない日々だったんだ。倒した数は累計で百を超えるだろうけど……如何せん、オーガを倒して千五百、ハイグールを倒して千二百では大した経験値にもなりはしない。
まぁ、阿弥陀籤のおかげで振っていない箇所に関しても数値は上がってくれている。そういう点ではかなり良い感じ……ではあるけど、何故だかレベルアップに必要な経験値数が一桁分だけ増えたんだよなぁ。
多分、レベルは1のままだけど、内部的には百を超えたんだと思う。何回、上げたかまでは数えていないが感覚的にそれくらいだろうからね。実際、桁が増えてからはレベルを上げてはいない。回復リソースを減らして後で困るは嫌だし、何よりまだ今いる階層の探索すら済んでいないんだ。
視界の隅にある小さな地図、新しく得た固有スキルのマップだ。名前の通り、歩いた箇所をマッピングしてくれるだけの能力だけど……存外これのおかげで迷わずに済んでいる。
昨日、進んだ道とは違う道を、今日はこっちをなんて続けていたけど……本当に終わりが見えない話だよ。今日だって五、六時間は歩いたが新しいルートを見付けたのと潰せたルートとでどっこいどっこいって感じだ。
「さてと、ようやく帰って来れたな」
最短距離で十分、行きの中で魔物の大半は倒していたから戦闘はせずに済んだ。見慣れた扉、その先にあるのはマイホーム……もとい、一つのテントだ。
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UR魔道具【異次元テント】
ボタン一つで伸縮が可能なテント。大きさは一人用ではあるが六人まで居住が可能。外敵からの攻撃に対してSTR、INT100000までなら耐久可能。
所有者:アレク
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そんな説明と共に出てきた真っ赤なテント。
これもまた阿弥陀籤から出てきた道具だ。レアリティがある時点で死ぬ程、俗物っぽさが上がったけど使い勝手は驚く程に良かった。
入った瞬間、見える景色は八畳程度の居間。真ん中には大きなテーブルと六つの椅子が並び、その周囲には八つの扉がある。
入口付近の三つ対となっている箇所は六畳程度の居室とトイレ、小さな風呂場がある。ホテルみたいな居室だけどベットは大きいし、小さな冷蔵庫があるのはポイントが高い。初日は石の床で寝ていたから腰がバキバキだったけど、今はおかげさまで快適に過ごせている。
で、入口の反対側にある二つ扉の先はキッチンと風呂場だ。キッチンは言わずもがな、家庭用の空間でIHとガスが二つずつ取り付けられている。近場には捨てた次の日には物が消えるゴミ箱や肉や野菜が詰まった大きな冷蔵庫、それと調味料まで完備されている。
風呂場は大浴場、何故だか、男性用と女性用で暖簾がかかっているし、奥に行けば大きなトイレまで付いている異質さだ。中も泳げるくらいに広いから……僕一人では余らせてしまう。
そんな最高の空間ではあるけど……まぁ、その動力源は入口の横にあるブレーカーだ。魔石を入れる事によって全てが作動する仕組みで、今はオーガの物を入れている。鑑定眼で見たら、これだけで掃除も手入れも不必要になるらしいから……当分の食料問題も解決したと言っていい。
代わりに、帰るためのモチベーションが下がってしまったけど……いや、いいか。考え過ぎても頭が痛くなるだけで良い事なんて少ないし。とりあえず今日も飯を食って風呂に入って寝るだけ。
「で……何を食べるか、それが問題だ」
開いた冷蔵庫には多くの食料が詰まっていた。
観音開きの一番上の扉には肉や魚、卵なんかが詰まっているし、中間層には野菜が、最下層には氷やチンするだけで食べられる市販の食料なんかが入っている。
「本格炒め炒飯……これにするか」
近くの棚から皿を取って盛り付ける。
賞味期限は……2020年と書かれているがよく分からない話だ。現に今って何年なのか、というか、日本の尺度と異世界の尺度が同じなのかもよく分からないし。
とはいえ、この冷蔵庫も有能だからな。中に手を入れたら分かるけど物に触れるまでは動いたりしないんだ。要はテントと同じ要領で魔石が効いている限りは中の物が腐ったりはしない。空間魔法が付与されている魔道具らしい。
横にある電子レンジもそう、入れてボタンを押すだけで必要な処置を全て行ってくれる優れ物。ズボラな僕にもピッタリな魔道具だ。……日本にいた時なんて三分三十秒を何故か六分にして爆発させたくらいだし。
「お、出来た出来た」
思い出に耽りそうな僕をチーンという音が戻してくれた。湯気が立っていて香る匂いは嗅ぎ慣れたものだ。それだけで美味いと確信させてくれる。
スプーンを刺して、コップに水を入れたら夕食の完成だ。ここにネギを散らしたら尚良し……まぁ、面倒だからしないけど。
「いただきます」
広い居間で炒飯に手を付ける。
美味い……けど、静か過ぎて少しだけ精神的に良くないな。テレビでもあれば話も変わるんだろうけど有ったところで番組なんてものがあるとも思えないから無意味か。
「ご馳走様でした」
腹の虫は収まった事だし、後は洗って風呂に入るだけ……なんというか、魔物と戦うみたいな非現実的な事を除けば、日本にいた時の休日みたいで悪くないな。まぁ、半年近く、そんなものは来なかったんだけど……はははは。
あー、虚しいな。やっぱり、亮太の頃の話は思い出すだけ毒だ。広い脱衣場に掛け湯、銭湯タイプの六つの洗い場、こうして足を広げて入れる風呂は端的に言って幸福だろう。……水が滴り落ちる音が響く世界は精神的に良いものとは言えなさそうだけど。
「はぁ……こんな日々が続くのかな」
明日の事は明日になってから考えよう、うん。
ふかふかの布団、まるで僕を待っていたかのような暖かい感覚だ。きっと、このまま……そう、幸福を味わえたのならどれだけ楽だろうか。あの時のような、幸せを味わえるだけの毎日ならば……。
◇◇◇
「お前さぁ……また、突っ込んだな……!」
「メンゴメンゴ。でも、そのおかげで勝っただろ」
「あんまり、言いたくねぇけど、結果論だ。そもそもそだな───」
永遠と続く言葉、パソコンに映っているのは中学の時以来の友人とランクマッチで一位を目指して頑張ったFPSの画面だ。世界ランキングで一位と二位を取るなんて馬鹿みたいな目標を立てて……世界王者や上位勢を差し置いて成し遂げたっけ。
シーズン21、悪魔の世代と言われた時代だ。
多くのグリッチやチーターが蔓延る中、ランクのポイントを容易に減らせる空間で狙われたのは、有名な配信者や上位勢の者達だった。その中で成し遂げた一位と二位は、トリオが普通のゲームでデュオ専であった僕達の首を締め続けたんだ。
『きっと、グリッチだよ』
『チーターと一緒で何が』
心無い声、でも、辞めた僕とは反対にアイツは続けてみせたんだ。結果として、今ではプロのゲーマーとしてチームに所属している。そのゲームの、近しいゲームですら、アイツの名前が知れ渡る程となっていた。
『───って! あの───さんですか!?』
どのゲームをやっても嫌な声がかかった。
どれだけ成果をあげても、どれだけ一人で努力しようとも……かけられる声はアイツのお飾り。幼い時に感じたものと少しも変わりなかったんだ。だから、僕は嫌になってゲームの無い世界を……。
◇◇◇
「きゃああああ!」
目覚めの悪い声、同時に聞こえたのは何かが潰れたようなグチャリという嫌な音だった。飛び起きたのはきっと……夢のせいではない。言い訳をするように僕はテントから外へと出た。
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