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002 レベルアップは……しないようです

 レベルが1に上がる……矛盾した話だ。

 元のレベルが1、だというのに、1に上がっているという言葉は不自然だろう。だけど、その表示の通りにレベルアップで得られる恩恵……全回復が確かに行われていた。


 起き上がってみたが痛みはなく、開いたステータスでもHPとMPは全回復している。とはいえ、ステータスの数値やレベルに関しては、やはり上昇はしていない。


【STポイントとSKポイントを5獲得しました】


 ステータス画面の上に現れたウィンドウ。

 確かにステータス詳細を手に入れてから追加された内容の中に、よく分からない二つのポイントがあった事は覚えている。……まぁ、ウィンドウが現れてすぐに説明が頭の中に入ってきたから思い出す必要も無いんだけどさ。


 至れり尽くせり、その言葉に限ってしまう。

 STはステータスの略、SKはスキルの略みたいだ。つまり、ステータスポイントとスキルポイント、この二つを使って好きなステータスやスキルのレベル上げを行えるらしい。


「知識通り、幸運は上がらない、と」


 特権として、そんな力があったなら嬉しかったんだけどな。幸運値の上限は百らしいから上げられれば、より大きな恩恵があってもおかしくはないもののはずだ。ただ、出来ないとなると……高々、5で何か変わるか?


 こういう時は何かあった時用に速度、つまりSPDを上げるべきだな。レベルアップを続けて速度だけ上げていけば逃げられる確率も高まるし、ヒットアンドアウェイなんて戦法も取れるようになる。


 して、問題はスキルポイントをどこに振るかって話だ。一覧を表示するを押したら無限に箇条書きでスキルが現れたからね。どれもレベル1、その横には手にした経験値も書かれている。均等に百以上の経験値を得ているのは、呪から逃れるために努力した証なのだろう。


 中でも、父親のためにと振るい続けていた剣術は経験値が千を超えていた。魔法だって母親のためにと努力していたのだろう。母が得意としている火魔法と水魔法の経験値も千を超えている。


「不出来な息子でごめんよ」


 剣術を押すと詳細が現れた。


 ______________________

 スキル【剣術LV1】【1095/100】

 属性:剣を使用する際に以下の補正を受ける。

 ・剣技の消費MPを1%減少。

 ・STR、VITに1%の補正。

 ・ダメージを1%上昇。

 ______________________


 すぐに名前をもう一度押すと同じく【レベルを上昇させますか】とのウィンドウが現れる。小さく深呼吸をして押すと等しく【剣術LV1がLV1に上昇しました】という意味不明な言葉が現れた。


 レベルとは違い、体への変化はない。ただ、開きっぱなしの剣術の詳細に関しては文言が確かに変わっている。


 ______________________

 スキル【剣術LV1】【995/100】

 属性:剣を使用する際に以下の補正を受ける。

 ・剣技の消費MPを2%減少。

 ・STR、VITに2%の補正。

 ・ダメージを2%上昇。

 ______________________


 つまり、レベルアップはしない代わりに補正効果が1%ずつ増加してくれる……って、ちょっと待ってくれ。最高レベルの10は両親から見せてもらったけど、そこまでの補正ってかかっていたのか。


 いや、というか……レベルに関しても同じか。

 父さんも母さんも、冒険者を辞めた一番の理由がレベル99の壁を越えられなかった事。人外の域に達する者達は総じて、限界突破だとかいう固有スキルを手にしていたと酒を飲む度にボヤいていたっけか。


 剣術にポイントを振ってみる。

 残りは千……次の上昇値に関しても変わりなく百のままとなれば、上限突破の11に上がるかどうか。なんて、思ったけど存外と簡単に補正11%という壁を乗り越えてくれた。


 深呼吸をしたが、心臓の高鳴りは止まらない。

 新しいゲームを与えられ没頭する幼い時に感じる楽しい毎日、それ以外の楽しみを忘れてしまうような最高の感覚だ。働く前ならば友達と一緒に寝る間を惜しんでネットゲームに身を任せる日々だった。でも、それも社会という悪しき世界に殺されてしまった。


 これが本当なら魔法だってきっと……いいや、これは後回しにしておこう。今は他の事を試したい、いいや、知りたいという気持ちの方が強いか。阿弥陀籤……よりはアレクを追い詰めた能力を知る方が先だよな。


 ______________________

 固有スキル【レベル1の呪】

 全てのレベルを1に固定する。神からの試練の一つ。一定の条件を満たす事で解呪可能。

 ______________________


 要するに、アレクは神の試練に打ち勝てなかった……なんて、阿弥陀様が聞いたらどう思うのか。いや、それを望んでいたとなればとんだ二枚舌、三枚舌だな。顔の皮を剥いだら残るのはイエスキリストなのかもしれない。とはいえ……。




「恨むぞ。お前が救わなかった僕を、な」


 それくらいは吐いたところで問題ないだろ。

 もしも、その対象が僕であったならば、いいや、記憶が残っているからこそ、質が悪い。恨みだけで終わっていないのは僕という不純物が混ざっている影響だろう。


 さて、本題に戻ろうか。神がどうこうなどと口にしていたところで出られる訳では無い。ニヤけが止まらないのは斯くも分かりやすく僕の思い通りの効果が並んでいるだけだ。それに……今はメインに取っておいたスキルの確認が先だろう。


 ______________________

 固有スキル【阿弥陀籤】

 神からの慈悲。レベル上昇につき、一度ずつ籤を引けるようになる。【残り回数:1】

 ______________________


 詳細……じゃないよな、これでは。

 神からの慈悲、ね……はぁ、突っ込んでいても馬鹿らしくなってくるし、やめよう。説明からして再度、引く事が出来るのであれば今は使ってから先の事を考えたい。


「五色、ここは変わらないのか」


 次は別の色を……とは考えたけど、今はスキルの説明自体も不足しているからなぁ。これもまた賭けではあるが一先ずは同じ色を引き続けてみた方が面白そうだ。実際、レベルが上がったら引ける回数が増えるのは分かっている。今回の分も含めて残り八回は引ける、といったところか。


 ______________________

【赤の加護】

 神からの加護。HP、MP、STR、VIT、SPDを100ずつ増加させる。所得時、自動発動。

 ______________________


 なるほど、そういったものも手に入る可能性があるのか。一応、ステータスも確認してみたが言葉通りに数値が増加していた。不思議と体が軽くなった気がするけど……まぁ、気のせいでは無いんだろうな。


 ただ、これのせいでレベルアップは絶対に必要となってしまった。確かに数値は上昇したがHPとMPは回復している訳ではない。そこら辺は回復を待つよりも恩恵を受けた方が楽だろう。とはいえ、次の阿弥陀籤の結果次第では先に進まないといけなくなりそうだな。


 レベルアップの恩恵、それも自分の好きな時に出来るとなれば、自由に全回復が出来る力を持っていると言ってもいいんだ。回復のためなら使いはするが、阿弥陀籤のためだけなら無駄には回せない。もちろん、籤は同じく赤を引かせてもらう。


 ______________________

 SR武器【破邪の片手剣】

 スキル【破邪】が付与された剣。アンデッド属性の魔物に対して強力な効果を発揮する。所有者のSTR、SPDに300の補正をかける。

 ______________________


 一本の片手剣、鞘に収まったままとはいえ、目の前に実物が現れるとさすがに驚いてしまう。いやいや、これこそがファンタジーか。俗物らしいレアリティらしきものが書かれているが……まぁ、今はどうでもいいや。


 ベルトを腰に回して剣を差す。当然の事ながら重たい……が、ステータスが増加しているおかげで動けない程ではない。少しだけ怖い要素はあるけど、待っていたところで得られるものも無いだろうからな。


「行く、か」


 視界の中にあった鉄製の扉、忘れかけていたがアレクが落とされたのはダンジョンの穴の中だ。誰一人として降りた事のないゴミ捨て場……幾ら入れても処理される事から暴食の大穴、奈落なんて物騒な名前が付けられているらしい。


 となれば、この先は未知の世界。

 それも上のダンジョンと同じく魔物が跋扈する世界なのだろう。なぜだろうか、そう考えると驚く程に胸が高鳴ってくる。無能だなんだと言われ続けるだけで、有り触れた娯楽を暇潰しに消費する世界では僕の視界も同じく色褪せていたんだ。


 でも、今は違う。死ぬかもしれない、殺さなければ生き残れない……生き残れたならば、より楽しい何かがあるかもしれないと思うと楽しみ過ぎて笑えてしまう。


 想像以上に軽い扉を静かに押して、先へと足を進めた。

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