001 阿弥陀籤
土煙の香り、先の見えない暗闇……その世界は僕には知らないものだ。いいや、知らないというのは少しばかり違うのかもしれない。僕が知らないだけで───この体の持ち主であるアレクは知っているのだ。
「っつぅ! はぁ……!」
軋む体、痛いのも当然だ。この四肢は既に折れていて体を起こすのだってギリギリな程に弱ってしまっている。まぁ、それもこれも空の先、闇を抜けた大穴から落とされた事が原因なんだけど。
『呪持ち……!?』
五歳の鑑定の儀式、ステータスを与えられた僕が知ったのは───世界は残酷であるという事だった。
職業も無く、スキルも無く、才能も無い。果ては【レベル一の呪】という固有スキル……名前の通り、レベルを持つ全ての数値を上昇させないというものだ。
これのせいで、手にしたスキルも魔法も、僕自身のレベルすら一から上がりはしない。それでも尚……こうして死んでいないのもまた、手にしてくれていたスキルのおかげだった。
「回復……はぁ、この程度か」
光魔法……そう聞けば多くの者は驚くだろう。だって、それは神に祈りを捧げる者達がようやく手に出来る、神官特有の魔法の一つなんだ。でも、僕に出来る事と言えば、こうして痛みを無くす程度、治すという程の力は持ってはいない。
「よりにもよって、転生先が死にかけとはね」
アレクの知識、それのおかげで見えていた。
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〇名前:アレク【ササキ リョウタ】
〇年齢:7
〇職業:無職【封印:勇者LV1】
〇レベル:1【850/100】
〇HP 5/100
〇MP 10/100
〇STR 5
〇VIT 5
〇DEX 5
〇INT 5
〇MEN 5
〇SPD 5
〇LUK 100
〇固有スキル
【阿弥陀籤】【レベル一の呪】【ステータス詳細】
〇スキル
【一覧を表示する】
〇魔法
【一覧を表示する】
〇スキルポイント:0
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所謂、ステータスというものだ。
本来であれば、鑑定の儀式を受けた時に職業を与えられる事となっていたというのに……やっぱり、記憶違いなんてオチにはなりそうもない。幸運を指すLUKを除いた全てが5、平均で100と考えたら低いってレベルでは無い。
名前の横にある【ササキ リョウタ】の文字。
頭を打った衝撃なのか、それとも他に理由があるのかは分からないが……前世の僕の名前が映っている事だけは分かっている。佐々木亮太、ただのしがない日本人だった頃の僕の名前だ。
「すごく、不思議な感覚だな……」
自我として話すならば今の僕は亮太の方だ。
だけど、体や記憶、感情に関して言えば、どちらも少しばかり曖昧な部分は多くあるけど……アレクの方が強いと言っていい。まぁ、家族と呼べる家族も既に居なかったからな。働いて、帰ったらゲームして寝るだけだった僕からすれば、感情なんてとっくの昔に死んでいたのだろう。
『ごめん……ごめんな! こんな事なら受けさせなければよかった!』
アレクの両親は元Aランク冒険者だった二人だ。
Gランクから始まり、SSSランクで終わる冒険者ランクの中でのAランクは人外一歩手前、上から四番目の人達だからね。その二人の子供となれば期待だってされるのも当然の事だ。
だからこそ、アレクは───
『いつからか、僕の目から彩りが失われた』
覚えている、全てがどうでもよくなった。
親の期待に応えるために続けた努力も、低いステータスを察しながら倒した魔物の事も……そのどれもが否定された気がしたんだ。その感覚は程度の違いがあれども僕だって知っている。
『本当に仕事が出来ないんだな』
吐き捨てられるような言葉、同期が出世していく中で置いていかれているような感覚。世渡り上手なんて聞こえの良い言葉は、他者を蹴落とす事が上手な者達を指していた。嫌いな人間程、結婚したり、転職をして幸福になっていく中で、亮太は進めずに止まっていたんだ。
朝七時に家を出て、夜の八時に帰る毎日。
金なら多くあった。働いても働いても使う時間がなかったからな。昔はあれだけ楽しんでやっていたゲームも社会に出てからは面白く感じなくなって、ただの時間を潰すための作業となっていたんだ。アニメも漫画も小説も、全てが脳を通過するだけの毎日は……身勝手かもしれないが似ているように感じられてしまう。
「消えたいとは思っても、死にたいとは思えないよな」
この世界から居なくなれたなら……そんな願いは湧いてきても死ぬイメージは湧かなかった。そうしようとした一歩手前で絶対に留まってしまう。少なくとも僕は、あの高い壁を乗り越える事は出来なかった。
「阿弥陀籤、か……」
元のアレクには無かった固有スキル。
この世界にはいない神様の名前を見て漏れ出してしまったのは皮肉の笑いだった。阿弥陀籤なんて幼い頃以来、やってはいなかったし、その阿弥陀様が助けてくれなかった二人が今の僕だ。今更と助けてくれたとして信仰心が湧く訳も無い。
ただ、今の僕は死にかけ。願わくば……。
未だに生に縋っているだけなのかもしれない。まぁ、転生してすぐに死んでしまうなんて誰だって嫌だからね。もし、本当に助けて貰えるのであれば喜んで願ってやるよ。能力の詳細も知らなければ、呪いの内容だって分かりはしない……でも、救われるのであれば……。
「……なんだ、これ」
阿弥陀籤を使う事は出来た……んだよな?
ポワポワと淡い光が漏れ、目の前にはリトマス紙のような五色の先が宙に浮かんでいた。青・黄・赤・白・黒の五色の先は雲のような何かがかかっており、先は分からないが……確かに阿弥陀籤というには打って付けなのかもしれない。
もしも、先にあるものが僕の知る知識と同じなのであれば由来は仏教の五色だろう。それを前提とするならば各色にも意味があるのだろうか。何となく、助かりたいのであれば白を選ぶべきな気もするけど……いいや、こういう時は感覚に頼った方がいい。
「赤にするか」
好きな色……まぁ、特別好きな訳では無いけど選ぶ理由としては十分だろう。何回引けるかとか、引けたら何があるのかとか……気になる事は多くある。でも、知る方法が無いのであればやってみるしかないだろ。
手に取った。感触は無いと言っていい。
無いのに有る……すごく不思議な感覚だ。同時に色素が染み込んでいくかのように下へと赤が続いていく。雲を抜け、侵食して行った先、何度も何度も右に行ったり左に行ったりを繰り返した先にあった言葉は───
「ステータス詳細……?」
意味の分からない……いいや、言葉通りのスキルなのかもしれない。ボヤァとスキル名が光ったかと思うと阿弥陀籤が見せていた景色が消えたからね。それと同時に頭の中にスキルの内容が入ってきた。
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固有スキル【ステータス詳細】(NEW)
ステータス内に記述されていない詳細を知る事ができる。
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ステータス画面に現れたのは端的な説明だった。
だけど、能力に関しては文字ではなくイメージとして知る事が出来た。いいや、このスキルが教えてくれたというべきだろう。それは他の能力に関しても同じだ。……ただ今は先にやるべき事がある。
「ステータス」
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〇名前:アレク【ササキ リョウタ】
〇年齢:7
〇職業:無職【封印:勇者LV1】
〇レベル:1【850/100】
〇HP 5/100
〇MP 100/100
〇STR 5
〇VIT 5
〇DEX 5
〇INT 5
〇MEN 5
〇SPD 5
〇LUK 100
〇固有スキル
【阿弥陀籤】【レベル一の呪】【ステータス詳細】
〇スキル
【一覧を表示する】
〇魔法
【一覧を表示する】
〇STポイント:0
〇SKポイント:0
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教えられた通り、確かに詳細が表示されていた。
このスキルが表示するのはステータスに関する全ての情報、つまりは他のスキルの詳細であったり、現在所持している経験値とかも視覚的に教えてくれる。でも、本領はそこではない。
予想通り、アレクの所持経験値はレベルアップのための基準を満たしていた。普通であれば自動でレベルアップ処理が行われるであろう所を、呪の影響で出来なくさせられている。だから、どれだけ努力をしたところで成果を得られないんだ。
まぁ、不穏な【封印:勇者】という文字からして何となくの予想は着くけど……もしも、与えられたイメージ通りの力が、このスキルにあるとしたのならば……。
レベルの横の経験値に指を当ててみる。
ポンと画面が切り替わって現れた言葉は【レベルを上昇させますか】という無機質な言葉だった。心臓が確かに跳ねた。本当に出来るのか半信半疑な思いはある。静かにボタンを一度、押し直した。
【レベルが1に上昇しました】
そんな意味不明な言葉が視界の中に残っていた。
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