休む調理場
【本文】
調理担当の一人が包丁で指を切った。
深い傷ではない。だが原因は連続勤務による注意力低下だった。食事は毎日必要なため、調理場だけは止められないという空気が生まれていた。
美和は翌日の昼食を、火を使う献立から保存パンと温かいスープへ変えた。作業を減らし、調理担当の半数を休ませる。
避難者から食事が簡素だという声が出る。千鶴は怪我と勤務時間を公開し、手抜きではなく明日の調理を続けるためだと説明した。
新しい手伝いを募集し、衛生講習を二回行う。包丁を使わない配膳、食器回収、床清掃なら、短い訓練で交代できる。
ゴーレムも鍋を運べるが、味や加熱状態は判断できない。人間の休息を機械だけで埋めることはできなかった。
指を切った担当者は治療後、休むことを謝った。
美和は謝罪欄ではなく、次の勤務可能日だけを表へ書く。
調理場は一日だけ仕事を減らし、翌朝も湯気を上げた。
休む担当者の分を残った人だけへ上乗せしないよう、一日に作る品数も減らした。豪華さを保って人を減らせば、別の誰かが倒れる。スープは大鍋一つにし、切る野菜も少ない種類へ変える。栄養量は環が確認し、足りない分は保存食で補う。簡素な献立にも、減らしてはいけない線があった。
講習では、手洗いだけでなく発熱、下痢、指の傷がある日は調理へ入らないことを伝えた。人手不足でも例外にしない。
包丁を使う人は一時間ごとに交代し、疲労を感じる前でも予定どおり手を止める。
休憩表には食事と睡眠時間も記し、勤務していないだけの時間を休息とは数えないことにした。
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