味噌蔵の黒い声
【本文】
味噌蔵へ向かったのは、美和、文、安西、救助型ゴーレム二体だった。
岳の代わりに安西が護衛し、戦闘が必要なら撤退する。目的は在庫確認と所有者への連絡だった。
蔵の扉は無事だったが、内部から人の話し声が聞こえる。開けると誰もおらず、黒い根が味噌樽へ絡んでいた。
根は家族の会話を繰り返している。仕込みの日、子どもの笑い声、先代から教わった手順。侵食は恐怖や死だけでなく、場所に残った日常の記憶まで吸っていた。
文が根へ触れようとするのを安西が止める。モモがいないため、安全に切り離す方法がない。
美和は汚染されていない別棟の在庫を探した。塩六袋、未開封の味噌樽二つ、醤油箱。帳簿と所有者名も残っている。
無線で所有者へ連絡し、避難先から搬出許可を得た。代わりに味噌蔵の現状と、回収しなかった樽の位置を伝える。
黒い根に絡まれた樽は置いていく。
文は、いつか戻って仕込みの声ごと取り戻すと帳簿へ書いた。
食べ物だけでなく、作り続けてきた記憶も蔵の中に残されていた。
別棟の床には、崩れた棚と割れた瓶が散らばっていた。ゴーレムが先に入っても、ガラスを踏めば荷台へ破片を持ち込む。美和と文は入口から一本ずつ拾い、通路を作った。安西は黒い根の声を録音したが、誰の記憶か推測で名前を付けなかった。所有者へ渡す記録には、聞こえた言葉だけをそのまま残した。
回収箱へは味噌蔵の名と搬出許可番号を付けた。避難所の在庫へ混ぜても、どこから来た物か追えるようにする。
帰路では一袋ずつ重量を読み上げ、到着した千鶴が帳簿と照合した。
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