食べられない箱
【本文】
倉庫から運び出した食料のうち、冷蔵品の三割は使えなかった。
見た目に異常がなくても、停電中の温度履歴が分からない。小春の《状態観測》は腐敗の兆候を示せるが、全ての菌や毒素を保証できない。
千鶴は疑わしい箱を廃棄区画へ分けた。
「食べ物を捨てるのか」
避難者の一人が反発した。十五日分しかないと知らされている。加熱すれば食べられると主張する人もいた。
環は、加熱で消えない毒素もあると説明した。安全を証明できない食料を、足りないからという理由で子どもや患者へ出せない。
廃棄する箱は写真、品名、温度、数量を記録する。迷宮の炉へ入れて燃料化できる物と、汚染として隔離する物を分けた。
モモが一つの箱へ近づき、すぐ離れた。体内の金色が濁る。人には見えない侵食まで混じっていた。
食べられない三割を除いても、米と保存食で十二日分を追加できる。
千鶴は増えた日数だけでなく、捨てた理由も配給所へ掲示した。
不足を隠さないことと、危険な物まで使うことは違っていた。
廃棄区画へ運ぶ際も、食用の搬送路を使わなかった。汚染箱へ赤い布を巻き、触れたゴーレムは炉へ戻す前に洗浄する。廃棄担当には手袋とマスクを配り、作業後の体調も小春が確認した。食べないと決めた瞬間から安全になるわけではない。危険物として最後まで管理して、初めて食卓から切り離せる。
記録を見た避難者は、廃棄した箱を勝手に持ち出さないと確認書へ署名した。説明と封鎖の両方が必要だった。
炉へ運んだ廃棄物の重量と得られた熱量も記録し、食料を燃やして得をしたような表示は消した。
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