地下で生まれる
【本文】
第七迷宮に分娩室はない。
臨時病床の一角を布で仕切り、照明と温水、清潔な器具を集める。ネーヴェは近づかず、必要な糸と保温だけを小春へ渡した。
妊婦は迷宮の姿が見えるたび不安を訴えた。由香は安全だと断言せず、自分と助産師がそばを離れないこと、異常があれば病院側の医師へ連絡できることを伝える。
湊たちは区画の外へ出た。能力があっても、全員で見守る必要はない。
三時間後、産声が地下へ響いた。
世界の声が即座に反応する。
『新規生命体を確認。陣営登録を――』
モモが空欄報酬を広げ、通知を遮った。生まれたばかりの子へ、本人が選べない陣営を付けさせない。
母子の状態は安定している。体温、呼吸、出血を確認し、出生時刻と場所を紙へ記録した。
父親は別の避難所にいることが分かった。通信が繋がり、声だけで最初の泣き声を聞く。
避難者数は百四十七人になった。
数字が一つ増えたのではない。名前を決める家族と、明日も必要なミルクと、眠る場所が一つ増えた。
臨時の分娩室では、器具の数も人手も足りなかった。助産師は必要な物を短い言葉で一つずつ求め、由香が復唱する。小春は状態観測で見えた変化を勝手に診断名へ変えず、数値と位置だけを伝えた。ネーヴェの白い糸も、人間の処置を置き換えず、出血位置を照らす印として使われた。
出生後に使った器具と布は他の患者から分け、洗浄と廃棄の箱を作った。出産が終わっても感染管理は続く。
母親が休めるまで、新生児の体温と呼吸を由香が十五分ごとに測り、助産師へ復唱した。
夜明けまで見守った。
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