病床を作る
【本文】
迷宮の床へ寝台を置くだけでは、病床にならなかった。
手洗い、清潔な水、照明、酸素、薬品、汚物処理、看護師が通れる幅。環は必要項目を二十七に分けた。
収容上限は百五十人。患者を十人増やせば生活区画が狭くなる。湊は第七迷宮のモンスター治療室を奪わず、隣の未使用区画を広げる。
ポイントが足りない部分は地上設備で補った。学校の保健室から折り畳みベッドを借り、給食センターの手洗い器を移す。ベルクの炉で点滴台を作り、冷却粘体が薬の保冷箱を守る。
三崎由香を含む看護師二名と医師一名が、最初の患者五名を連れて入った。入口で陣営登録を保留し、氏名、病名、薬、家族の連絡先を確認する。
最初の患者は、病院の騒音で眠れなかった高齢男性だった。地下の静けさを怖がり、地上へ戻りたいと言う。
窓はない。佳乃が時計と日付、地上の天気を書いた掲示板を置いた。由香は二時間ごとの処置予定を説明する。
夜、五人全員の状態が安定した。
臨時病床は完成ではない。患者が不安を言え、必要な治療を続けられたことで、ようやく使い始められた。
臨時病床と生活区画の間には二重扉を作った。患者の感染症を避難所へ広げず、避難所の騒音や埃を病床へ入れないためだ。面会場所も扉の外に設け、家族へ患者の状態を伝える時間を決める。会えない不安を放置すれば、無断で区画へ入る人が出る。規則は締め出す壁ではなく、安全に会う道として説明された。
患者の持ち物にも番号を付けた。薬、眼鏡、補聴器を移送時に失えば、病状が安定しても生活できない。
確認欄も加えた。
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