夜勤看護師の記録
【本文】
看護師の三崎由香は、夜勤が終わる時刻を十二時間過ぎても病院にいた。
帰る道路は塞がれ、交代要員も来ない。患者は増え続け、廊下の照明は半分消えている。
消防士に連れられた高校生が、酸素配管の異常箇所を次々に言い当てた。信じる余裕はなかった。正しいなら使う。それだけだった。
由香は酸素依存度の高い患者から一覧を渡す。人工呼吸器、重症肺炎、手術直後。全員を同じ流量にはできない。
小春という少女は、患者を数字だけで見なかった。名前を読み、意識と呼吸を一人ずつ確かめ、減らせる流量を医師へ確認する。
地下から半透明の生き物が現れ、予備ボンベを運んだ。由香は驚いたが、逃げなかった。ボンベの番号と圧力を確認し、受領時刻を記録する。
午前十一時、警報音が一つ消えた。
酸素供給は正常ではない。最低限へ戻っただけだ。それでも手動換気を続けていた看護師一人が、ようやく水を飲めた。
由香は記録用紙へ、高校生の名と処置内容を書いた。
後で誰かが奇跡と呼んでも、そこに運び、測り、判断した人間がいたことを消さないためだった。
由香の記録には、残っている看護師の勤務時間も加えられた。眠らず働くことを美談にすれば、次の投薬で量を間違える。休憩できる者を一人ずつ決め、地域網から来た佳乃が受付と家族連絡を引き受けた。資格が必要な処置は代われなくても、看護師でなくてよい仕事を分ければ、専門家を休ませられる。
休憩へ入った看護師の代わりに、由香は担当患者を一人ずつ引き継いだ。名前のない交代は作らなかった。
その時刻も残した。
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