日常の外側
【本文】
世界公開から四十八時間が経過した。
地域隔離網の避難者は百四十一人。人間の設備を追加して収容上限は百五十人まで伸びたが、食料、薬、燃料には限りがある。
県内の主要道路は七か所で寸断され、高速道路は軍の封鎖が続く。病院は非常電源へ移行し、給食センターと多くの店舗が停止した。
各国軍は指定人数を無視した突入で部隊を失い、重火器も核兵器も迷宮の保護規定に阻まれた。政府は人類陣営への参加を求め、中立者への圧力を強めている。
その一方、湊たちの地域では朝食が配られた。
文の芋が鍋へ入り、千鶴の献立表で量が決まり、冷却粘体が水を運ぶ。子どもたちは佳乃の周りで名前を書き、鉄平は壊れた換気扇を直している。
湊は第一迷宮の入口に立ち、地上から届く救助要請を一件ずつ地図へ移した。全てには向かえない。だから距離、怪我、人数、残る道を記録し、行ける班を割り当てる。
世界は二日で終わらなかった。
終わらないからこそ、今日の水と薬と食事を続けなければならない。
最後の点呼が終わる前に、北から正体不明の短い通信が届いた。
『隔離を理解する者へ。北海道は、まだ持ちこたえている』
北海道の通信には位置も発信者名もなかった。追跡されないため意図的に削った可能性がある。朔は返答を一文だけに絞る。《群馬、十基接続。破壊せず保守中》。送信は冷たい声に遮られたが、第十迷宮の台座が一度だけ金色に光った。届いた証拠はない。それでも孤立しているのが自分たちだけではないと分かった。
返信を試した時刻と台座の発光は通信台帳へ残された。いつか北海道側と繋がった時、最初の合図を照合するためだった。
(次話へ)




