桃色の囚人
【本文】
壁の一部には、目立たない継ぎ目があった。
岳が《荷重固定》で足場を固め、湊と朔がバールを差し込む。石板をずらすと、人ひとりが這って通れる穴が現れた。
奥は物置ほどの小部屋だった。床一面に黒い根が走り、中央の透明な器を締めつけている。器の中では、拳二つぶんほどの桃色の塊が弱々しく脈打っていた。
「生き物……だよね」
小春の《状態観測》には、瀕死を示す暗い赤が見えた。ただし人間とも、先ほどの黒い子獣とも表示が違う。
無線機から声がした。
『たすけて。いたい』
桃色の塊が震えるたび、同じ声が響く。
器を割る前に、湊は周囲を調べた。黒い根は壁の奥へ続き、青白い光を少しずつ吸い上げている。岳が一本を工具で挟むと、根が蛇のように腕へ巻きついた。
湊は鉄棒で根を叩き落とし、《分配》で岳の腕力を一瞬だけ朔へ移す。朔がバールを振り下ろし、器の蓋を割った。
桃色の塊が転がり出る。
根が一斉に伸びた。小春が消毒用アルコールを撒き、岳が発炎筒で火をつける。黒い根は甲高い音を立てて縮み、壁の隙間へ逃げ込んだ。
桃色の塊は湊の靴へ這い寄った。透き通った体の中に、針の先ほどの金色が浮いている。
敵意は感じなかったが、湊はすぐには触れず、小春の判断を待った。
『おなか、へった』
湊は非常食を探し、魚肉ソーセージを少し千切って置いた。塊は覆い被さるように取り込み、淡い光を放つ。
岳の腕の裂傷が、熱を持ったままゆっくり閉じ始めた。
小春が息を呑む。その横で桃色の塊は、空になった包装を名残惜しそうに揺らしていた。
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