帰還標
【本文】
岳は《荷重固定》、小春は《状態観測》、朔は《反響探査》を選んだ。
名称だけで決めた選択だったが、効果はすぐに現れた。岳が触れた工具箱は床へ根を張ったように動かなくなり、小春には三人の傷と疲労が色の濃淡で見えた。朔が壁を叩くと、通路の先に二つの空洞があると分かった。
「先へ行く状態じゃない。出口を探す」
小春の判断に異論はなかった。
四人が来た道を戻ると、階段は残っていた。しかし最上段には鉄扉ではなく、滑らかな黒い壁がある。押しても叩いても反応しない。時計は午前六時二十二分。予定時刻までは余裕があるが、岳の腕の出血が止まりきっていない。
湊が青い結晶を壁へ近づけると、新しい文字が浮かんだ。
『帰還条件未達成。守護核を制圧してください』
「あれが入口の番犬じゃなくて、ただの一匹だったってことか」
朔の声から冗談が消えた。
続いて湊だけに選択肢が現れる。《所有候補者追加報酬》。候補は《収納》《微光》《帰還標》だった。
湊は迷わず《帰還標》を選んだ。
掌へ白い点が灯る。壁へ触れると、今いる階段が標として登録された。目を閉じても方角と距離が分かる。通路が形を変えても、ここまでの道だけは見失わない確信があった。
そのとき、置いてきたはずの五台目の無線機が岳の工具袋から音を立てた。
誰も入れた覚えはない。
『……たす、けて』
幼い声だった。雑音に埋もれながら、同じ言葉を繰り返している。
反響探査を使った朔が、通路右側の壁を指した。
「向こうに、小さい空洞がある。何か動いてる」
帰るには守護核を倒さなければならない。それでも四人は、先に声の主を確かめることにした。
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