最初の未登録者
【本文】
学校入口へ来た二人は、近所に住む夫婦だった。
世界の声に起こされ、庭へ突然現れた黒い獣から逃げてきたという。夫の袖は裂け、前腕に浅い爪傷がある。湊は二人を人類陣営へ自動登録させないため、迷宮へ入る直前に空欄報酬の《選択保留》を広げた。
『地域隔離網への一時保護を確認』
冷たい声が不満そうに揺れたが、登録は止まった。
小春が夫を医療区画へ運ぶ。影獣の爪には黒い粒子が残り、普通の消毒だけでは消えない。モモが毒素だけを吸い、ネーヴェの糸で傷を閉じた。
妻は何が起きたのか説明を求めた。千鶴は分かっている事実と、まだ分からないことを分けて話す。安全を保証するとは言わなかった。ここにも百二十人という上限があり、食料は十八日分しかない。
それでも二人は、助けられたことより自宅に残した隣人を気にした。
「向かいのおばあさんは、一人で歩けません」
安西が住所を聞き、地上救助班の地図へ印を付ける。運搬型ゴーレム一体と消防士二名、岳が同行することになった。
未登録者欄の最初の二行へ夫婦の名が書かれる。
その下には、まだ会っていない高齢女性のための三行目が用意された。
登録時には氏名だけでなく、連絡先、持病、家族、最後にいた場所を確認した。混乱した夫婦へ同じ質問を繰り返さず、最初に聞いた担当者が紙へ残す。小春は傷の時刻と治療内容を加え、真理は捜索対象の老女を別の色で囲んだ。名簿は人数を数える表ではなく、離れた人を再び結ぶための地図へ変わっていった。
夫婦には腕輪と同じ番号の荷札を渡し、荷物だけが別区画へ運ばれても持ち主を探せるようにした。
(次話へ)




